黒毛和種牛の持つ遺伝性疾患の原因遺伝子をゲノム編集技術により修復することに成功

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2018-02-03 岡山大学農学部

我が国の黒毛和種のほとんどは人工授精技術等により人為的に繁殖されています。肉質や増体を目的に雄牛の選抜が行われ(種雄牛と言います)、国内には2000頭ほどの種雄牛しか飼養されていません。近年、DNA解析技術の発達によって各個体のゲノム塩基配列情報が取得出来るようになり、一塩基多型(SNP:遺伝子上の1つの塩基配列の違いによる多型)による遺伝性疾患が同定されるようになりました。その結果、特定の種雄牛が保有していた疾患遺伝子が潜在的に広まり、大きな経済的損失が発生した事例が明らかになっています。
農研機構と岡山大学大学院環境生命科学研究科との共同研究コンソーシアムは、近年注目されているゲノム編集と体細胞クローン技術を用いて、黒毛和種の遺伝性疾患IARS(イソロイシルtRNA合成酵素)異常症(子牛が虚弱化する)の原因遺伝子配列を修復することに成功しました。本研究で開発した手法はまだ研究段階ですが、将来的には遺伝子配列の修復だけでなく、有用形質に関わるSNPの改変を可能にする新たな家畜の育種繁殖技術となることが期待されます。本研究の成果は平成29年12月19日にScientific Reports誌(http://www.nature.com/articles/s41598-017-17968-w)に掲載されました。
なお、本研究は農林水産省の委託事業である農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業により実施されました。

図1 ゲノム編集と体細胞クローン技術による疾患遺伝子修復個体の作成

保因牛より採取した体細胞に人工制限酵素CRISPR/Cas9と正常な配列および蛍光タンパク質AcGFPの発現カセットを含むDNA断片を導入する。修復が起きた細胞はAcGFPの蛍光で選別できる。修復が確認された細胞から核移植胚を作成し、クローン胎子を得る(1stクローン、図2a)。得られたクローン胎子より採取した体細胞にpiggyBac転移酵素を導入してAcGFPカセットを除去し、再度クローン個体を作成する(2ndクローン、図2b)。

図2 遺伝子修復個体の解析

a. 1stクローン胎子の明視野及び蛍光観察像。AcGFPカセットを持つため、AcGFP陽性を示す。
b. 2ndクローン胎子の明視野及び蛍光観察像。AcGFPカセットが除去されたため、AcGFP陰性を示す。
c. クローン胎子のサザンブロット解析。1stクローン(#829)ではAcGFPカセットが挿入されたIARS遺伝子領域のサイズが大きくなっているが、2ndクローン(#675及び#687)ではAcGFPカセットが除去され、両アリルが同じサイズになっている。

図3 修復IARS遺伝子領域のシークエンス解析

左. 2ndクローンにおいて設計通りの修復が確認されている。1stクローンではAcGFPカセットの挿入によってPCRの増幅が起こらず、修復されたアリルは検出されていない。 中央. 2ndクローンにおいて修復されたIARS遺伝子が発現している。右. 余分な塩基の挿入や欠失なくAcGFPカセットが除去されている。

論文名:Correction of a Disease Mutation using CRISPR/Cas9-assisted Genome Editing in Japanese Black Cattle.
掲載誌:Scientific Reports
Article number: 7, 17827 (2017)
http://www.nature.com/articles/s41598-017-17968-w
著 者:Mitsumi Ikeda, Shuichi Matsuyama, Satoshi Akagi, Katsuhiro Ohkoshi, Sho Nakamura, Shiori Minabe, Koji Kimura, Misa Hosoe

【連絡先】
教授 木村康二
岡山大学大学院環境生命科学研究科(農学部)

 

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