遺伝情報を正確に守るための新たなDNA修復メカニズム

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ヒトの体が持つ「がんにならないようにする」仕組み

2019-03-25  東京大学

東京大学大学院医学系研究科の安原崇哲助教、加藤玲於奈大学院生、宮川清教授、群馬大学大学院医学系研究科の柴田淳史研究講師らの研究グループは、重要な遺伝情報を含むゲノム領域にDNA損傷が生じると、その周辺にDNAとRNAからなる特殊な構造が形成され、細胞はその構造を目印として認識することで、損傷を正確に修復していることを発見しました。さらに、このメカニズムがうまく機能しない場合には、不正確なDNA修復によって生じるゲノム異常が顕著に増加することも分かりました。従って今回明らかになったメカニズムは、ゲノム異常を原因として生じるがんなどの疾患を防ぐために我々の細胞が保持している防御機構の一つであることが示唆されます。

我々のゲノム情報は非常に大きいことが知られていますが、実際にはそのうちのほんの一部分しか利用されていません。従って、膨大なゲノムの中でも、転写されて頻繁に読み出される情報が記録されている領域は重要な部位と考えられます。そのような重要なゲノム領域に起こったDNA損傷は、遺伝情報を守るために、正確に修復することが必要です。これまでの研究で、そのような現象は観察されていましたが、どのようにしてその重要性を認識して、正確に修復する経路を誘導しているのかについては分かっていませんでした。

今回の研究によって、転写が活性化している領域にDNA損傷、特にDNA二重鎖切断が生じた場合には、周辺にR-loop構造と呼ばれる特殊な構造が形成されることを見出しました。さらに遺伝子Rad52がこの構造を認識することで、正確な修復経路、すなわち相同組換え修復を誘導することを発見し、このメカニズムを転写共役型相同組換え修復と名付けました。転写共役型相同組換え修復を阻害した場合にゲノムに起こる異常を解析したところ、不正確な修復の結果として、姉妹染色体間結合(interchromatid fusion)と呼ばれる染色体異常の頻度が顕著に上昇することが分かりました。このような染色体異常は、がんなどで頻繁に見られるゲノム異常の前駆体となることから、転写共役型相同組換え修復は、がんの発生を防ぐために我々の細胞に備わる重要なメカニズムであることが示唆されました。

これらの発見により、ヒトの体が持つ「がんにならないようにする」仕組みの一端が明らかになりました。我々の体に元来から備わる防御機構を解き明かし、それらが破綻した場合に、がんなどの疾患がどのように発生していくかを観察、理解していくことは、新たな治療の標的の発見や、新たな治療薬の開発につながると期待されます。

「広大なゲノムの中から優先して正確に直すべき部位を認識する仕組みが備わっているという発見を通して、細胞内で起こる現象の多くは非常に合理的で、洗練されたものであるということを改めて実感しました」と安原助教は話します。「このような素晴らしいシステムがどのように破綻して、ゲノム異常、さらには疾患につながっていくのかについて、今後も様々な角度から明らかにしていきたいです」と続けます。

論文情報

Takaaki Yasuhara, Reona Kato, Yoshihiko Hagiwara, Bunsyo Shiotani, Motohiro Yamauchi, Shinichiro Nakada, Atsushi Shibata, Kiyoshi Miyagawa, “Human Rad52 promotes XPG-mediated R-loop processing to initiate transcription-associated homologous recombination repair,” Cell 175/558-570, doi:doi:10.1016/j.cell.2018.08.056.
論文へのリンク (掲載誌)

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