微小な前立腺がんを術中にその場で光らせて検出する前立腺がんの迅速蛍光可視化プローブの開発

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2019-09-06 東京大学

東京大学大学院薬学系研究科薬品代謝化学教室・医学系研究科生体情報学分野の河谷稔博士課程学生、山本恭子博士課程学生、神谷真子准教授、浦野泰照教授らは、肉眼では判別が難しい前立腺がんの迅速蛍光検出を実現する新規蛍光試薬を開発し、手術中に前立腺組織中に存在する微小がん病変の検出を可能としました。本研究成果は2019年6月7日付けで、Journal of the American Chemical Society誌に掲載されました。

前立腺がんは、日本でも年々患者数が増加しているがんで、取り残しによる再発や転移を防ぐために全摘出手術が行われています。しかしながら、全摘除術では神経を傷つけることがあるため、術後の性機能障害や排尿障害といった生活の質(QOL)低下が課題でした。

本研究グループは今回、前立腺がんで活性が亢進している前立腺がん特異的膜抗原(PSMA)のカルボキシペプチダーゼ(タンパク質分解酵素のひとつ)の活性を高感度に検出する蛍光試薬を新たに開発しました。この試薬自体はほとんど蛍光を発しませんが、PSMAと反応すると構造が変化して、強い蛍光を発する化合物へと変換されるように設計されています。開発した試薬を前立腺がん患者の外科手術検体に滴下することで、30分位内に微小ながんを含めてがん部位を蛍光で検出できるようになりました。

開発した試薬を手術中に用いることで前立腺がん病変を迅速に検出することができるようになれば、がんの取り残しを防ぎながら、術中に必要十分な切除範囲を判断しやすくなり、術後QOLの向上・再発防止などが期待されます。

「がんは1981年以来日本人の死因の第一位でありつづける疾患ですが、転移がない早期に発見して、これを外科・内視鏡手術によって全て取り切れば完治することがわかっています。しかし手術現場で全てのがんを見つけて切除することはとても難しく、術後の経過は術者の経験や勘に大きく左右されてしまうのが現状です。これは端的に言って、取るべきがんがどこにあるかが見えないからです」と浦野教授と神谷准教授は話します。「私たちは医者ではなく化学者ですが、化学の力をフルに発揮することで、全く新たな医療の実現が可能だと信じて日々研究を行っています。今回はがんが疑われる部位にスプレーするだけで、これまでは可視化出来なかった前立腺がんを選択的に光らせて、これを誰でも検出できるようにする蛍光プローブの開発に成功しました。開発した蛍光プローブを実際の摘出検体にかけて、その後徐々に特定の部位から蛍光が強く観察されるようになり、この部位が後日に出てきたがんの病理結果とよく一致することがわかった時には、研究チーム全体で大変興奮しました」と続けます。

「この成果は東大病院の泌尿器科、病理部と我々化学者が、お互いの知識と技術を総動員して、一つのゴールに向けて粘り強く研究を行ってきたから生まれたものです。私たちは、このような医学と化学にまたがる分野横断的な研究の出口はまだたくさんあると信じていて、現在も活発に様々な研究を行っています」。

PSMA活性検出蛍光プローブの開発による、前立腺がんの術中迅速イメージング
a) 蛍光プローブを用いた前立腺がんの蛍光イメージングの模式図。b)本研究で開発したPSMAのカルボキシペプチダーゼを検出するactivatable型蛍光プローブ。c) 生きた培養細胞におけるPSMA活性のライブ検出。d) 前立腺がんの摘出新鮮検体のカラー写真と、プローブ散布直後、30分後の蛍光像。カラー写真では見つけることが難しい微小がん部位の可視化に成功した。(黄色矢印:病理によってがんが見いだされた部位)

論文情報

Minoru Kawatani, Kyoko Yamamoto, Daisuke Yamada, Mako Kamiya, Jimpei Miyakawa, Yu Miyama, Ryosuke Kojima, Teppei Morikawa, Haruki Kume, Yasuteru Urano, “Fluorescence Detection of Prostate Cancer by an Activatable Fluorescence Probe for PSMA Carboxypeptidase Activity,” Journal of the American Chemical Society: 2019年6月7日, doi:10.1021/jacs.9b04412.
論文へのリンク (掲載誌)

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