ケトン体合成の新たな作用を発見~ケトン体合成によるミトコンドリア保護~

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2021-02-19 熊本大学,日本医療研究開発機構

ポイント
  • ケトン体合成によりミトコンドリアが保護されるメカニズムを解明しました。
  • 新生児期にケトン体合成が活性化される意義を明らかにしました。
概要

熊本大学大学院生命科学研究部循環器内科学講座、熊本大学国際先端医学研究機構、熊本大学大学院生命科学研究部附属健康長寿代謝制御研究センターの有馬勇一郎助教、西山功一准教授、辻田賢一教授らは、ケトン体合成不全マウスを作製・解析し、ケトン体合成にミトコンドリアを保護する作用があることを確認しました。

本研究成果は、医学雑誌「Nature Metabolism」にグリニッジ標準時(UTC)時間の令和3年2月18日(木)16時00分【日本時間の2月19日(金)1時00分】に掲載されます。

なお、本研究は、熊本大学生命資源研究・支援センター資源開発分野の中川佳子研究員、竹尾透教授、熊本大学発生医学研究所細胞医学分野の日野信次朗准教授、中尾光善教授ら複数の研究グループとの共同研究です*1。日本学術振興会、日本医療研究開発機構(AMED)など複数の研究助成を受けて行われました*2

*1本研究は熊本大学以外においても以下の研究室に御協力いただきました。

  • 広島大学大学院統合生命科学研究科分子遺伝学研究室山本卓教授、佐久間哲史准教授(ケトン体合成不全マウスの作製)
  • 東京大学代謝生理化学分野栗原裕基教授、礪波一夫助教、北沢悠美子博士(Sirtuin3過剰発現マウスの作製・提供)

*2本研究は以下の助成を受けて行われました。

  • 有馬勇一郎:科学研究費補助金(19K08520、17K16014)、日本循環器学会基礎研究助成、公益財団法人住友財団基礎科学研究助成、武田科学振興財団研究助成、かなえ医薬振興財団助成、小野医学研究財団研究奨励助成、日本応用酵素協会
  • 竹尾透:日本医療研究開発機構(AMED)創薬基盤推進研究事業「マウスバンク機能の拡充による創薬イノベーションの迅速化」
  • 辻田賢一:科学研究費補助金(18K08110)
説明

ケトン体はブドウ糖や脂肪酸とともに、エネルギー源として利用されることが知られている代謝産物です。ケトン体は特に、飢餓状態における代替エネルギー源であることが知られています。しかしながら、新生児期においては母乳の摂取量にかかわらずケトン体合成が活発になっていることが確認・報告されており、その役割については分かっていませんでした。

今回の研究では、ケトン体を合成する際に重要となる酵素である、HMG-CoA Synthase 2(HMGCS2)の遺伝子を欠損させたケトン体合成不全マウスを作製し解析した結果、ケトン体ができない状態では、新生仔期より著しい脂肪肝となることが分かりました(図1)。


図1 ケトン体合成不全マウスは生後早期に脂肪肝を呈する

そこで、ミトコンドリアに注目した解析を行うと、クエン酸サイクルを中心とした、ミトコンドリアにおける酵素反応が障害されていることが確認されました。クエン酸サイクルでは、食事によって得られた栄養素がアセチルCoAに変換され、さらにクエン酸と7種類の酸への変換を繰り返すサイクルの中でエネルギーが作り出されます。機能障害の原因を検索した結果、ケトン体合成不全により基質であるアセチルCoAが蓄積し、ミトコンドリア内のタンパク質にアセチル化というタンパク修飾を過剰に加えることで機能を障害していることが確認されました(図2)。


図2 ケトン体合成によるミトコンドリア保護メカニズムHMGCS2が存在する通常の状態(左)と比較して、HMGCS2欠損のケトン体合成不全状態(右)では①ケトン体の原料になるアセチルCoAが細胞内に蓄積し、②ミトコンドリアタンパク(mtP)のアセチル化が過剰になる結果、③クエン酸サイクルの機能障害が生じることが確認されました。


一連の研究結果は、生後授乳に伴って脂肪酸の摂取が急速に増える状態において、通常の状態ではケトン体合成が活発になることが、ミトコンドリアタンパクに過剰なアセチル化修飾が加わることを防止し、ミトコンドリアの機能を維持して保護する作用を持つことを示しています。今後この作用を利用してミトコンドリア保護・臓器保護を目的とした治療応用が期待されます。

論文情報
論文名
Murine neonatal ketogenesis preserves mitochondrial energetics by preventing protein hyperacetylation
著者
Yuichiro Arima*, Yoshiko Nakagawa*, Toru Takeo*, Toshifumi Ishida, Toshihiro Yamada, Shinjiro Hino, Mitsuyoshi Nakao, Sanshiro Hanada, Terumasa Umemoto, Toshio Suda, Tetsushi Sakuma, Takashi Yamamoto, Takehisa Watanabe, Katsuya Nagaoka, Yasuhito Tanaka, Yumiko K Kawamura, Kazuo Tonami, Hiroki Kurihara, Yoshifumi Sato, Kazuya Yamagata, Taishi Nakamura, Satoshi Araki, Eiichiro Yamamoto, Yasuhiro Izumiya, Kenji Sakamoto, Koichi Kaikita, Kenichi Matsushita, Koichi Nishiyama, Naomi Nakagata, and Kenichi Tsujita
*These authors equally contributed to this work.
掲載雑誌
Nature Metabolism
doi
10.1038/s42255-021-00342-6
URL
https://www.nature.com/articles/s42255-021-00342-6
お問い合わせ先

熊本大学大学院生命科学研究部 循環器内科学講座
担当:助教 有馬勇一郎(ありまゆういちろう)

AMEDの事業に関するお問い合わせ
国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
創薬事業部 医薬品研究開発課

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