トマトなどの虫害を天然物質で予防

ad

薬剤抵抗性害虫が出ない防除技術の開発に期待

2019-05-08 農研機構

ポイント

農研機構は、ロリオライドと呼ばれる天然物質をトマトなどに与えると、重要害虫であるミカンキイロアザミウマやナミハダニなどによる被害が抑えられることを発見しました。ロリオライド自体には殺虫効果はなく、トマトなどが本来持つ害虫抵抗性を高めることで被害を抑えます。作物の害虫抵抗性を利用した害虫防除剤の素材として有望です。

概要

農研機構の生物機能利用研究部門は、作物の重要害虫であるミカンキイロアザミウマやナミハダニの防除にロリオライドと呼ばれるタバコ由来の天然物質が有効であることを発見しました。
これらの害虫の防除には主に殺虫剤が利用されていますが、単一の殺虫剤を使用し続けることにより、殺虫剤が効かない害虫(薬剤抵抗性害虫)が出現することが問題となっており、新しい防除技術の開発が望まれていました。
ロリオライドは、植物の害虫抵抗性を高めることによって被害を抑えます。害虫を直接殺す効果はないため、防除剤として使った場合、薬剤抵抗性が生じにくいと期待されます。
植物が本来有する害虫抵抗性を高めて被害を抑える薬剤(プラントアクティベーター1))は国内では実用化されていません。今後は、ロリオライドを用いた薬剤抵抗性が出にくい害虫防除剤の開発に向け、農薬メーカー等の民間企業との連携を目指します。

<関連情報>

予算:科研費「病害虫抵抗性におけるカロテン関連物質の重要性の解明」2013~2015年
特許:特許第6108548号

問い合わせ先など

研究推進責任者 : 農研機構 生物機能利用研究部門 部門長 吉永 優
研究担当者 : 同 植物・微生物機能利用研究領域 瀬尾 茂美
広報担当者 : 広報プランナー 高木 英典

詳細情報

害虫防除の現状

FAOによれば、世界の作物の10~30%が農業害虫による収量低下や品質低下等の被害を被っています。慣行農法では、即効性があり、効果も安定している殺虫剤による害虫防除が主体となっています。しかし、単一の殺虫剤を連続で使用すると、その殺虫剤が効かない害虫が出現してしまいます。このような薬剤抵抗性害虫の問題を回避するために、新しい防除技術の開発が望まれていました。

研究の経緯

そこで農研機構では、害虫を直接殺さずに防除する新たな薬剤を探索するため、植物や微生物等の天然資源が持つ害虫防除効果を調べました。

研究の内容・意義

タバコに強い害虫防除効果があることを見出し、その有効成分がカロテノイド2)の1種であるロリオライド(図1)であることを突き止めました。
トマトの葉にロリオライドを与え、作物の重要害虫であるナミハダニの雌を放飼させると、対照区と比較して生存率と産卵数の低下が確認されました(図2)。他の重要害虫であるミカンキイロアザミウマとハスモンヨトウに対しても、ロリオライドは同様の効果を示すことが確認できました。ロリオライドはこれら害虫に対する直接的な殺虫活性は持たないので(図3)、植物の生体防御反応を高めるプラントアクティベーターとして働くことがわかりました。

今後の予定・期待

害虫防除に有効なプラントアクティベーターの有望素材(図4)が見つかったことから、農薬メーカー等の民間企業と連携して害虫防除剤の開発に繋げることを目指します。

用語の解説

1)プラントアクティベーター : 直接的な殺虫活性や殺菌活性は示さずに、植物が本来有する病害虫抵抗性を高めることで害虫や病害を防ぐ薬剤のことです。防除効果の持続期間が長く、広範な害虫に対して有効といった特徴があります。国内では農薬としてイネいもち病等の病害に有効なプラントアクティベーターが販売・利用されていますが、害虫用のプラントアクティベーターとして登録された資材はまだありません。

2)カロテノイド : 微生物や動植物に広く存在する天然色素で、カロテンを含みます。ロリオライドはカロテンが分解されるときに生じると考えられています。

発表論文

Mika Murata, Yusuke Nakai, Kei Kawazu, Masumi Ishizaka, Hideyuki Kajiwara, Hiroshi Abe, Kasumi Takeuchi, Yuki Ichinose, Ichiro Mitsuhara, Atsushi Mochizuki, Shigemi Seo. Loliolide, a carotenoid metabolite, is a potential endogenous inducer of herbivore resistance. Plant Physiology. April 2019, Vol. 179, pp. 1822-1833 DOI: https://doi.org/10.1104/pp.18.00837

参考図


図1. ロリオライドの構造


図2. ロリオライドの害虫防除効果
トマト葉をロリオライド溶液に1日間浸漬した後、ナミハダニ雌を放飼しました。放飼して5日目に、生存数(左)と産卵数(右)を計測しました。対照区としてロリオライド溶液の代わりに同量の溶剤を与えました。


図3. ロリオライドの毒性試験
ロリオライド溶液に、ナミハダニ雌を直接浸漬し、2日目後の生存数を計測しました。対照区としてロリオライド溶液の代わりに同量の溶剤を用いました。


図4. 害虫防除におけるロリオライドの利用法
ロリオライドを施用した作物では害虫抵抗性が高まり、害虫による被害の抑制・軽減が期待されます。

ad

生物化学工学生物環境工学
ad
ad
Follow
ad
タイトルとURLをコピーしました