脳性麻痺に酷似する遺伝性疾患の一群を特定

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妊娠週数と頭部画像検査が精密医療実現への鍵となるか

2018-04-03 東北大学大学院医学系研究科,東北大学病院,宮城県立こども病院,日本医療研究開発機構

発表のポイント
  • 遺伝子の変異が強く関わる脳性麻痺注1様患者の一群を特定した。
  • 正常な妊娠週数(満期産注2)で出生し、頭部画像検査で明らかな異常のない原因不明の脳性麻痺様患者の約半数に遺伝子の変異を認め、脳性麻痺に酷似する遺伝性疾患を高率に抽出した。
  • 本研究の結果は、脳性麻痺やそれに酷似する遺伝性疾患の将来的な病態解明、治療法の開発および精密医療(プレシジョン・メディシン)注3を促進することが期待される。
概要

東北大学大学院医学系研究科小児病態学分野の呉 繁夫(くれ しげお)教授、竹澤 祐介(たけざわ ゆうすけ)医師、東北大学病院小児科の菊池 敦生(きくち あつお)助教、宮城県立こども病院の萩野谷 和裕(はぎのや かずひろ)副院長らの研究グループは、原因不明の脳性麻痺と診断された患者(脳性麻痺様患者)のうち、脳の画像所見に特に異常がなく満期産で出生した患者群において、神経発達疾患をひきおこすとされる遺伝子変異を約半数(17名中9名)に特定しました。

この研究成果は、多様な背景をもつ脳性麻痺様患者の中に遺伝子変異を高率にもつ集団があることを示しました。この様な集団には遺伝学的検査が効果的であることを示しています。今回の成果は、脳性麻痺やそれに酷似する遺伝性疾患の病態解明、治療法の開発および個々の病態にあわせた適切な医療的介入(精密医療:プレシジョン・メディシン)の促進に貢献すると期待されます。

本研究成果は米国医学誌Annals of Clinical and Translational Neurologyのオンライン版に2018年3月27日(日本時間)に掲載されました。本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)による未診断疾患イニシアチブ(IRUD)における支援(難治性疾患実用化研究事業「未診断疾患に対する診断プログラムの開発に関する研究」)、および日本学術振興会科学研究費助成金の支援を受けて行われました。

研究内容

脳性麻痺は小児の運動障害の最多の原因であり、本邦では年間1,000~2,000人に発症していると推定されています。脳性麻痺の症状の種類や程度、原因は様々であり、患者に与える影響や必要な医療的介入の方法も個々に大きく異なります。そのため、根本的な治療法に乏しく、長期にわたるリハビリテーションを要するなど、患者の社会生活が著しく損なわれます。さらに、重症例では家族の医療経済的負担や長時間の介護など、社会的負担も大きい疾患です。

以前は、脳性麻痺の原因の大部分が感染症や低酸素などの出生前後の環境の異常によるものと考えられていました。近年では、脳性麻痺の定義を満たす患者(脳性麻痺様患者)の一部では遺伝子変異や染色体の構造変化といった遺伝的要因が関わっており、脳性麻痺に酷似した遺伝性疾患であることが指摘されています(図1)。しかし、どのような特徴をもつ脳性麻痺様患者において遺伝的要因が関わっているかは不明でした。

本研究では、宮城県立こども病院で診察している897例の脳性麻痺・脳性麻痺様患者の中でも1) 満期産で出生し、かつ2) 頭部MRI注4画像で明確な異常を認めない患者により多く遺伝的要因が関与していると仮定し、そのような特徴を持つ原因不明の脳性麻痺様患者17名とその両親について遺伝子解析を行いました。マイクロアレイCGH解析注5およびトリオ全エクソーム解析注6を行った結果、9名の患者に遺伝子変異があることを確認しました(図2)。また、確認された遺伝的変異の大部分は両親からの遺伝ではなく、新たに発生したものであることが明らかとなりました。

本研究の結果は、多様な背景をもつ脳性麻痺・脳性麻痺様患者において、ある同じ条件に当てはまる患者に対して遺伝学的検査を進める根拠の一つとなります。遺伝子変異が判明した場合、個々の病態にあわせた適切な医療的介入(精密医療:プレシジョン・メディシン)を行えることが期待されます。さらには脳性麻痺やそれに酷似する遺伝性疾患全体の将来的な病態解明や治療法の開発の促進に寄与するものと期待されます。

用語説明
注1.脳性麻痺:
「受胎から生後4週間以内の新生児までの間に生じた、脳の非進行性病変に基づく、永続的な、しかし変化しうる運動および姿勢の異常である。その症状は満2歳までに発現する。進行性疾患や一過性運動障害または正常化するであろうと思われる運動発達遅延はこれを除外する」と定義されている(厚生省脳性まひ研究班(1968))。
注2.満期産:
出生時点での妊娠週数が37週以上42週未満であること。
注3.精密医療(プレシジョン・メディシン):
遺伝情報の解析などを用いて個人や病気の性質を詳細に調べ、適した治療を個々に選択して行うこと。
注4.MRI:
画像検査の一つ。Magnetic Resounance Imagingの略語。
注5.マイクロアレイCGH解析:
主に染色体の数の異常を検出するための遺伝学的検査方法の一つ。
注6.トリオ全エクソーム解析:
両親と患者のDNAから各遺伝子の変化を解析する遺伝学的検査方法の一つ。

図1.脳性麻痺(脳性麻痺様疾患も含む)の原因と発生時期
図1. 脳性麻痺(脳性麻痺様疾患も含む)の原因と発生時期

図2.本研究の対象。脳性麻痺には脳性麻痺様疾患も含む。
図2. 本研究の対象。脳性麻痺には脳性麻痺様疾患も含む。

論文題目
English Title:
Genomic analysis identifies masqueraders of full-term cerebral palsy
Authors:
Yusuke Takezawa, Atsuo Kikuchi, Kazuhiro Haginoya, Tetsuya Niihori, Yurika Numata-Uematsu, Takehiko Inui, Saeko Yamamura-Suzuki, Takuya Miyabayashi, Mai Anzai, Sato Suzuki-Muromoto, Yukimune Okubo, Wakaba Endo, Noriko Togashi, Yasuko Kobayashi, Akira Onuma, Ryo Funayama, Matsuyuki Shirota, Keiko Nakayama, Yoko Aoki, and Shigeo Kure
「満期産脳性麻痺に酷似する遺伝子疾患の同定」
著者名
竹澤 祐介、菊池 敦生、萩野谷 和裕、新堀 哲也、沼田-植松 有里佳、乾 健彦、山村-鈴木 菜絵子、宮林 拓矢、安西 真衣、鈴木-室本 智、大久保 幸宗、遠藤 若葉、冨樫 紀子、小林 康子、大沼 晃、舟山 亮、城田 松之、中山 啓子、青木 洋子、呉 繁夫
掲載誌
Annals of Clinical and Translational Neurology
お問い合わせ先
研究に関すること

東北大学大学院医学系研究科小児病態学分野
教授 呉 繁夫(くれ しげお)

助教 菊池 敦生(きくち あつお)

宮城県立こども病院神経科
副院長 萩野谷 和裕(はぎのや かずひろ)

取材に関すること

東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室

AMED事業に関すること

日本医療研究開発機構 戦略推進部 難病研究課

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