冠動脈疾患が疑われる場合のCT検査の意義には性差を認める~なでしこ研究~

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2018-02-15 日国立研究開発法人国立循環器病研究センター,国立研究開発法人日本医療研究開発機構

国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:小川久雄、略称:国循)予防医学・疫学情報部の中尾葉子上級研究員、宮本恵宏部長、心臓血管内科の野口暉夫部長、安田聡副院長らからなるなでしこ研究グループは、冠動脈疾患が疑われる患者に対する冠動脈CT検査の意義に男女差があることを明らかにしました。本研究成果は国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)「女性の健康の包括的支援実用化研究事業-Wise」の支援により行われたもので(「女性の冠動脈疾患診断およびリスク層別化における、冠動脈CTの多面的解剖学的指標および新規機能的指標の意義と費用効果分析」研究開発代表者:中尾葉子)、英国の専門誌「Heart」オンライン版に平成30年1月13日(現地時間)に掲載されました。

背景

心疾患は今もわが国の死因の第2位(1位はがん)を占め、多くの医療費を要しています。虚血性心疾患、特に心臓に栄養を送る冠動脈が詰まる急性心筋梗塞は突然死の主要な原因疾患で、病院で適切な救命治療が行われたとしてもいまだ致死率が高く、慢性期には心不全の主要な原因になります。従って、心筋梗塞およびその前段階である冠動脈の動脈硬化を早期に発見し、予防する必要があります。

冠動脈疾患を発症した場合、女性は男性よりも重篤になるとされています。このため、性差が心疾患の発症・進行・予後に与える影響を多角的かつ包括的に理解することが今後の医療の個別化、効率化のために重要です。

冠動脈の狭窄や動脈硬化を調べるには一般的には冠動脈CT検査が有用といわれており、年間40万件以上の検査が実施されています。しかし、冠動脈CT検査の有効性に性差があるかどうかの検討はこれまで不十分でした。

研究手法と成果

なでしこ研究グループは、冠動脈硬化と心血管イベントの関連に性差があるかを解明する目的で、2008年より冠動脈疾患が疑われる50~74歳の男女1,188人からなる全国規模の多施設前向きコホート研究注1を実施しています。本研究では、その中でも冠動脈CT検査でわかる冠動脈石灰化スコア注2と冠動脈狭窄の関係に性差があるかを解析しました。その結果、冠動脈石灰化スコアで評価した動脈硬化の進展や冠動脈狭窄の発症割合は男女で有意に異なることが明らかになりました(図1)。また、男女の背景因子を調整した上で、男性では臨床項目(血圧、コレステロール、喫煙歴など)に加えて冠動脈CT検査により冠動脈石灰化を評価することで冠動脈狭窄予測の精度は大きく向上しますが、女性では一定の精度向上は見られるものの男性ほど高精度では予測できないこともわかりました(図2)。このことから、臨床情報に冠動脈石灰化スコアを加えて冠動脈狭窄を予測することは有用ですが、医療者は性差があることを意識して、診断方法や治療計画を検討する必要があると示唆されました。

今後の展望と課題

女性の冠動脈狭窄をより正確に予測するためには、臨床項目と冠動脈CT検査による冠動脈石灰化スコアに加え、より精度の高くなる指標を加えて総合的に判断することが必要です。なでしこ研究では、すでに新たな項目を特定すべく研究を進めています。

欧米では20年前から性差に基づく医療を推進する体制づくりが始まりましたが、わが国では未だエビデンスが十分とは言えません。今後は医療者への指針の確立やガイドライン策定等を通して、なでしこ研究の成果をわが国の医療の発展に還元することを目指します。

注釈

注1:コホート研究
ある集団を、疾病発生までの過程を時間を追って観察する研究のこと。代表的なコホート研究には、心臓病の危険因子を突き止めるために約60年前に米国で始まり今でも世界中の循環器病研究に大きな影響を与え続けているフラミンガム研究、年齢や職業に偏りがない平均的日本人集団の研究として信頼性の高い久山町研究、国民の7割を占める都市部住民を対象としたわが国唯一の疫学研究として国循が開始した吹田研究などがある。
注2:冠動脈石灰化スコア
冠動脈の動脈硬化の進行を示す指標。動脈硬化は血中の余分な脂肪やコレステロールが血管にたまることで血管壁が厚く固くなる状態をさす。この脂肪やコレステロールの塊(プラーク)は、時間とともにカルシウムを主成分とする石灰に変化する。つまり、動脈硬化の進行が進むほど石灰化も進み、冠動脈石灰化スコアは高値になる。

図表

図1:冠動脈石灰化スコアの程度の差
今回調査した50~74歳では、女性では石灰化スコア0が約半数、石灰化が高度(400以上)は1割にも満たない。一方、男性では中等度石灰化の割合が多く、高度石灰化も2割程度存在するなど、同じ条件であっても症状に差が生じる。
図2:冠動脈狭窄予測能の性差
横軸は臨床項目から予測した冠動脈狭窄発症確率を、縦軸は石灰化スコアも加えて予測した発症確率を示す。対角線上のグレーのエリアは臨床項目のみでも石灰化スコアを加えても予測能に変化がないことを、ピンクの枠内は臨床項目のみではリスクが過大評価された(=過剰医療の恐れがある)ことを、青の枠内は臨床項目のみではリスクが過少評価された(=予防策が不足する恐れがある)ことを表す。冠動脈狭窄の発症を示す色のついた○印が青もしくはピンクの枠内に多いと、石灰化スコアの追加により予測精度が向上したことを意味する。
男性では多くの例で青の枠内に位置し、過少評価されたリスクが修正されたことを示すが、女性は石灰化スコア追加による一定の効果は見られるものの多くのケースはグレーのエリアにあり、男性より石灰化スコア追加の効果が少ないことがわかる。

お問い合わせ先

報道機関からの問い合わせ先

国立循環器病研究センター

AMED事業に関するお問い合わせ先

国立研究開発法人日本医薬品研究開発機構(AMED)
基盤研究事業部 研究企画課

 

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