テングザルの太鼓腹に共生する細菌叢を初解明~豊かな森は、サルのおなかの菌も豊かにする~

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2018-08-09 京都大学

早川卓志 霊長類研究所特定助教と松田一希 中部大学准教授らの研究グループは、海外の動物園、研究機関と共同で、テングザルの前胃の内容物に含まれている細菌のDNA配列を網羅的に解析し、そこに共生する細菌叢を同定することに世界で初めて成功しました。

本研究成果は、2018年7月11日微生物学の国際専門学術誌「Environmental Microbiology Reports」のオンライン版に掲載されました。

研究者からのコメント
野生の霊長類の前胃内微生物叢の全体像について世界で初めて報告しました。森林植生、霊長類の食物、共生微生物叢の多様性が緊密に関連しているという、保全生物学上も重要な知見を示すことができました。本研究の実現には、霊長類が生息する熱帯の国々において、動物の命を危険にさらすことなく捕獲し、胃内容物を採取するという困難な手続きを克服する必要がありました。現地のマレーシア政府とともに10年以上にわたって展開してきたテングザル研究を背景に、野生生物局の獣医チームと動物の安全確保、倫理面などを慎重に協議して実施しました。現地政府との信頼関係と、地道な長期野外調査が実を結んだ産物であるという意味でも、たいへん嬉しい成果です。

概要

テングザルは、東南アジアのボルネオ島の沿岸部から川沿いに広がる密林にのみ生息する絶滅危惧種で、長い鼻と大きな太鼓腹が特徴です。その太鼓腹には、反すう動物と類似した複胃と呼ばれる4つにくびれた特殊な胃がおさまっており、霊長類で唯一、反すう行動が観察されています。テングザルは、この胃に共生する微生物群(細菌叢)を使って、葉に含まれる繊維を発酵・分解してエネルギーに変換できることが知られています。

本研究グループは、長期にわたる野外観察によって、生活環境の異なる6頭の大人のテングザルのオスから前胃の内容物を採取しました。そして、その内容物に含まれている細菌のDNA配列を次世代シーケンサーを使って網羅的に解析した結果、多様な細菌叢を同定することに世界で初めて成功しました。

さらに、テングザルが生活環境との相互作用によって、環境に適した細菌叢を胃の内部に育んでいることも明らかになりました。具体的には、食べ物となる植物の多様性が高い、豊かな森に住むテングザルほど、細菌叢がより多様化していました。一方、餌付けした群れや飼育個体の前胃内には、ヒトが食べるような食べ物の消化に必要と思われる菌種が共生し、菌叢のヒト化が観察されました。

今後は、宿主である霊長類と、消化管内の微生物叢が、生態・環境との相互作用によってどのように共進化してきたのか、さらなる解明を推進していく予定です。

図:テングザルの雄の体重は約20キロ、雌はその半分くらいの重さしかありません。長く大きな鼻に加えて大きな太鼓腹が特徴的なサルです。(写真提供:中部大学 松田一希)

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1111/1758-2229.12677

Takashi Hayakawa, Senthilvel K.S.S. Nathan, Danica J. Stark, Diana A. Ramirez Saldivar, Rosa Sipangkui, Benoit Goossens, Augustine Tuuga, Marcus Clauss, Akiko Sawada, Shinji Fukuda, Hiroo Imai, Ikki Matsuda (2018). First report of foregut microbial community in proboscis monkeys: Are diverse forests a reservoir for diverse microbiomes?. Environmental Microbiology Reports.

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