新たな発がんメカニズムの解明やバイオマーカーとしての応用に期待

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日本人の肺腺がん約300例の全エクソン解析から間質性肺炎を合併した肺腺がんに特徴的な遺伝子変異を発見

2018-08-21 国立研究開発法人 国立がん研究センター,東京医科歯科大学,学校法人 関西医科大学,慶應義塾大学医学部,国立研究開発法人 日本医療研究開発機構

本研究成果のポイント

  • 世界に先駆けて間質性肺炎に合併した肺腺がん(間質性肺炎合併肺腺がん)の遺伝子変異の特徴を明らかにしました。
  • 肺の形成や働きにかかわる遺伝子群の機能を失わせるような変異が間質性肺炎合併肺腺がんで高頻度に見られることがわかりました。
  • 間質性肺炎合併肺腺がんの病態解明と新規治療法開発への応用が期待できます。

国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜 斉、東京都中央区)研究所(所長: 間野博行)ゲノム生物学研究分野の河野隆志分野長らは、国立大学法人東京医科歯科大学などと共同で、54例の間質性肺炎合併肺腺がんを含む日本人肺腺がん296例の全エクソン解析の結果から、肺サーファクタントシステム遺伝子群(Pulmonary Surfactant System Genes)が間質性肺炎合併肺腺がんに特徴的な遺伝子変異であること、またその変異を有する群では生命予後が不良であることをつきとめました。その研究成果は、米国臨床腫瘍学会機関誌「Journal of Clinical Oncology Precision Medicine」に、8月17日付で発表されました。

間質性肺炎合併肺腺がんの予後は不良であるため、その治療や予後予測を可能とするバイオマーカーの解明が急務でした。しかしながら、治療合併症への懸念などから、外科的手術の適応とならないことが多く、そのため、解析試料の集積が難しく、ゲノム異常については未解明なままでした。本研究は過去最大級のサンプル数で、ゲノム網羅的な解析を行った初めての報告です。

背景

間質性肺炎は肺胞構造の破壊と線維化をもたらす病気で、肺がんのリスクを高める重要な因子です。一般的な肺がんにおいては、発がんの原因となるドライバー遺伝子が多数同定されており、そのがん遺伝子に対する特異的分子標的薬が奏功することが知られています。しかし、間質性肺炎合併肺がんに特徴的ながん遺伝子異常や発がん機構については明らかではありませんでした。

このような背景から、研究グループは今回間質性肺炎合併肺腺がんに注目してゲノム網羅的な遺伝子変異の検出を行い、間質性肺炎合併肺腺がんに特徴的な遺伝子変異の解析を試みました。また、その変異について臨床情報を組み合わせることで遺伝子変異の意義について検討を行いました。

研究概要

1)間質性肺炎合併肺腺がんのドライバー遺伝子異常の分布の解明

研究グループは東京医科歯科大学と国立がん研究センター中央病院で肺腺がんと診断されて根治的手術を受けた患者から54例の間質性肺炎合併肺腺がんの患者試料を抽出し、既知のドライバー遺伝子異常がどのように分布しているのかについて解析しました。また、間質性肺炎を有さない一般的肺腺がんの症例637例を比較対象として同様の解析を行いました。その結果、がんの原因となるドライバー遺伝子の分布は間質性肺炎の有無によって大きく異なることが判明しました。一般的肺腺がんでは、約70パーセントにEGFR等のドライバー遺伝子異常を認めましたが、間質性肺炎合併肺腺がんでは約25パーセントにしかドライバー遺伝子異常は存在せず、これまでの研究では解明されていない発がん経路をたどっていることが判明しました(図1)。

図1 間質性肺炎合併および一般肺腺がんのドライバー遺伝子の分布

図1 間質性肺炎合併および一般肺腺がんのドライバー遺伝子の分布

2) 全エクソン解析で判明した肺サーファクタントシステム遺伝子群の変異とその意義

間質性肺炎合併肺腺がんの約75パーセントの発がん経路は既存のドライバー遺伝子に依存しておらず、未知の発がん機構の存在が示唆されました。そこで、間質性肺炎合併肺線がん51例を含む肺腺がん296例の全エクソン解析でゲノム網羅的に遺伝子変異を検出するための解析を行ったところ、肺の発生や臓器としての働きを担うサーファクタントシステム遺伝子群の機能を失わせるような変異が、間質性肺炎合併肺腺がんに特徴的なゲノム異常であることが明らかになりました。また、これらの遺伝子に異常がある症例では腫瘍組織が未成熟な傾向を示し、その生命予後が不良でした(図2)。

図2 肺サーファクタント遺伝子は間質性肺炎合併例に多く、その予後は不良となる

図2 肺サーファクタント遺伝子は間質性肺炎合併例に多く、その予後は不良となる

今後の展望

本研究から、間質性肺炎合併肺腺がんのゲノム異常の特徴が肺サーファクト遺伝子の機能を失わせるような変異であることを明らかにしました。予後の改善のためには、新たな発がん機構の解明と更なる疾患特異的な治療を開発することが重要であり、その基礎的なデータとして本研究は多大なる貢献をすることが期待されます。

共同研究者

本研究は、以下の施設を含む、多くの研究グループによる取り組みの成果です。
また、試料提供にご協力・ご賛同してくださった患者・家族の皆様へも深く御礼を申し上げます。引き続き、生体試料を用いた研究に対するご理解とご支援をお願いいたします。

  1. 国立がん研究センター
    中央病院 渡邊俊一科長、元井紀子医長など
    先端医療開発センター 土原一哉分野長など
  2. 東京医科歯科大学
    本多隆行特任助教、稲瀬直彦特命教授、大久保憲一教授など
  3. 関西医科大学
    蔦幸治教授など
  4. 慶應義塾大学
    医学部 病理学教室 金井弥栄教授など
  5. 日本医療研究開発機構

本研究への支援

日本医療研究開発機構
次世代がん医療創生研究事業
早期がん及びリスク依存がんの統合解析による肺発がん多様性の理解と重点化治療戦略の策定 (JP18cm0106532)

発表論文

  • 雑誌名:Journal of Clinical Oncology Precision Medicine, 2018, on line publication.
  • タイトル:Deleterious Pulmonary Surfactant System Gene Mutations in Lung Adenocarcinomas
    Associated with Usual Interstitial Pneumonia
  • 著者:Takayuki Honda, Hiroyuki Sakashita, Kyohei Masai, Hirohiko Totsuka, Noriko Motoi, Masashi Kobayashi, Takumi Akashi, Sachiyo Mimaki, Katsuya Tsuchihara, Suenori Chiku, Kouya Shiraishi, Yoko Shimada, Ayaka Otsuka, Yae Kanai, Kenichi Okubo, Shun-ichi Watanabe, Koji Tsuta, Naohiko Inase, Takashi Kohno(注). (注) 責任著者
  • DOI:10.1200/PO.17.00301
  • URL:http://ascopubs.org/doi/full/10.1200/PO.17.00301

用語解説

全エクソン解析
次世代シークエンサーを用いて、エクソン配列のみを網羅的に解析する手法。エクソン配列は、全ゲノム配列の約1パーセントを占め、タンパク質に翻訳される領域である。そこで、機能的に重要な遺伝子変異を効率よく見つけることができる。

報道関係からのお問い合わせ先

国立研究開発法人 国立がん研究センター

国立研究開発法人 国立がん研究センター
企画戦略局 広報企画室

国立大学法人 東京医科歯科大学

総務部総務秘書課広報係

学校法人 関西医科大学

広報戦略室

慶應義塾大学

信濃町キャンパス総務課

AMED事業に関すること

国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)
戦略推進部 がん研究課
次世代がん医療創生研究事業担当

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