西アフリカの主食作物ギニアヤムの起源を解明

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ニアヤムはサバンナと熱帯雨林に生育する野生種の雑種起源

2020-12-08 京都大学,国際農研,岩手生物工学研究センター

概要

ヤマノイモ属の根菜作物を総称してヤム(Yam)と呼びます。ナガイモもヤムの一種です。世界のヤムの90%以上は、ナイジェリアやガーナなどの西アフリカ地域で生産されています。この地域の最も重要なヤムはギニアヤムという種です。ギニアヤムは、主食として重要であるとともに、西アフリカの社会と文化に密接に関わっています。しかし、その起源は今まで不明でした。私たちの研究グループは、2017年にギニアヤムのゲノム解読に世界で初めて成功しました。今回発表の研究では、300系統以上のギニアヤムの全ゲノム解読を進め、それらを現地の近縁野生種のゲノムと比較しました。その結果、ギニアヤムが、サバンナ地帯に生育する野生種アビシニカヤマノイモと熱帯雨林地帯に生育する野生種プラエヘンシリスヤマノイモの雑種である可能性が高いことを明らかにしました。今後、ゲノム情報を活用し、野生種を交配親として利用することにより、耐病性、ストレス耐性、収量性などに関わる性質をギニアヤムに導入して西アフリカの食料安全保障に寄与することができます。

本研究成果は、 (公財)岩手生物工学研究センター、ナイジェリア国際農業研究センター(IITA)、国際農林水産業研究センター(国際農研)、総合研究大学院大学、京都大学農学研究科の博士課程学生 杉原優氏、寺内良平教授らの共同研究成果です。

本成果は、2020年12月3日に米国の国際学術誌「米国科学アカデミー紀要」 にオンライン掲載されました。

関連情報

本研究は、(公財)岩手生物工学研究センター、国際熱帯農業研究所(IITA)がビルメリンダゲーツ財団から支援を受けて実施しているAfricaYamプロジェクト、および(公財)岩手生物工学研究センター、国際熱帯農業研究所(IITA)が国際農林水産業研究センター(国際農研)から支援を受けて実施しているEDITS-YAMプロジェクトの一環として実施しました。

発表論文

論文著者
Yu Sugihara, Kwabena Darkwa, Hiroki Yaegashi, Satoshi Natsume, Motoki Shimizu, Akira Abe, Akiko Hirabuchi, Kazue Ito, Kaori Oikawa, Muluneh Tamiru-Oli, Atsushi Ohta, Ryo Matsumoto, Paterne Agre, David De Koeyer, Babil Pachakkil, Shinsuke Yamanaka, Satoru Muranaka, Hiroko Takagi, Ben White, Robert Asiedu, Hideki Innan, Asrat Asfaw, Patrick Adebola, Ryohei Terauchi
論文タイトル
Genome Analyses Reveal the Hybrid Origin of the Staple Crop White Guinea Yam (Dioscorea rotundata)
雑誌
Proceedings of the National Academy of Sciences, U.S.A.
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問い合わせ先など

京都大学農学研究科栽培植物起原学分野(京都府京都市)
研究推進責任者: 教授 寺内良平

国際農研(茨城県つくば市)
理事長 岩永 勝
研究推進責任者:プログラムディレクター 中島 一雄
研究担当者:生物資源・利用領域 村中 聡
広報担当者:企画連携部 情報広報室長 中本 和夫
プレス用 e-mail:koho-jircas@ml.affrc.go.jp

本資料は、京都大学記者クラブ、文部科学記者会、科学記者会、農政クラブ、農林記者会、農業技術クラブ、筑波研究学園都市記者会に配付しています。

※国際農研(こくさいのうけん)は、国立研究開発法人 国際農林水産業研究センターのコミュニケーションネームです。
新聞、TV等の報道でも当センターの名称としては「国際農研」のご使用をお願い申し上げます。

背景

ナイジェリア、ガーナ、ベニンなどの西アフリカのギニア湾沿岸の人々は、ギニアヤムを主食としてきました。ギニアヤムは、ゆでた後、臼と杵でモチのようについて食べます。現地の人々にとって、ギニアヤムは食料としてのみならず、社会や文化で主要な地位を占めている最重要作物です。しかし分布がアフリカに限られていることから、ギニアヤムの起原、系統関係や品種改良に関する研究は遅れていました。ギニアヤムは、ウイルス病、線虫などに弱く、乾燥耐性、収量増などが求められています。私たちは、ナイジェリアのイバダンにある国際熱帯農業研究所(IITA)の研究者と共同で、西アフリカの食料安全に貢献する目的で、ギニアヤムの改良を目指した研究を続けています。そのために、2017年にギニアヤムの全ゲノム配列を解読して公表しました(Tamiru ら、2017 BMC Biology)。その後共同研究を進め、西アフリカの300系統以上のギニアヤムの全ゲノム解読を終了しました。得られたゲノム配列を、近縁野生種のゲノム配列と比較したところ、ギニアヤムが2種の野生種の雑種起原であることが明らかとなりました。

本プロジェクトは、京都大学農学研究科栽培植物起原学分野の博士課程学生 杉原優、寺内良平らが、(公財)岩手生物工学研究センター、国際熱帯農業研究所(IITA)、国際農林水産業研究センター(国際農研)、東京農業大学、総合研究大学院大学などの研究者と共同で研究した成果です。

研究手法・成果

ナイジェリアの国際熱帯農業研究所(IITA)の研究者が西アフリカから広く採集して保存しているギニアヤム系統300種類の葉からDNAを抽出し、次世代DNAシーケンサーにより全ゲノム配列を解読しました。この配列を既に公表されている近縁野生種2種の配列と比較しました。これら野生種は、サバンナ地帯に生育するアビシニカヤマノイモと熱帯雨林地帯に生育する野生種プラエヘンシリスヤマノイモです。ゲノム比較の結果、ギニアヤムがこれら2種の雑種起原である可能性が高いことが明らかになりました。昨年(2019年)フランスの研究グループは、ギニアヤムが、野生種プラエヘンシリスヤマノイモから起原したとする仮説を発表しました(Scarcelli et al. 2019 Science Advances)。私たちは、より多くの系統を用いて詳細な研究を実施しました。得られた結果は、昨年報告された仮説を否定する内容です。私たちの研究結果は、アビシニカヤマノイモが母親、プラエヘンシリスヤマノイモが父親となって雑種ができ、この雑種が選抜されて栽培化されてギニアヤムができたことを示唆します。また、成立したギニアヤムに対して野生種から何度か自然交雑で遺伝子が導入されたゲノム配列上の痕跡も見つかりました。

波及効果、今後の予定

ギニアヤムの品種改良の取り組みは始まったばかりです。従来の交配育種では、ギニアヤム栽培種のみが用いられてきました。今回の成果から、ギニアヤムが野生種の雑種起原であることが示されたので、今後野生種を積極的に利用することが重要です。野生種の分布する熱帯雨林が伐採により減少していることから、環境の保全も重要な課題となります。

ギニアヤムの育種における将来の展望図

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細胞遺伝子工学
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