B型肝炎ワクチンの効果に影響を与えるHLA-DRB1-DQB1ハプロタイプとBTNL2遺伝子

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2018-3-23国立研究開発法人 国立国際医療研究センター,国立研究開発法人 日本医療研究開発機構

要旨

世界の180カ国以上でB型肝炎ウイルス(以下、HBV)に対してB型肝炎ワクチン(以下、HBワクチン)接種が行われている。HBワクチンの1つであるビームゲンはHBVの遺伝子型C由来であり、日本ではHBV遺伝子型Cが最も多いことからビームゲンがHBワクチンとして使用されてきた。しかしながらビームゲン接種者のうち、約10%はその中和抗体であるHBs抗体を十分に獲得できないという問題があった。国立国際医療研究センターを研究代表施設とする多施設共同研究において、成人日本人1,193例を対象としたゲノムワイドSNPタイピング(注1)を実施し、ワクチン低反応群(107例、HBsAb 10mIU/mL以下)、ワクチン中反応群(351例、HBsAb 10mIU/mL超、100 mIU/mL以下)、ワクチン高反応群(735例、HBsAb 100mIU/mL超)の3群に分けてゲノムワイド関連解析(GWAS)(注2)を実施した。さらに、ゲノムワイドSNPタイピングデータを用いてHLA imputation(注3)を実施し、HLAアリル(注4)およびハプロタイプ(注5)とHBワクチン効果の関連を詳細に解析した。ワクチン低反応群と高反応群を比較した結果、HLA classⅢ領域に存在するBTNL2遺伝子が有意な関連を示した。一方で、3群を比較すると、HLA classⅡ領域に存在するDRB1-DQB1遺伝子とDPB1遺伝子がそれぞれワクチン応答性に関連することを明らかにした。続いて、HLAアリルおよびハプロタイプの頻度をHBワクチン低反応群とB型慢性肝炎患者群で比較した結果、HBワクチン応答性に特異的に関わるDRB1-DQB1ハプロタイプが存在することを見出した。さらにHBワクチン高反応群と健常対照群について同様の比較をした結果、HLA classⅡ遺伝子(DR-DQDP)はワクチン高反応に有意な関連を示さなかった。ワクチン高反応群と低反応群のGWASでBTNL2遺伝子が検出されたことから、BTNL2遺伝子はワクチン高反応に関連すると考えられる。本研究により特定のHLA-DR-DQ分子によるHBs抗原の認識(ワクチン低反応)、およびBTNL2分子によるT細胞やB細胞の活性制御(ワクチン高反応)がHBワクチンの効果に重要な役割を果たすことが明らかとなった。本研究の成果をもとに国際共同研究を進めることで、ユニバーサルワクチネーション(注6)が行われている日本やその他の国において、HBワクチンの適正かつ効率的な使用方法の確立が期待できる。

研究の背景

現在、世界180カ国以上でB型肝炎ウイルス(HBV)に対してB型肝炎ワクチン(HBワクチン)接種が行われている。HBVには複数の遺伝子型(Genotype)が存在しており、日本はGenotype C(HBV/C)がもっとも多い。わが国においては、日本で開発されたHBV/Cに対応するHBワクチン(ビームゲン)が使用されてきた。しかしながら、ビームゲン接種者のうち、約10%はその中和抗体であるHBs抗体を獲得できないという問題があったが、その原因は不明であった。

本研究の概要・意義

成人日本人1,193例を対象として同一のキットを用いたHBs抗体測定を実施した。得られた抗体産生量をもとに、ワクチン低反応群(107例、HBsAb 10mIU/mL以下)、ワクチン中反応群(351例、HBsAb 10mIU/mL超、100 mIU/mL以下)、ワクチン高反応群(735例、HBsAb 100mIU/mL超)の3群に分けたところ、年齢が低いほど、また女性の方が抗体産生量が多くなることが明らかとなった(図1)。続いて全1,193例を対象としてゲノムワイドSNPタイピングを実施し、ワクチン低反応群、ワクチン中反応群、ワクチン高反応群の3群に分けてゲノムワイド関連解析(GWAS)を実施した。さらに、ゲノムワイドSNPタイピングデータを用いたHLA imputationを実施し、HLAアリルおよびハプロタイプとHBワクチン効果について関連解析を実施した。

図1 日本人1,193人のビームゲン接種者のHBs抗体価
図1 日本人1,193人のビームゲン接種者のHBs抗体価

図中の青色が男性、オレンジ色が女性の割合を示す。中反応群を基準として低反応群と高反応群の男女比と平均年齢に差があるかを検定したところ、年齢が低い方が、また女性の方が抗体産生量が高くなることが分かった。

図2 HBワクチン高反応群と低反応群を対象としたGWAS
図2 HBワクチン高反応群と低反応群を対象としたGWAS

ワクチンの効果に年齢と性別が関係することから、年齢と性別で補正をしてGWASを実施した。統計解析に適するSNPをSNP filteringした後、SNP filteringの条件を満たした427,662SNPsで統計解析を実施した。その結果、BTNL2遺伝子領域に存在するSNP(rs4258166)が最も強い関連を示した。

ワクチン低反応群と高反応群を比較した結果、HLA classⅢ領域に存在するBTNL2遺伝子が有意な関連を示した(図2)。続いて3群を対象に比較を行った結果、HLA classⅡ領域に存在するDRB1-DQB1ハプロタイプとDPB1アリルがHBワクチン応答性に独立に関連することを明らかにした(図3)。HBワクチン低反応群におけるHLAアリルやハプロタイプの頻度をB型慢性肝炎患者群(815例)と比較した結果、3つのDRB1-DQB1ハプロタイプが有意な関連を示した。このことは、B型慢性肝炎とHBワクチンの応答性に寄与するHLAは互いに異なっていることを示している。つまり、HBワクチン低反応に特異的に関わるDRB1-DQB1ハプロタイプが存在することを強く示唆している。一方でDPB1アリルについてはHBワクチン低反応群とB型慢性肝炎患者群の比較では有意な関連を示さず、DPB1*05:01を有すると抗体産生量が少なくB型慢性肝炎になりやすい、DPB1*04:02を有すると抗体産生量が多くB型慢性肝炎になりにくいという関係になっていることが明らかとなった。さらにHBワクチン高反応群と健常対照群(2,281例)について同様の比較をした結果、有意な関連を示すHLA classⅡ遺伝子(DRB1-DQB1ハプロタイプ、DPB1アリル)は1つも存在しなかった。このことからHLA classⅡ遺伝子はワクチン高反応には寄与しないことが明らかとなった。加えて、ワクチン高反応群と低反応群の比較でBTNL2遺伝子が検出されたことから、BTNL2遺伝子はワクチン高反応に強く寄与していることが示唆された。

特定のHLA-DR-DQ分子によるHBs抗原の認識(ワクチン低反応)、およびBTNL2分子によるT細胞やB細胞の活性制御(ワクチン高反応)がHBワクチンの効果に重要な役割を果たすことが明らかとなった。

図3 HBワクチン高反応群、中反応群、低反応群を対象としたGWAS
図3 HBワクチン高反応群、中反応群、低反応群を対象としたGWAS

年齢と性別で補正をして、ワクチン高反応群、中反応群、低反応群を対象としたGWASを実施した。SNP filteringの条件を満たした427,664SNPsで統計解析を実施したところ、HLA classⅡ遺伝子領域に存在するSNP(rs2395179)が最も強い関連を示した。

今後の展望

HBワクチン接種によって十分に感染予防できるレベルのHBs抗体を獲得できるのは約6割であった(HBsAb 100mIU/mL以上、1,193人中735人)。本研究の成果をもとに国際共同研究を進めることで、ユニバーサルワクチネーションが行われている日本やその他の国において、HBワクチンの適正かつ効率的な使用方法の確立が期待できる。

用語
(注1)ゲノムワイドSNPタイピング
ヒトゲノム上に存在する数10万‐数100万箇所のSNPを同時に解析すること。
(注2)ゲノムワイド関連解析(GWAS)
ゲノムワイドSNPタイピングにより決定されたSNPの頻度を疾患や量的形質と統計的に比較する方法。
(注3)HLA imputation
HLA imputation法は、ゲノムワイドSNPタイピングデータなどからHLAの遺伝子型を高い精度で推定する遺伝統計解析の手法である。HLAはヒト白血球抗原のことで、ヒトのほぼすべての細胞と体液に分布しており、ヒトの免疫に関わる重要な分子として働く。ヒト第6染色体の短腕部に存在しており、遺伝子の機能や構造からセントロメア側からclassⅡ、classⅢ、およびclassⅠの3つの領域で構成されている。
(注4)アリル
相同の遺伝子座で異なる遺伝情報を有する対立遺伝子のこと。
(注5)ハプロタイプ
アリルの組み合わせ。
(注6)ユニバーサルワクチネーション
国民全員がワクチンを受ける方法。2016年10月からHBワクチンは日本でもユニバーサルワクチンとなった。
発表雑誌
雑誌名:Hepatology
論文名:Key HLA-DRB1-DQB1 haplotypes and role of the BTNL2 gene for response to a hepatitis B vaccine
掲載日:米国東部標準時間3月14日に、先行してオンライン版に掲載。
参照URL

Hepatology ホームページ

研究グループ・研究支援

本研究は国立国際医療研究センターを主施設とする多施設共同研究(研究名:B型肝炎に関する統合的臨床ゲノムデータベースの構築を目指す研究、研究代表者:溝上雅史)で行われました。日本医療研究開発機構(AMED)臨床ゲノム情報統合データベース整備事業「B型肝炎に関する統合的臨床ゲノムデータベースの構築を目指す研究」、肝炎等克服緊急対策研究事業「B型肝炎ウイルス再活性化に関与するウイルス・宿主要因の解明に基づく予防対策法の確立を目指す研究」、B型肝炎創薬実用化等研究事業「B型肝炎ウイルス排除、慢性化および肝発がんの機序解明を目指す研究」、および日本学術振興会科研費の支援を受けています。

国立国際医療研究センターは本研究全体の総括、遺伝統計解析、抗体測定、東京大学はゲノムワイドSNPタイピングの実施、HLA imputationの実施、川崎医科大学、筑波大学、岩手医科大学、千葉大学、国際医療福祉大学はHBワクチン接種症例の収集および臨床情報の取得をそれぞれ担当しました。

お問合せ先
本件に関するお問合せ先

責任著者 西田 奈央(にしだ なお)
国立国際医療研究センター研究所 ゲノム医科学プロジェクト 上級研究員

取材に関するお問合せ先

国立国際医療研究センター 企画戦略局 広報企画室
広報係長 三山 剛史

AMED臨床ゲノム情報統合データベース整備事業に関するお問合せ先

国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED) 基盤研究事業部 バイオバンク課

AMED肝炎等克服緊急対策研究事業およびB型肝炎創薬実用化等研究事業に関するお問合せ先

国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED) 戦略推進部 感染症研究課

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