慢性活動性EBウイルス感染症における治療標的分子を同定

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発症のメカニズムが不明の重篤な疾患に対する治療応用に期待

2018-08-06 国立大学法人 東京医科歯科大学,国立研究開発法人 日本医療研究開発機構

ポイント
  • 慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)でSTAT3が恒常的に活性化していることをつきとめました。
  • CAEBVの病態解明と新規治療法開発への応用が期待できます。

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科先端血液検査学分野の新井文子准教授の研究チームは、国立成育医療研究センター高度感染症診断部の今留謙一統括部長との共同研究で、稀な疾患である「慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)」患者さんのEBウイルスに感染したT細胞(※1)とNK細胞(※1)で、転写因子STAT3が恒常的に活性化していること、チロシンキナーゼJAKの阻害剤でその活性化を抑制するとそれらの細胞の生存とサイトカイン産生が抑制されることをつきとめました。この研究は日本医療研究開発機構の難治性疾患実用化研究事業「慢性活動性EBウイルス感染症を対象としたJAK1/2阻害剤ルキソリチニブの医師主導治験」の支援、ならびに松来未祐さん追悼イベント「39!未祐ちゃん」からのご寄付のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌Oncotargetに、2018年7月24日(米国東部時間)にオンライン版で発表されました。

研究の概要

CAEBVは、強い炎症が持続し、かつEBVに感染したT細胞、NK細胞が腫瘍化していく進行性の疾患で、これまで有効な治療薬はありませんでした。研究チームはCAEBVの患者さんのEBウイルスに感染したT,NK細胞では、STAT3という分子が強く活性化していることをつきとめました。さらに、この分子の活性化を抑えると、EBVに感染したT細胞、NK細胞が増えにくく、死にやすくなるとともに、炎症原因物質であるサイトカイン(※2)の産生が抑制されることも明らかにしました(図1)。つまり、STAT3の抑制作用を持つ薬剤は、CAEBVに見られる持続する炎症症状の改善と、EBV感染細胞の腫瘍化に対し効果をもたらすと期待されます。

図1

研究の背景

CAEBVは、EBウイルスが持続感染したT細胞あるいはNK細胞が、死ににくく、かつ増えやすくなるとともに、発熱や肝障害などの全身の炎症症状が持続し、経過中、悪性リンパ腫や血球貪食症候群を合併する重篤な疾患です。本邦での年間発症者数は約30人と希少疾患に位置づけられています。世界的には日本、韓国、中国東部などの東アジアに報告が集中し、その他の地域では極めて稀とされてきました。しかし、2017年にWHOの造血器腫瘍分類に記載されてから周知が進み、欧米での報告も徐々に増えています。

EBウイルスはほぼすべての成人が感染している、ごくありふれたウイルスです。ひとたびヒトに感染するとリンパ球の一つであるB細胞(※1)に潜伏感染し、一生排除されることはありません。しかし、EBウイルスが、なぜ、一部のヒトでは、B細胞以外のリンパ球であるT細胞やNK細胞へ持続感染し、CAEBV発症へ至るのか、そのメカニズムは十分解明されていません。また、CAEBVは化学療法の効果が乏しく、根治には造血幹細胞移植が必要で、有効な治療薬の開発は喫緊の課題です。

STAT3はヒトの細胞中にあるたんぱく質で、細胞の生存を促す一方で、炎症の発症に関与することが知られています。悪性リンパ腫も含めた複数の腫瘍細胞で常時、強く活性化(恒常的活性化、と言います)していることが報告されているため、この分子に注目して研究を行いました。

研究結果

研究チームは、CAEBVの細胞株とCAEBVの患者さんの細胞を用いて、EBVに感染したT細胞およびNK細胞ではSTAT3の恒常的活性化を認めることを見出しました(図2)。

図2 活性化したSTAT3を持つ細胞を赤に、EBウイルスに感染した細胞を緑に染めた実験です。青は細胞の核を示しています。CAEBV患者ではEBウイルスに感染した細胞が見られ、それらの細胞ではSTAT3が強く活性化していることが観察されました。

STAT3は遺伝子異常を来して、恒常的に活性化を起こすことが、一部の腫瘍細胞で報告されています。しかし解析したCAEBV患者さんのEBV感染TおよびNK細胞ではSTAT3遺伝子に異常は認められませんでした。 STAT3はチロシンキナーゼ (※3)JAKの作用によって活性化することが知られています。EBVに感染したT細胞およびNK細胞にJAKの阻害剤を加えたところ、STAT3の活性化が抑制されるとともに、細胞が死にやすく、そして増えにくくなり(図3A)、さらに炎症の原因物質であるサイトカインの産生が抑制されました(図3B)。

図3 CAEBV患者細胞はJAK阻害剤処理によって細胞数が減り(A)、炎症性サイトカインであるインターフェロンγの産生が抑制されることが観察されました (B)。

研究成果の意義

CAEBVでは、STAT3を抑制することで、炎症症状や腫瘍への進展が抑えられる可能性があり、治療薬開発への応用が期待できます。現在、研究チームは、この研究結果を用いた新規治療法開発のための臨床試験を計画しています。

用語説明
(※1)B細胞、T細胞、NK細胞:
白血球の一つ、リンパ球は、B細胞、T細胞、NK細胞に分類されます。リンパ球は、ウイルスや細菌などの病原体がヒトに感染すると勢いが増し、炎症(免疫反応)を起こして病原体を抑え、それらを駆逐します。
(※2)サイトカイン:
炎症(免疫反応)の原因物質の一つ。T細胞、NK細胞は勢いが増すとサイトカインを産生し、免疫反応を起こして身体を守ります。しかし過剰に産生されると高熱などの炎症症状が続くほか、内臓の障害の原因になることがあります。
(※3)チロシンキナーゼ:
細胞内に存在するリン酸化酵素。チロシンキナーゼが細胞内の蛋白質をリン酸化する事で、重要な情報が核へと伝達されていき、細胞の運命 (生死、蛋白質の産生など) が決まります。
論文情報
掲載誌:Oncotarget
論文タイトル:STAT3 is constitutively activated in chronic active Epstein-Barr virus infection and can be a therapeutic target(Oncotarget. 2018; 9:31077-31089.)
DOI:doi.org/10.18632/oncotarget.25780
著者:Erika Onozawa, Haruna Shibayama, Honami Takada, Ken-Ichi Imadome, Sho Aoki, Mayumi Yoshimori, Norio Shimizu, Shigeyoshi Fujiwara, Takatoshi Koyama, Osamu Miura, Ayako Arai
研究者プロフィール
新井 文子(アライ アヤコ) Ayako Arai
東京医科歯科大学
先端血液検査学分野 准教授
研究領域
血液内科学、血液腫瘍学、血液検査学
問い合わせ先
研究に関すること

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
先端血液検査学分野
新井 文子(アライ アヤコ)

報道に関すること

東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係

AMED事業に関すること

日本医療研究開発機構 戦略推進部 難病研究課

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