骨芽細胞のRANKLが骨形成を促進する創薬標的になることを発見

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骨粗鬆症の新規治療薬開発に繋がる可能性も

2018-09-06 東京大学,東京医科歯科大学など5大学

骨細胞に発現するRANKLは、破骨細胞に発現するRANKを刺激し、破骨細胞の成熟と骨吸収(老朽化した骨の除去)の促進を行うリガンド分子として知られ、RANKLに対する中和抗体は骨吸収を抑制する骨粗鬆症治療薬として臨床応用されています。一方、骨芽細胞に発現するRANKLに関しては、これまでその生理機能が不明瞭のままとなっていました。今回、東京大学医学部附属病院の本間雅講師らを中心とし、東京医科歯科大学など5大学による共同研究グループは、骨芽細胞に発現するRANKLが、破骨細胞から膜小胞の形で放出されるRANKを認識する受容体として機能しており、骨芽細胞分化の促進および骨形成の上昇に寄与していることを、RANKL遺伝子の点変異マウスを用いた解析などから明らかにしました。骨芽細胞に発現するRANKLは、骨形成を促進するための創薬標的になり得ると考えられ、骨粗鬆症新規治療薬の開発に繋がるものと期待されます。
本研究成果は、日本時間9月6日にNatureにて発表されました。
※詳細は添付ファイルをご覧下さい。
リリース文書 [380 KB]

骨芽細胞の RANKL が骨形成を促進する創薬標的になることを発見
―骨粗鬆症の新規治療薬開発に繋がる可能性も―
1.発表者:
本間 雅(東京大学医学部附属病院 薬剤部 講師)
池淵 祐樹(東京大学医学部附属病院 薬剤部 助教)
青木 和広(東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 教授)
鈴木 洋史(東京大学医学部附属病院 薬剤部 教授)
2.発表のポイント:
◆骨芽細胞に発現する RANKL は、破骨細胞から放出される RANK を認識する受容体とし て機能し、骨芽細胞分化促進・骨形成上昇に寄与していることを明らかにしました。
◆骨芽細胞における役割が不明瞭であった RANKL に関して、その生理的な役割を解明した 初めての研究となります。
◆研究グループは、骨芽細胞に発現する RANKL が、骨形成を促進する創薬標的となり得る 事も示しており、骨粗鬆症に対する新規治療薬の開発に繋がると期待されます。
3.発表概要:
骨細胞(注1)に発現する RANKL(注2)は、破骨細胞(注3)に発現する RANK(注4) を刺激し、破骨細胞の成熟と骨吸収(老朽化した骨の除去)の促進を行うリガンド分子として 知られ、RANKL に対する中和抗体(注5)は骨吸収を抑制する骨粗鬆症治療薬として臨床応 用されています。一方、骨芽細胞(注6)に発現する RANKL に関しては、これまでその生理 機能が不明瞭のままとなっていました。今回、東京大学医学部附属病院の本間雅講師らを中心 とし、東京医科歯科大学など5大学による共同研究グループは、骨芽細胞に発現する RANKL が、破骨細胞から膜小胞(注7)の形で放出される RANK を認識する受容体として機能して おり、骨芽細胞分化の促進および骨形成の上昇に寄与していることを、RANKL 遺伝子の点変 異マウスを用いた解析などから明らかにしました。骨芽細胞に発現する RANKL は、骨形成を 促進するための創薬標的になり得ると考えられ、骨粗鬆症新規治療薬の開発に繋がるものと期 待されます。
4.発表内容:
【研究の背景】
骨は、老朽化した部位が破骨細胞によって吸収除去され、引き続いて骨芽細胞による新しい骨の形成が生じて埋め戻される、という一連のサイクルを繰り返すことで骨量や骨質が維持さ れています。骨吸収過程から骨形成過程への移行が円滑に進行する背景には、両者を繋ぐ何ら かのカップリング機構が存在すると想定され、近年盛んに研究が行われています。骨粗鬆症の 治療において広く用いられている破骨細胞抑制剤に関しては、骨吸収の抑制に引き続いて骨形 成の低下も生じる事が知られていますが、これは破骨細胞数の減少に伴ってカップリング因子 の供給も低下するためと考えられています。
RANKL は骨芽細胞や、骨芽細胞から分化して形成される骨細胞に強く発現する分子であり、 ノックアウトマウスなどを用いた過去の解析から、破骨細胞の成熟を刺激して骨吸収を促進す る中心的なシグナル入力分子であることが明らかにされていました。また、生体内で破骨細胞 に対して RANKL シグナルを入力している細胞は、従来は骨表面に局在している骨芽細胞であ ると想定されてきました。しかし近年になって、骨細胞特異的な RANKL ノックアウトマウス を用いた解析などから、生理的に RANKL シグナルの主要な供給源となっているのは、骨基質 中に分散してネットワークを形成している骨細胞であることが明らかにされました。このため 逆に、骨芽細胞に発現するRANKLの生理的な役割に関しては不明瞭な状態となっていました。
【研究の内容】
そこで研究グループは、骨芽細胞に発現する RANKL は破骨細胞に発現する RANK からの シグナルを受け取る受容分子として機能している可能性を想定して検討を進めました。まず、 破骨細胞からの分泌物を分析したところ、破骨細胞の成熟段階において RANK の発現量が増 大すると共に、RANK が含まれる膜小胞が盛んに分泌されることが確認されました。この膜小 胞を用いて骨芽細胞に対して刺激を加えたところ、骨芽細胞分化および骨形成が促進されるこ とが明らかになりました。RANKL ノックアウトマウス由来の骨芽細胞ではこの効果が認めら れないことから、破骨細胞由来の膜小胞の作用は骨芽細胞に発現する RANKL を介して生じて いることも確認されました。 次いで、破骨細胞由来の膜小胞で刺激した骨芽細胞内で活性化しているシグナル伝達経路を 解析したところ、RANKL の下流では PI3K-Akt-mTORC1 経路の活性化が生じ、最終的に骨 芽細胞の分化を中心的に制御する転写因子である Runx2(注8)の活性化が生じていることが 明らかになりました。この一連のシグナル経路(RANKL 逆シグナル経路)の活性化には、 RANKL の細胞内ドメインに存在するプロリン・リッチ・モチーフが必要である事も明らかと なりました。そこで、この部分にアミノ酸変異(29 番目のプロリンをアラニンに変異)を導入 したマウスを新たに作出しました。この変異マウスでは、通常は骨吸収の活性化に引き続いて生じる骨形成の上昇が生じなくなっており、骨吸収と骨形成のカップリングが破綻しているこ とが明らかとなりました。すなわち、骨芽細胞に発現する RANKL を起点とする RANKL 逆シ グナル経路は、生理的には骨吸収と骨形成のカップリングを媒介していることが示唆されまし た(図1)。
さらに、RANKL の細胞外ドメインに結合して RANKL 逆シグナルを活性化できる改変抗体 を創製し、骨粗鬆症モデルマウスにおける薬理作用の評価も行いました。RANKL に対する中 和活性のみを有する改変抗体では、破骨細胞の成熟阻害と骨吸収の抑制に伴って、骨芽細胞に よる骨形成も低下する様子が観察されましたが、RANKL 逆シグナルを活性化できる改変抗体 を投与した場合には、骨吸収を同程度に抑制する活性に加えて、骨形成の抑制を阻止する活性 も認められ、骨芽細胞における RANKL 逆シグナルは骨形成を促進する薬理標的として機能す る事も見出されました(図2)。
【今後の予定】
骨粗鬆症に対して広汎に使用されている骨吸収抑制剤は、強力に骨吸収を抑制する結果、カ ップリング因子の枯渇を引き起こし、骨形成も低下していく点が臨床上の課題となっています。 本研究を通じて、骨芽細胞に対して作用し、RANKL 逆シグナルを入力することで骨形成を上 昇させる活性に加えて、骨細胞上の RANKL に対しても作用して、破骨細胞成熟を抑制する活 性を併せ持つ、バイファンクショナルな改変抗体の創製が可能であることが示されました。今 後は、タンパク質としての産生量や安定性、生体内での半減期などをさらに改善した改変抗体 の作出を目指して検討を進め、従来の薬剤の問題点を克服した、骨粗鬆症に対する新規治療薬 の完成を目指します。また、骨吸収と骨形成を繋ぐカップリング機構に関しては、近年さまざ まな分子の関与が報告されてきており、従来想定されていたよりも遥かに複雑で、時空間的に 精密に制御された分子メカニズムが関与していることが明らかになりつつあります。破骨細胞 由来の膜小胞に含まれる他の分子の役割なども含めて、カップリング機構の全体像の理解に向 けた検討を推進していく予定です。
5.発表雑誌:
雑誌名:Nature
論文タイトル:Coupling of bone resorption and formation by RANKL reverse signalling 著者:Yuki Ikebuchi†, Shigeki Aoki†, Masashi Honma†*, Madoka Hayashi, Yasutaka Sugamori, Masud Khan, Yoshiaki Kariya, Genki Kato, Yasuhiko Tabata, Josef M. Penninger, Nobuyuki Udagawa, Kazuhiro Aoki & Hiroshi Suzuki † equal contribution, *corresponding author
DOI 番号:10.1038/s41586-018-0482-7
アブストラクト URL:http://dx.doi.org/10.1038/s41586-018-0482-7
6.問い合わせ先:
<研究内容に関するお問い合わせ先>
東京大学医学部附属病院 薬剤部 講師 本間 雅 (ほんま まさし)
<広報担当者連絡先>
東京大学医学部附属病院 パブリック・リレーションセンター(担当:渡部、小岩井)
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
7.用語解説:
(注1)骨細胞:骨組織の中でも最も数の多い細胞であり、骨芽細胞の一部が自身の分泌した 骨基質の内部に侵入し、そこで最終分化することで形成されます。そのため、骨基質全体に分 散して存在しており、骨細管(骨基質中に空いているトンネル状の通路)を通じて樹状突起を 伸張し、近傍の細胞と細胞間ネットワークを形成しています。
(注2)RANKL:Receptor activator of nuclear factor-kappa B ligand の略称で、TNF スー パーファミリーに属する膜貫通タンパク質です。骨芽細胞・骨細胞などの骨芽細胞系譜の細胞 に高発現しています。破骨細胞に発現する RANK に結合してシグナルを入力し、破骨細胞の分化成熟を刺激するリガンド分子としての活性が最も良く知られています。RANKL ノックア ウトマウスでは成熟破骨細胞が失われ、大理石骨病様の症状を示すことが知られており、生体 内で破骨細胞成熟を制御する中心的な分子と考えられています。TNF スーパーファミリーに属 する幾つかの分子は、シグナルを入力するリガンド分子としてだけでなく、逆にシグナルを受 容する双方向のシグナル分子として機能することが報告されており、今回の研究ではこれらの 報告を踏まえ、逆シグナルが存在する可能性を想定して検討が進められました。
(注3)破骨細胞:血球系の細胞である破骨前駆細胞が、細胞表面に発現する RANK を介し て RANKL 刺激を受容することで活性化し、複数の細胞が融合することで形成される多核の細 胞です。酸およびタンパク質分解酵素を分泌することで骨基質を溶解して吸収する活性を有し ています。成熟破骨細胞は、一定期間の骨吸収(老朽化した骨の破壊)を行なった後に、アポ トーシスを生じて除去されると考えられており、その後吸収された部分が、骨芽細胞による新 生骨の形成によって埋め戻されます。
(注4)RANK:Receptor activator of nuclear factor-kappa B の略称で、TNF 受容体スーパ ーファミリーに属する膜貫通タンパク質。破骨細胞に発現しており、RANKL 刺激を受容する 事で破骨細胞の成熟が誘導されます。膜貫通タンパク質であるため、そのままでは細胞外に分 泌されることはありませんが、脂質二重膜構造を有する膜小胞に含まれる形で細胞外に分泌し 得る事が知られています。
(注5)RANKL 中和抗体:RANKL の細胞外ドメインに結合し、RANK と RANKL の結合を 阻害することで、成熟破骨細胞の形成を阻害する中和抗体が臨床応用されています。強力に成 熟破骨細胞の形成を抑制できるため、閉経後骨粗鬆症など骨吸収が過剰となっている病態に対 して有効性を示しますが、骨吸収の抑制に引き続いて骨形成の低下も引き起こされる点が、臨 床上の課題となっています。この点を克服した新規薬剤の開発が期待されています。
(注6)骨芽細胞:間葉系の細胞から分化する細胞であり、タイプ I コラーゲンを中心とする 骨基質タンパク質、およびハイドロキシアパタイト結晶の成長を促す基質小胞などを分泌する 事で、新生骨の形成を担う事が知られています。破骨細胞による骨吸収が行われて除去された 骨組織を新生骨で埋めもどすサイクルを、骨リモデリングと呼んでいます。
(注7)膜小胞:脂質二重膜からなる直径 100〜200nm 程度の小胞で、多くの細胞はこのよう な膜小胞を細胞外へと分泌する性質があります。脂質二重膜中あるいは表面にさまざまな膜タ ンパク質が含まれます。また小胞の内部にも、さまざまなタンパク質や核酸などが含まれる事 が知られています。直接的な細胞間接触の無い細胞の間で、情報伝達を媒介する可能性が指摘 され、近年盛んに研究が行われています。
(注8)Runx2:Runt-related transcription factor 2 の略称で、骨芽細胞の分化を制御するマ スター転写因子として知られています。Runx2 の活性化は、特に骨芽細胞の初期分化を促進す ると考えられています。
8.添付資料
図1:骨芽細胞に発現する RANKL は破骨細胞由来の膜小胞型 RANK を認識し、RANKL 逆 シグナルを活性化することで、骨吸収と骨形成のカップリングを媒介する。

図2:RANKL 細胞外ドメインに結合して RANKL 逆シグナルを入力できる改変抗体は、骨吸 収の抑制活性と骨形成の促進活性を併せ持つ。
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