内在性レトロウイルスを抑え込む普遍的な仕組み~抑制性ヒストン修飾の体細胞での機能を解明~

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京都大学 ウイルス・再生医科学研究所
助教 竹本 経緯子(たけもと けいこ)

 

 

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当

京都大学 総務部 広報課 国際広報室

 

 

補足説明
  1. 内在性レトロウイルス(ERV)
    トランスポゾンの一種である。ゲノム中のおそらくレトロウイルス由来の配列であり、ヒトゲノム中の約8%、マウスゲノムの約10%を占めると考えられる。外来性レトロウイルスが生物に感染し、生殖細胞ゲノムに取り込まれ、次世代に受け継がれて生物ゲノム中に定着したもの。多くのERVは内部の配列に変異を持つものが多く、トランスポゾンとしての活性を失っているものが多い。ERVはEndogenous Retrovirusesの略。
  2. 自己免疫疾患
    何らかの免疫異常によって自分の身体を構成する物質を異物のように認識し、自己抗体や自己に反応するリンパ球を作り、自分の組織を攻撃する疾患。代表的なものに関節リウマチなどあるが、根本的な治療法は見つかっていない。
  3. DNAのメチル化
    DNAを構成する塩基のシトシン(C)にメチル基を付加する反応。遺伝子の制御領域の高度なメチル化が、遺伝子発現を抑制すると考えられている。
  4. ノックアウト
    目的の遺伝子を人為的に欠失させること。
  5. 転写因子
    DNAに結合するタンパク質。遺伝子の発現量を調節する機能があり、発生や成長に重要な役割を担う。
  6. トランスポゾン
    細胞内でゲノム上の位置を移動(転移)することができるDNAの単位。動く遺伝子。ヒトゲノムの半分以上を占める。
  7. エピジェネティック修飾
    遺伝情報を伝達するDNAの塩基配列自体には変更を加えず、DNAのメチル化やヒストン修飾などの化学修飾(メチル基やアセチル基、リン酸基等が可逆的に付加されること)を介して、ゲノムDNAの機能に変化をもたらす修飾のこと。
  8. ヒストン修飾
    ヒストンとは染色体を構成する主要なタンパク質である。染色体は、ヒストンH2A、H2B、H3、H4のそれぞれ2分子からなる八量体に、DNAが左巻きに1.65回巻きついた複合体を基本単位(ヌクレオソーム)として存在している。ヌクレオソームから各ヒストンのアミノ酸末端領域が突出しており、メチル化やアセチル化、リン酸化などの修飾を受けることにより、染色体構造に変化をもたらし、遺伝子発現の抑制や活性化を調節する。
  9. ES細胞
    脊椎動物の初期胚が持つ、全ての種類の体細胞へ分化する能力を多能性という。多能性を持ち、試験管内で培養して無限に増やすことができる細胞を多能性幹細胞という。ES細胞は、哺乳類の着床前胚(胚盤胞)に存在する内部細胞塊から作製された多能性幹細胞。
  10. 次世代シーケンサー
    サンガー法を利用した蛍光キャピラリーシークエンサーである「第一世代シークエンサー」と対比させて使われる用語。機種によるが、一度に107~1010(1,000万~100億)個のDNAの配列を決定できる。以前はヒトのゲノム配列を決定するのに14年程度かかったが、次世代シークエンサーを用いると、数日で決定できる。
  11. 線維芽細胞
    結合組織を構成する細胞の一つ。コラーゲン、エラスチン、ヒアルロン酸といった真皮の成分を作り出す。核小体が明瞭な楕円形の核を有し、細胞質は塩基好性を示す。
  12. VL30ファミリー
    ERVのファミリーの一種。げっ歯類のみに存在する。
  13. LTR
    ウイルスゲノムの両末端に存在する、数百塩基の長い繰り返し配列。ウイルスの転移活性に必要なほか、さまざまな転写調節配列が存在する。LTRはLong terminal repeatの略。
  14. MAPK経路
    MAPキナーゼ(mitogen-activated protein kinase, MAPK)経路は細胞の増殖、分化、ストレス応答などに関わるセリン/セレオニン プロテインキナーゼファミリーのシグナル伝達経路であり、真核生物のあいだで広く保存されている。
  15. ノックダウン
    mRNAの分解促進でタンパク質の量を著しく低下させることにより、遺伝子の機能を大きく減衰させる方法。遺伝子破壊以外の操作により行う場合が多い。

 

図1 Setdb1遺伝子のノックアウトとERVの脱抑制

いくつかのマウス細胞でSetdb1遺伝子をノックアウトすると野生型細胞(WT)に比べてERVの発現量が上昇(脱抑制)するものがある(マゼンタ色のほうが緑色に比べて発現量が高い)。どの種類のERVが脱抑制するかはそれぞれの細胞で特徴を有する。

本研究で提唱したモデルの図

図2 本研究で提唱したモデル

a) 野生型の細胞では、ヒストンメチル化酵素Setdb1がERV領域にヒストンH3K9me3修飾を入れることによってブレーキの役割を果たし、ERVの発現を抑制する。
b) Setdb1ノックアウト細胞では、H3K9me3修飾がなくなりブレーキが外れる。ただし、アクセルとなるものがない場合、ERVの発現は誘導されないままである。
c) Setdb1ノックアウト細胞で、それぞれのERVの発現に必要な転写因子がその細胞で発現もしくは活性化されているときのみ、ERVが脱抑制される。

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