細孔空間を使って異なる分子を交互に配列~電荷寿命1,000倍、有機太陽電池の究極構造を実現~

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2018-04-25 京都大学,科学技術振興機構(JST)

ポイント
  • 有機太陽電池の材料として、電子を与える(ドナー)分子と電子を受け取る(アクセプター)分子が規則的かつ交互に配列した究極に理想的な構造体が求められていました。
  • 周期性の細孔空間を構造内に有する多孔性物質を利用することで、分子を交互に配列させた構造体を創製し、光によって生じる電荷を、従来寿命の約1,000倍と安定化することに成功しました。
  • 有機太陽電池をはじめとするエネルギー変換デバイスの高効率化につながることが期待されます。

京都大学の研究グループは、仏高等師範学校(ENS)の研究グループと協力し、周期性の細孔空間を構造内に有する多孔性物質を利用することで、これまで有機太陽電池注1)の究極的な理想構造とされてきた、2種類の異なる分子が規則的かつ交互に配列した構造体を作り出すことに成功しました。

金属イオンと有機物が結合してできる多孔性金属錯体(MOF)は、骨格中にさまざまな光電子機能部位を分子レベルで規則的に配置させることが可能です。

植村 卓史 京都大学 大学院工学研究科 准教授(現 東京大学 大学院新領域創成科学研究科 教授)、北尾 岳史 京都大学 大学院工学研究科 博士研究員(現 東京大学 大学院新領域創成科学研究科 助教)、北川 進 京都大学 高等研究院 物質-細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)拠点長らの研究グループは、ドナー分子注2)であるポリチオフェンを、アクセプター分子注3)として知られる酸化チタンを含むMOF内で合成することで、ドナーとアクセプターが分子レベルで規則的かつ交互に配列した構造体を作り出すことに成功しました。その結果、電流の担い手となる電荷の寿命は従来の約1,000倍となり、非常に不安定な電荷を飛躍的に安定化させることに成功しました。

本成果を応用することで、有機太陽電池をはじめとするさまざまなエネルギー変換デバイスの高効率化につながることが期待されます。

本研究成果は、2018年4月25日(日本時間)発行の国際科学誌「Nature Communications」に掲載されます。

本成果は、以下の事業によって得られました。

  • 科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 CREST
    「超空間制御に基づく高度な特性を有する革新的機能素材等の創製」
    (研究総括:瀬戸山 亨)
  • 文部科学省 科学研究費助成事業 新学術領域研究(配位アシンメトリ)
<背景>

近年、地球規模の環境・エネルギー問題がますます深刻化するなか、太陽電池は、石油資源に頼らない新たなエネルギー源の1つとして、社会から広く注目されています。

有機太陽電池は、光によって電子を放出しプラスの電荷を帯びるドナー分子と、電子を受け取りマイナスの電荷を帯びるアクセプター分子から構成されています。これらの分離された電荷は、電流の担い手となりますが、非常に不安定なものです。性能向上のためには、電荷分離状態注4)を効率よく作り出し、かつ長く保つことが大切です。そのためには、2種類の分子をどのように配列するのかが非常に重要です。

相互貫入型構造と呼ばれる、ドナーとアクセプターが規則的かつ交互に配列した構造体は、高効率に長寿命の電荷分離状態を作り出すことができるため、有機太陽電池の材料として究極的な理想構造であるとされています(図1)。しかし、一般的にドナーとアクセプターはランダム(無秩序)に混ざり合ってしまうため、その配列を精密に制御することは、従来非常に困難でした。

本研究グループは、以前から、高分子を多孔性金属錯体(MOF)の細孔空間内に拘束することで、高分子鎖の配向方向や集積数を、分子レベルで精密に制御できることを見いだしており、本研究は、その知見を生かしたものです。

<研究手法・成果>

本研究では、金属イオンとそれをつなぐ有機物からなり、周期的なナノサイズの空間を有する多孔性金属錯体(MOF)に着目しました。MOFは構成要素を適切に選択することで、細孔のサイズや形を合理的にデザインできるだけでなく、さまざまな光電子機能部位を骨格中に規則的に配置させることも可能です。そこで研究グループは、アクセプター部位を有したMOFとドナー性の高分子を複合化することで、MOFの骨格構造を反映した、ドナーとアクセプターが分子レベルで規則的に交互に並んだ構造体「MOF/ポリマーナノハイブリッド材料」の創製に取り組みました。

まず、ENSのクリスチャン・セレー 教授らの研究グループと協力し、チタンイオン(IV)とメチレンジイソフタル酸を混合することで、酸化チタン部位を有したMOFを新たに合成しました。酸化チタンは、化粧品や塗料などに用いられ、我々の身の回りに欠かせない材料ですが、アクセプター材料としても機能することから、太陽電池への応用が活発に研究されています。

合成したMOFは、構造解析の結果、酸化チタンナノワイヤー(ごく細い物質構造)と有機部位から構成されており、整列した一次元ナノ空間を有していることが分かりました。

京都大学の関 修平 教授らのグループと協力してMOFの光伝導度測定を行ったところ、酸化チタンナノワイヤーの太さは1nm以下と極細でありながら、酸化チタンと同様に良好な光伝導性を有していることが分かりました。

続いて、MOFの一次元ナノ空間内で、ドナー性高分子であるポリチオフェンを合成することで、ドナーとアクセプターが分子レベルで規則的かつ交互に配列した構造体「MOF/ポリマーナノハイブリッド材料」を作り出すことに成功しました(図2)。種々の分光測定および計算から、光によって、ポリチオフェンからMOFへ電子の移動が起こり、電荷分離状態を発現していることが分かりました。

電流の担い手であるプラスとマイナスの電荷は、通常、互いに反応しやすく即座に失われてしまうため、その不安定さが有機太陽電池の性能向上の大きな障害となっていました。本研究で合成した構造体の電荷寿命は、調べたところ1ミリ秒を超え、これまで報告されているものよりも約1,000倍長いことが分かりました。MOF/ポリマーナノハイブリッド材料によって長寿命電荷分離状態を作り出すことに成功し、電荷を飛躍的に安定化させたといえます。

<波及効果、今後の予定>

ドナーおよびアクセプター分子は、ナノレベルで組み合わせることで、単独では発現させることができない電荷分離などの機能を示すことから、さまざまな電子デバイスの核となる構造体として盛んに研究がなされています。本研究では、MOFの骨格構造を反映させることで、ドナーとアクセプターの集合状態を分子レベルで合理的かつ緻密に作り出すことができることを初めて実証しました。本成果は、光電子デバイスの高効率化に向けた材料設計に有用な指針を与えるものです。

MOFの構造多様性を生かすことで、既存の材料を凌駕するような、新規ドナーアクセプター交互配列構造体の創製が期待されます。また、MOFは薄膜化も可能であるため、太陽電池を作製する上で好適といえます。研究グループは今後、MOF/ポリマーナノハイブリッド材料を用いて実際にデバイスの作製に取り組んでいく予定です。

<参考図>

図1 有機太陽電池のイメージ図

図1 有機太陽電池のイメージ図

左)一般的にドナーとアクセプターはランダムに混ざり合ってしまうため、その配列を精密に制御することは、従来非常に困難だった。

右)ドナーとアクセプターが規則的かつ交互に配列した「相互貫入型構造」では、高効率に長寿命の電荷分離状態を作り出すことができるため、有機太陽電池の材料として究極的な理想構造であるとされる。

図2 ドナーアクセプター交互配列構造体のイメージ図

図2 ドナーアクセプター交互配列構造体のイメージ図

アクセプターとなる酸化チタンを含んだMOFの一次元ナノ空間内で、ドナー性高分子であるポリチオフェンを合成することで、ドナーとアクセプターが分子レベルで規則的かつ交互に配列した構造体を創製。

<用語解説>
注1)有機太陽電池
有機物が光を吸収することで発電する太陽電池。
注2)ドナー分子
光を照射した際に電子を放出する分子。電子放出後はプラスの電荷を帯びる。
注3)アクセプター分子
光を照射した際に電子を受け取る分子。電子を受け取った後はマイナスの電荷を帯びる。
注4)電荷分離状態
ドナー分子とアクセプター分子がそれぞれプラスとマイナスの電荷を帯びた状態。
<論文情報>

タイトル:“A Phase Transformable Ultrastable Titanium-carboxylate Framework for Photoconduction”

著者名:Sujing Wang, Takashi Kitao, Nathalie Guillou, Mohammad Wahiduzzaman, Charlotte Martineau-Corcos, Farid Nouar, Antoine Tissot, Laurent Binet, Naseem Ramsahye, Sabine Devautour-Vinot, Susumu Kitagawa, Shu Seki, Yusuke Tsutsui, Valérie Briois, Nathalie Steunou, Guillaume Maurin, Takashi Uemura and Christian Serre

doi:10.1038/s41467-018-04034-w

<お問い合わせ先>
<研究に関すること>

植村 卓史(ウエムラ タカシ)
東京大学 大学院新領域創成科学研究科 物質系専攻/東京大学 大学院工学系研究科 応用化学専攻 教授

北尾 岳史(キタオ タカシ)
東京大学 大学院新領域創成科学研究科 物質系専攻/東京大学 大学院工学系研究科 応用化学専攻 助教

<JST事業に関すること>

中村 幹(ナカムラ ツヨシ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ

<報道担当>

京都大学 総務部 広報課

京都大学 高等研究院 物質-細胞統合システム拠点
パブリックエンゲージメントユニット

科学技術振興機構 広報課

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