ザンビア鉛鉱床地域のイヌの血中鉛濃度を明らかに~現地住民の鉛中毒による健康被害解明に期待~

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2020-02-26    北海道大学,科学技術振興機構,国際協力機構

ポイント
  • ザンビア鉛鉱床付近に棲むイヌの血中には高濃度の鉛が含まれており、同地域のヒトと同傾向と判明。
  • 血中鉛濃度とイヌの年齢には負の相関があり、若いイヌほど体内に含まれる鉛が多いことが判明。
  • 鉛鉱床地域の歩哨動物として汚染の検知や汚染源の同定、治療の方針策定に役立つことが期待。

北海道大学 大学院獣医学研究院の石塚 真由美 教授、中山 翔太 助教、豊巻 治也 研究員とザンビア大学獣医学部の研究グループは、鉛鉱床地域のカブウェの住民が飼っているイヌ(120頭)の血液を採取し測定を行った結果、それら血中鉛濃度の平均値は通常よりも高く、また、血液を採取したイヌの年齢と血中鉛濃度との関係を見ると、若いイヌほど体内により多くの鉛を含んでいることが明らかになりました。鉛鉱床付近のイヌは血中鉛濃度がより高く、その値は鉛鉱床地域から4kmほど離れた地域のイヌに比べて約13倍も高いことが判明しました。さらに、鉛の同位体比の解析結果から、鉱床から採取された鉱石に含まれる鉛とイヌの体内に含まれる鉛の同位体比が非常に似ていることが分かりました。これら2つの結果から、イヌの体内に含まれる鉛は鉛鉱床が発生源である可能性が高く、鉛鉱床のより近くに棲むイヌほど多くの鉛を体内に含むことが明らかになりました。一方、血液を採取したイヌには、高濃度の鉛を有しているにもかかわらず、鉛中毒特有の健康被害が見られませんでした。なぜ高濃度の鉛を体内に含むイヌに健康被害がみられないのかを明らかにするために、より詳細な調査が今後も必要です。本研究の成果が鉛鉱床地域における汚染対策や住民の鉛中毒治療に役立つことが期待されます。

本研究成果は、近日中に英国科学雑誌「Chemosphere」誌に掲載される予定です。

本研究は、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)と独立行政法人 国際協力機構(JICA)の連携事業である地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)「ザンビアにおける鉛汚染のメカニズムの解明と健康・経済リスク評価手法および予防・修復技術の開発」(研究代表者:石塚 真由美)の支援を受けて実施しました。

<背景>

ザンビアの鉛鉱床地域では、鉛中毒注1)による住民の健康被害が懸念されています。一方、ヒトに飼育されているイヌは、ヒトと生活圏を共にし、その行動解析も可能なことから、ヒトの鉛中毒を評価するための有用な動物である可能性があります。そこで、北海道大学の研究メンバーはザンビア大学と国際共同研究を行い、鉛汚染が問題となっている鉛鉱床地域のカブウェにてイヌの血中鉛濃度を測定しました。

<研究手法>

鉛鉱床地域のカブウェの住民が飼っているイヌ(120頭)の血液を、現地の獣医師が採取しました。鉛濃度は誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)を用いて分析しました。また、汚染源を調べるために、血中の鉛の同位体比注2)をマルチコレクターICP-MSにより解析しました。

<研究成果>

血中鉛濃度の平均値は271.6μg/Lであり、高濃度の鉛がイヌの体内に含まれることが分かりました。また、血液を採取したイヌの年齢と血中鉛濃度との関係を見ると、若いイヌほど体内により多くの鉛を含んでいることが明らかになりました。

さらに、鉛の同位体比の解析結果から、鉱床から採取された鉱石に含まれる鉛とイヌの体内に含まれる鉛の同位体比が非常に似ていることが分かりました。さらに、鉛鉱床付近のイヌは血中鉛濃度がより高く(352.9μg/L)、その値は鉛鉱床地域から4kmほど離れた地域のイヌ(28.0μg/L)に比べて約13倍も高いと判明しました。これら2つの結果から、イヌの体内に含まれる鉛は鉛鉱床が発生源である可能性が高く、鉛鉱床のより近くに棲むイヌほど多くの鉛を体内に含むことが明らかになりました。

以上の結果は同地域でヒトを対象に行った血中鉛濃度の調査結果と同じ傾向であり、イヌの血中鉛濃度を調査することでヒトの鉛濃度をより迅速に評価できると考えられます。また、本研究は、ペット動物の環境汚染を解析したユニークな研究成果でもあります。

<今後への期待>

本研究の調査結果から鉛鉱床地域のカブウェの住民が飼っているイヌの体内に高濃度の鉛が含まれることが分かりました。ヒトの飼育動物を調べることで、汚染の動向やその発生源を明らかにすることができ、飼育動物の行動圏の解析によりさらに詳細なデータを得ることができます。一方、血液を採取したイヌには、高濃度の鉛を有しているにもかかわらず、鉛中毒特有の健康被害がみられませんでした。なぜ高濃度の鉛を体内に含むイヌに健康被害がみられないのか、今後、より詳細な調査を続ける予定です。本研究の成果が鉛鉱床地域における汚染対策や汚染源の同定、住民の鉛中毒治療の方針策定に役立つことが期待されます。

<参考図>

図1 イヌの血中鉛濃度と鉱床の中心からの距離の関係

図1 イヌの血中鉛濃度と鉱床の中心からの距離の関係

縦軸が血中の鉛濃度、横軸が距離で、鉱床に近い場所で飼育されているイヌほど鉛の血中濃度が高い。

図2 イヌの飼い主へのインタビューの様子

図2 イヌの飼い主へのインタビューの様子

<用語解説>

注1)鉛中毒

鉛の摂取を原因とする中毒のこと。重金属中毒の一種に分類される。鉛中毒の典型的な症状として、頭痛、感覚の消失、脱力、口の中の金属味、歩行協調障害、食欲減退、嘔吐、便秘、けいれん性の腹痛、骨や関節の痛み、高血圧、貧血などがある。

注2)同位体比

同位体とは同じ元素で質量数が異なる原子のこと。鉛の発生源を特定する際に、鉛の各同位体の比率が分析されることがある。鉛には陽子の数は同じであるが、中性子の数が異なる4種類の同位体が存在する。鉛はその形成過程や時代によって同位体の比率が異なり、試料中の鉛の同位体比を測定することで、鉛の起源の相違を明らかにすることができる。
<論文タイトル>

“Factors associated with lead (Pb) exposure on dogs around a Pb mining area, Kabwe, Zambia”
(ザンビア共和国カブウェ市の鉛鉱床近郊で飼育されている犬の鉛曝露の分析)

著者名:豊巻 治也、ジョン・ヤベ、中山 翔太、ヤレド・ヨハネス、カンポウェ・ムザンド、アラン・リアザンビ、池中 良徳、栗谷 豪、中川 光弘、石塚 真由美
DOI:10.1016/j.chemosphere.2020.125884
<お問い合わせ先>
<研究に関すること>

中山 翔太(ナカヤマ ショウタ)
北海道大学 大学院獣医学研究院 助教

石塚 真由美(イシヅカ マユミ)
北海道大学 大学院獣医学研究院 教授

<JST事業に関すること>

科学技術振興機構 国際部 SATREPSグループ

<JICA事業に関すること>

国際協力機構(JICA) 産業開発・公共政策部 資源・エネルギーグループ

<報道担当>

北海道大学 総務企画部 広報課

科学技術振興機構 広報課

 

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