糖尿病マーカー、ヘモグロビンA1cを直接酸化できる酵素の創製

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シンプルかつ短時間測定が可能な新規測定試薬開発に大きく前進

2019-01-31  京都大学

橋本渉 農学研究科教授、村田幸作 摂南大学教授、協和メデックス株式会社らの研究グループは、糖尿病診断マーカーであるヘモグロビンA1c(HbA1c) 臨床検査試薬に応用が可能な改変酵素「HbA1cダイレクトオキシダーゼ」(HbA1cOX)の創製に成功しました。

本研究グループは、X線結晶構造解析の情報から見出された特定のアミノ酸の置き換えを鍵として、分子進化的手法を併用することにより、自然界で見出されていない人工酵素HbA1cOXを創製しました。

本研究成果により、現行のHbA1c酵素測定法では2種類の酵素による反応を必要としていますが(2ステップ法)、HbA1cOXを用いることにより、既存の測定法と比較して、シンプルかつ短時間の測定が可能になると考えられます(1ステップ法)。

糖尿病の予防のため日常的な血糖値管理の重要性が認識されていますが、1ステップ法の開発、実用化は世界的な要求に応えるものになることが期待されます。

本研究成果は、2019年1月30日に、国際学術誌「Scientific Reports」のオンライン版に掲載されました。

図: HbA1cOXを用いた新規「1ステップ法」と現行法「2ステップ法」の測定原理イメージ

詳しい研究内容について

糖尿病マーカー、ヘモグロビン A1c を直接酸化できる酵素の創製
―シンプルかつ短時間測定が可能な新規測定試薬開発に大きく前進―
概要
京都大学大学院農学研究科 橋本渉 教授、摂南大学 村田幸作 教授、協和メデックス株式会社 (小野寺利浩 取締役社長)らの研究グループは、糖尿病診断マーカーであるヘモグロビン A1c 以下、HbA1c) 臨床検査 試薬に応用が可能な改変酵素「HbA1c ダイレクトオキシダーゼ」 (以下、HbA1cOX)の創製に成功しました。
本研究では、X 線結晶構造解析の情報から見出された特定のアミノ酸の置き換えを鍵として、分子進化的手 法を併用することにより、自然界で見出されていない人工酵素 HbA1cOX を創製しました。現行の HbA1c 酵 素測定法では 2 種類の酵素による反応を必要としていますが (2 ステップ法)、HbA1cOX を用いることによ り、既存の測定法と比較して、シンプルかつ短時間の測定が可能になると考えられます( 1 ステップ法)。
糖尿病の予防のため日常的な血糖値管理の重要性が認識されていますが、1 ステップ法の開発、実用化は世 界的な要求に応えるものになると期待されます。
本研究成果は、2019 年 1 月 30 日に国際学術誌「Scientific Reports」にオンライン掲載されました。 図. HbA1cOX を用いた新規「1 ステップ法」と現行法「2 ステップ法」の測定原理イメージ1. 背景
糖尿病は世界規模で増加しており、その予防の為には日常的な血糖値の把握、管理が重要です。HbA1c は、 血糖( 血中グルコース) とヘモグロビン (Hb) とが血中で結合することにより生成する糖化タンパク質で あり、血糖値が高いほど HbA1c が生成しやすくなります。血糖値は食事により上昇し、時間経過に伴い低下 するのに対し、HbA1c は一度生成すると Hb が分解されるまでの期間血中に留まるため、2~3 ヵ月という中 長期的な血糖値の変動を反映する指標となると考えられています。臨床検査において、様々な HbA1c 測定試 薬が開発、使用されていますが、近年開発された酵素測定法は抗体を用いる方法に比べて、安価かつ扱いやす いという特長があり、普及が進んでいます。2. 研究手法・成果
現行の HbA1c 酵素測定法は、糖化ペプチドオキシダーゼ (以下、FPOX) を主要な酵素として使用します が、FPOX は大きな分子である HbA1c と直接反応することが出来ません。そのため、前処理としてタンパク 質分解酵素により HbA1c の分解処理を行う必要があります。すなわち、分解処理で生成された F-VH (フルク トシルバリルヒスチジン)を測定することにより、間接的に HbA1c を測定します (2 ステップ法)。一方、タ ンパク質分解酵素を用いない 「1 ステップ法」はより簡便な測定法となることが期待されますが、直接 HbA1c 分子に作用する酵素が自然に見つからない、あるいは作ることができないことから実現していませんでした。 そこで本研究では、協和メデックスが保有する酵素 「AnFPOX-15」の構造を改変させることにより、直接 HbA1c に作用する酵素「HbA1cOX」を創製し、HbA1c 1 ステップ法を開発することを目的としました。
AnFPOX-15 は本来、直接 HbA1c に作用することが出来ない酵素です。構造改変の手がかりを得るために AnFPOX-15 の X 線結晶構造解析を行ったところ、AnFPOX-15 の反応が起こるくぼみ (活性部位) の入口 が大きな分子である HbA1c にとって狭すぎることが、HbA1c と直接反応できない構造的要因であることが予 想されました。そこで、入口を形成するアミノ酸 (R61: 61 位アルギニン)を標的として、より小さなアミノ 酸 (R61: 61 位グリシン)に置き換えることによって、入り口を拡張するように構造を改変したところ、HbA1c への反応性のきっかけとなる新たな反応性が得られることが分かりました( 部位特異的変異:下図)。
そこからさらにランダム変異 (分子進化的手法)を織り交ぜて改変を継続したところ、反応性を段階的かつ 飛躍的に上昇させることが出来ました。最終的に AnFPOX-15 を構成するアミノ酸のうち 10 個を置き換える ことによって、「AnFPOX-47」という改変酵素を取得し、 「AnFPOX-47」は、タンパク質分解酵素を用いなく ても HbA1c と直接反応することができる酵素、即ち 「HbA1cOX」であることを世界で初めて実験的に実証す ることに成功しました 下図左)。 そこで、AnFPOX-47 を使用して HbA1c の測定試薬を試作したところ、臨床の場で使用されている既存の HPLC 高速液体クロマトグラフィー)による測定法と良好な相関が得られることがわかり、新しい測定法と して機能し得ることを示しました 下図右)。

3. 学術的意義と波及効果
既存の酵素測定法は、FPOX とタンパク質分解酵素の二種類の酵素の併用が必要です。なぜなら、これまで に知られている FPOX は大きな HbA1c 分子と直接反応することが出来ず、前処理により反応できるサイズに まで小さく分解する必要があったからです。
これに対して、本研究で創製した AnFPOX-47 は、構成するアミノ酸を部分的に入れ替えることによって HbA1c が直接反応するのに適した構造に変化しており、これまで報告例のなかった HbA1cOX として働くこ とが世界で初めて見出されました。
HbA1c の測定において、HbA1cOX を用いればタンパク質分解酵素が不要になり、シンプルな試薬開発が可 能になります。またタンパク質分解酵素による HbA1c の分解工程を省略することが出来るため、測定に必要 な時間を短縮できる可能性もあります。糖尿病患者は全世界規模で増加しており、その診断 管理指標として 日常的に HbA1c 値を把握することが非常に重要視されています。本研究は、その簡便かつ迅速な測定法の確 立 提供につながることから、この世界的な要求に応えるものになると期待されます。

4. 今後の予定
現在、創製した HbA1cOX (AnFPOX-47)を用いて実用的な HbA1c 測定試薬 (臨床検査薬)の開発を進め ています。今後は、世界的な要求に応えるべく開発を推進し、一日も早く実用化したいと考えています。

5. 研究プロジェクトについて
本研究プロジェクトは、京都大学と摂南大学、協和メデックス株式会社の研究者が連携して行いました。外部 からの資金的援助は受けていません。

<研究者のコメント>
糖尿病は QOL(生活の質)を低下させる非常に恐ろしい疾患ですが、食生活、生活習慣の改善はもちろん、定期 的な糖尿病指標の把握により予防が可能です。天然に存在しない活性を持った酵素を人工的に創製し、臨床の 場における応用の可能性を示すことができたことは非常に意義深いものと感じています。本研究成果を応用し、 実用的な HbA1c 測定試薬 臨床検査薬)を開発することにより、皆様の健康に貢献できるものと信じていま す。

<論文タイトルと著者>
タイトル:Creation of haemoglobin A1c direct oxidase from fructosyl peptide oxidase by combined structure-based site specific mutagenesis and random mutagenesis (和題: 結晶構造に基づく部位特異的変異及びランダム変異併用による糖化ペプチドオキシダーゼ からのヘモグロビン A1c ダイレクトオキシダーゼの創製)
著 者 :Noriyuki Ogawa, Takehide Kimura, Fumi Umehara, Yuki Katayama, Go Nagai, Keiko Suzuki, Kazuo Aisaka, Yukie Maruyama, Takafumi Itoh, Wataru Hashimoto, Kousaku Murata and Michio Ichimura
掲 載 誌:Scientific Reports   DOI: 10.1038/s41598-018-37806-x

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