難病COPA異常症の発症分子機構の解明~自己免疫・自己炎症性疾患の新規治療薬の開発に期待~

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2020-07-29 東北大学大学院生命科学研究科,日本医療研究開発機構

発表のポイント
  • 関節炎や間質性肺炎を引き起こすCOPA*1異常症の炎症病態が自然免疫シグナル(STING*2経路)の異常な活性化に起因することを明らかにしました。
  • STING特異的阻害剤で処理することで、COPA異常症患者由来細胞の恒常的な炎症応答が改善しました。
  • 本研究で用いたSTING阻害剤がCOPA異常症の創薬シーズとなることが期待されます。
概要

COPA異常症は、2015年に発見された遺伝性自己免疫・自己炎症性疾患で、関節炎や間質性肺炎を特徴とする常染色体顕性*3の難治性疾患です。これまでにCOPA遺伝子の変異が起因となり発症することが知られていましたが、その病態発症メカニズムについては不明でした。

東北大学大学院生命科学研究科の向井助教・田口教授らのグループは、COPA異常症モデルマウスを用いて、COPA異常症の炎症病態が自然免疫シグナル(STING経路)の異常な活性化に起因することを明らかにしました。本研究は、COPA異常症の発症原因を初めて明らかにした重要な報告です。

本研究結果は、2020年7月28日(米国時間)のJournal of Experimental Medicine誌(電子版)に掲載されました。

詳細な説明

COPA異常症は2015年に発見された常染色体顕性の遺伝性自己免疫・自己炎症性疾患であり、ゴルジ体-小胞体間の膜輸送を担うCOP-I複合体*4のタンパク質因子の一つであるα-COP(遺伝子名:COPA)にK230N、R233H、E241K、D243Gのいずれかの点変異が入ることで発症します(Watkin et al., Nat. Genet., 2015)。COPA異常症患者でI型インターフェロン*5(I型IFN)応答が亢進していることが報告されており、炎症病態との関連が指摘されていましたが、その分子メカニズムは全く不明でした(Volpi et al., Clin. Immunol., 2018)。

これまでに、東北大学大学院生命科学研究科の向井助教・田口教授のグループはI型IFN産生経路の一つであるSTING経路の活性化機構を解析し、DNAウイルス感染に伴ってSTINGが小胞体からゴルジ体へ移行し、ゴルジ体でSTINGがパルミトイル化*6されて下流シグナルが活性化することを明らかにしてきました(Mukai et al., Nat. Commun., 2016; Ogawa et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 2018; Hansen et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 2018)。今回、COPA異常症モデルマウス及び患者由来細胞を用いてその病態発症の分子メカニズムを解析したところ、COPA異常症ではウイルス感染がない状態でもSTINGがゴルジ体に蓄積してしまい、恒常的に炎症応答が惹起されていることを見出しました(図1)。COPA異常症患者由来細胞をSTING特異的パルミトイル化阻害剤H-151で処理したところ、I型IFNの発現が抑制されました(図2)。これらの結果から、本研究で用いたSTING阻害剤がCOPA異常症の創薬シーズとなることが期待されます。

図1 本研究の概要野生型細胞では、STINGは恒常的に小胞体を少しずつ脱出しているものの、常にCOP-I小胞がSTINGをゴルジ体から小胞体に運搬することで、小胞体局在を維持している(左)。一方で、COPA異常症細胞では、COP-I小胞による輸送が阻害されてSTINGがゴルジ体に蓄積し、STINGがパルミトイル化することで下流シグナル分子TBK1及びIRF3が活性化され、IFNβ(I型IFNの一種)が発現上昇する(右)。

図2 STING阻害剤でCOPA異常症のI型IFN応答を抑制できるCOPA異常症患者由来の末梢血単核球で見られるIFNβの発現上昇は、STING特異的パルミトイル化阻害剤H-151で抑制された。

本研究は日本医療研究開発機構(AMED)革新的先端研究開発支援事業(PRIME)「画期的医薬品等の創出をめざす脂質の生理活性と機能の解明」研究開発領域(研究開発総括:横山信治)における研究開発課題「細胞内小器官特異的脂質環境が制御するシグナル伝達とその破綻に起因する疾患の分子機構の解明」(研究開発代表者:田口友彦)及び文部科学省科学研究費補助金(JP19H00974、JP15H05903、JP17K15445)の支援を受けて行われました。

用語説明
*1 COPA:
Coatomer protein alphaの略。ゴルジ体から小胞体への輸送を担うCOP-I小胞*4を形成するタンパク質の一つ。COPA異常症は、COPA遺伝子の変異により生じる常染色体顕性の遺伝性自己免疫・自己炎症性疾患であり、関節炎および間質性肺炎を特徴とする難病である。
*2 STING:
Stimulator of interferon genesの略。小胞体に局在する4回膜貫通型タンパク質で、細胞質DNAの出現に反応して自然免疫・炎症応答を惹起する。
*3 顕性:
顕性は、有性生殖の遺伝に関する現象である。一つの遺伝子座に異なる遺伝子が共存したとき、顕性の遺伝子の形質が表現型として表れる。
*4 COP-I複合体:
ゴルジ体から小胞体への輸送を担うCOP-I小胞の被覆を行うコートタンパク質複合体。7種類の異なるタンパク質サブユニット(α, β, β’, γ, δ, ε, ζ)から構成される。
*5 I型インターフェロン:
ウイルス感染時に誘導される抗ウイルス応答を担うサイトカイン。
*6 パルミトイル化:
タンパク質翻訳後修飾の一種。細胞質タンパク質のシステイン残基にパルミチン酸がチオエステル結合で結合する。STINGはゴルジ体で88、91番目のシステイン残基がパルミトイル化されて活性化する(Mukai et al., Nat. Commun., 2016)。
研究手法

本研究ではCOPA遺伝子の241番目のグルタミン酸をリジンに置換したノックインマウス(CopaE241K/+)を作成したのちに、STING機能不全マウス(Stinggt/gt)と掛け合わせることで自己炎症及び自己免疫の表現型を評価しました。

論文題目
題目:
A defect in COPI-mediated transport of STING causes immune dysregulation in COPA syndrome
著者:
Zimu Deng, Zhenlu Chong Christopher S. Law, Kojiro Mukai, Frances O. Ho, Tereza Martinu, Bradley J. Backes, Walter L. Eckalbar, Tomohiko Taguchi, Anthony K. Shum
筆頭著者情報:
Zimu Deng, Zhenlu Chong
Department of Medicine, University of California San Francisco, San Francisco, CA
雑誌:
Journal of Experimental Medicine
Volume Page: Vol. 217 No. 11 e20201045
DOI:
10.1084/jem.20201045
お問い合わせ先
研究に関すること

東北大学大学院生命科学研究科
担当:田口友彦(たぐちともひこ)

報道に関すること

東北大学大学院生命科学研究科広報室
担当:高橋さやか(たかはしさやか)

AMEDの事業に関するお問い合わせ

国立研究開発法人日本医療研究開発機構
シーズ開発・研究基盤事業部 革新的先端研究開発課

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