性淘汰が生物多様性を維持することを解明~身勝手な競争が集団サイズを安定化させる~

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2018-11-14 京都大学

小林和也 フィールド科学教育研究センター講師は、性淘汰のうち特に「性的嫌がらせ」(生まれてくる子供の数が減ってしまうかわりに競争相手よりも自分の子供の割合を高める性質)が、生物多様性を維持している可能性を理論的に示し、シミュレーションによってこの理論が上手く機能することを示しました。なお、本研究における「性的嫌がらせ」とは、自然界の繁殖行動上の現象を示す生態学の用語であり、社会問題としての「性的嫌がらせ」(セクシュアル・ハラスメント、セクハラ)とは一切関係ありません。
本研究成果は、2018年11月14日に英国の国際学術誌「Journal of Ecology」にオンライン掲載されました。

研究者からのコメント
自然界には多種多様な生き物がいますが、それらの生き物の特徴的な色や形の多くは繁殖に関わる性質です。特に種類を見分けるのに役立つ性質、例えば植物の花の形や鳥の鳴き声は、まさに生物多様性の中心的存在です。そのため、有性生殖は多様性創出メカニズムとして有力なものと考えられてきました。今回の研究によって、性が多様性を生み出す原動力であるばかりではなく、多様性の維持にも貢献している可能性を示すことが出来ました。

概要

自然界に多種多様な生物がなぜ共存できるのか、なぜ一番強い種類だけにならないのかという問いは生態学における重要な未解決問題の一つです。
本研究では、自然界の繁殖行動上の現象としての「性的嫌がらせ」に着目しました。「性的嫌がらせ」は、交尾を巡って競争する場合には有利ですが、競争相手が不在で確実に交尾が出来る場合には子供の数が減ってしまうため不利になります。つまり、個体数が多く交尾を巡る競争が激しい場合には、「性的嫌がらせ」が起きて子供の数を減らしてしまいますが、個体数が少なく競争が起こらない場合には、「性的嫌がらせ」が起きないため、子供の数が増えます。結果として、個体数が多い種では「性的嫌がらせ」が激しくなって個体数の増えすぎを防ぎ、逆に個体数が少ない種では「性的嫌がらせ」が起こりにくいため個体数が増えやすくなります。
本研究では、このメカニズムを数学的に解析し、多様な種が共存できることが示されました。また、実際に自然界で観察される種ごとの個体数分布を再現することにも成功しました。

図:本研究では性淘汰により生物多様性が維持されている可能性が示された。

書誌情報

【DOI】https://doi.org/10.1111/1365-2745.13088
Kazuya Kobayashi (2018). Sexual harassment sustains biodiversity via producing negative density-dependent population growth. Journal of Ecology.

詳しい研究内容について

性淘汰が維持する生物多様性
―身勝手な競争が集団サイズを安定化させる―
概要
京都大学フィールド科学教育研究センター 小林和也 講師は、性淘汰のうち特に「 性的嫌がらせ」が生物多 様性を維持している可能性を理論的に示し、シミュレーションによってこの理論が上手く機能することを示し ました。
自然界に多種多様な生物がなぜ共存できるのか、なぜ一番強い種類だけにならないのかという問いは生態学 における重要な未解決問題の一つです。本研究では「性的嫌がらせ」(生まれてくる子供の数が減ってしまう かわりに競争相手よりも自分の子供の割合を高める性質)に着目しました。 性的嫌がらせ」は、交尾を巡っ て競争する場合には有利ですが、競争相手が不在で確実に交尾が出来る場合には子供の数が減ってしまうため 不利になります。つまり、個体数が多く交尾を巡る競争が激しい場合には、 「性的嫌がらせ」が起きて子供の 数を減らしてしまいますが、個体数が少なく競争が起こらない場合には、 「性的嫌がらせ」が起きないため、 子供の数が増えます。結果として、個体数が多い種では「性的嫌がらせ」が激しくなって個体数の増えすぎを 防ぎ、逆に個体数が少ない種では「性的嫌がらせ」が起こりにくいため個体数が増えやすくなります。本研究 では、このメカニズムを数学的に解析し、多様な種が共存できることを示しました。また実際に自然界で観察 される種ごとの個体数分布を再現することに成功しました。
本成果は、2018 年 11 月 14 日に英国の国際学術誌 「Journal of Ecology」にオンライン掲載されました。本研究により柱頭で生じる 性的嫌がらせ」によって植物の多様性が維持されている可能性が示されました。
*本研究における「性的嫌がらせ」とは自然界の繁殖行動上の現象を示す生態学の用語であり、社会問題としての「性的嫌がらせ」(セクシュアル・ハラスメント、セクハラ)とは一切関係ありません。
1.背景
生存競争の厳しい自然界において、なぜ多種多様な生物が共存できるのか、なぜ一番強い種類だけにならな いのかという問いは生態学における重要な未解決問題の一つです。特に似たような資源を利用している多数の 種が安定して共存できる条件は理論的には極めて限定的であると予測されています。しかし、例えば身近な森 でも、多様な木々が光や土中の栄養を巡って競争しながら長期的に共存しています。もし木の種類によって光 や栄養を獲得できる量が違うとしたら、強い種類が沢山の種子を付けて数を増やす一方で、弱い種類はどんど ん数を減らして最終的には絶滅してしまうでしょう。これまで多様な生物が共存できるメカニズムについて多 くの仮説が提案されてきましたが、いまだに決着がついていません。
2.研究手法・成果
本研究では、自然界において見られる「 性的嫌がらせ」(sexual「harassment)に着目しました。生態学にお ける「 性的嫌がらせ」とは、生まれてくる子供の数が減ってしまうかわりに競争相手よりも自分の子供の割合 を高める性質のことで、トンボのオスがメスに対して執拗に求愛をしたり、植物の花の柱頭で花粉が他の花粉 によって受精が起こるのを妨害する物質を出したりする性質のことを言います。「性的嫌がらせ」は交尾を巡 って競争する場合には有利ですが、競争相手が不在で確実に交尾が出来る場合には子供の数が減ってしまうた め不利になります。つまり、個体数が多く交尾を巡る競争が激しい場合には、 性的嫌がらせ」が起きて子供 の数を減らしてしまいますが、個体数が少なく競争が起こらない場合には、「性的嫌がらせ」が起きないため、 子供の数が増えます。結果として、個体数が多い種では「性的嫌がらせ」が激しくなって個体数の増えすぎを 防ぎ、逆に個体数が少ない種では 「性的嫌がらせ」が起こりにくいため個体数が増えやすくなります。
この状況を数式で表現し、その生物の個体数に対して最適な「性的嫌がらせ」の程度(どのくらいまで子供の 数を減らしてでも競争に強くすべきか)を解析したところ、確かに個体数が多くなると「性的嫌がらせ」が激し くなって子供の数が減り、個体数が少なくなると「性的嫌がらせ」が弱まって子供の数が増えることが分かり ました。このメカニズムを組み込んだシミュレーションを行ったところ、十分に広い空間があれば数百種類の 生物が 10,000 世代にわたって共存できることが示されました。
これらの結果は、種内の交尾を巡る競争がその生物の個体数に影響するだけなく、生物多様性のような地域 の生態系全体の性質にも影響しうることを示した点において重要な意義を持ちます。
3.波及効果、今後の予定
本研究では極めて簡略化した状況を解析しているため、実際の生物に当てはめる際にはより詳細なモデルが 必要となります。しかし、個体数が多く、一見繁栄しているように見える種ほど、種内で交尾を巡って激しい 競争を行ってしまい、結果として子供の数が減ってしまっているという現象が自然界において普遍的に見られ るのではないかと予想しています。今後は理論モデルの予測を実際の生物で検証していく予定です。
4.研究プロジェクトについて
本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金・若手研究(A) 「性を維持する分子基盤の解明」(代表者:小 林和也・京都大学、課題番号:17H05048)の助成を受けて行われました。
<論文タイトルと著者>
タイトル:Sexual harassment sustains biodiversity via producing negative density-dependent population growth. (「性的嫌がらせ」が個体群成長に負の密度依存性をもたらすことで生物多様性を維持する)
著 者:小林和也
掲 載 誌:Journal「of「Ecology
<イメージ図>

実際に論文中で解析に用いた数式。数式中で、W は「 性的嫌がらせ」の強さ h*を持つ個体が得られる子供の数、n は交尾 を巡って争っている個体の数、h は競争相手の持つ「性的嫌がらせ」の強さ、F は「性的嫌がらせ」が無かった時に生まれ てくる子供の数を示します。

 

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