イネもみ枯細菌病の発症を抑える微生物をイネから発見~ 微生物農薬など、効果的な防除技術の開発に貢献~

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2021-03-03 農研機構

ポイント

農研機構は、イネもみ枯細菌病1)の発症を抑える4種の微生物(細菌)を、イネから発見しました。4種の細菌は「善玉菌」として働き、イネに常在する微生物の全体バランス(微生物叢2))を変化させることにより、もみ枯細菌病の発症を抑えていると推定されました。本成果は、微生物農薬の開発など、決定的な防除方法のないもみ枯細菌病に対する効果的な防御技術の開発に役立つとともに、もみ枯細菌病の発症メカニズムの解明につながると期待されます。

概要


イネもみ枯細菌病は、イネもみ枯細菌病菌の感染により引き起こされ発病量が収量減に直結するイネの重要病害です。地球温暖化の進展に伴い世界的に発生拡大が危惧されており、我が国でも西日本を中心に多発し問題となっています。抵抗性品種が存在せず、現在は殺菌剤等で防除していますが、殺菌剤のきかない原因細菌の出現が問題となっています。また本病害は、原因細菌が感染しても必ずしも病徴が出ないので感染に気づきにくく、感染の拡大を引き起こしがちで対策の難しいことが特徴です。
農研機構は、本病害の発生を抑える4種の有用微生物(RSB)3)(シュードモナス属細菌3種及びステノトロフォモナス属細菌1種)を、もみ枯細菌病に感染したイネの幼苗から発見しました。これらを組み合わせて使用することで、効果的にもみ枯細菌病による幼苗の枯死を抑えることに成功しました(写真)。
発見した細菌をもみ枯細菌病菌と同時にイネに与えると、イネの内生微生物4)叢が変化していることがわかりました。4種の細菌は「善玉菌」として働き、イネの微生物叢を変化させることにより、もみ枯細菌病の発症を抑えていると推定されました。
本成果は、発見した細菌を用いた微生物農薬の開発など、環境負荷の低いもみ枯細菌病の防除資材の開発に役立ちます。また、もみ枯細菌病の発症メカニズムの解明につながると期待されます。

関連情報

特許:特開2019-142847

問い合わせ先

研究推進責任者 :農研機構生物機能利用研究部門 研究部門長 吉永 優

研究担当者 :同 植物・微生物機能利用研究領域 上級研究員 秋本 千春

広報担当者 :農研機構本部広報部広報課 後藤 洋子

詳細情報

開発の社会的背景

イネもみ枯細菌病は、イネもみ枯細菌病菌の感染により引き起こされるイネの重要病害です。地球温暖化の進展に伴い世界的に発生拡大が危惧されており、我が国でも西日本を中心に多発し問題となっています。抵抗性品種が存在せず、現在は殺菌剤等で防除していますが、殺菌剤のきかない原因細菌の出現が問題となっています。
本病害の原因細菌であるイネもみ枯細菌病菌は、生育途中のイネのもみに感染し枯死を引き起こします(穂枯症)。しかしながら、もみに感染しても枯死といった病徴を示さず(不顕性)一見正常な汚染種もみが生産され、日和見的に苗腐敗症を引き起こす場合があります。このように、感染しても必ずしも病徴がでないので感染に気づきにくく、感染の拡大を引き起こしがちで対策の難しい病原菌です。
そのため、「もみ枯細菌病の防除技術の開発」は農林水産省が公表した現場の技術課題に関するデータ(https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kihyo03/gityo/g_needs/)において平成28年度から令和元年度まで連続して解決すべき課題としてあげられています。

研究の経緯

農研機構ではもみ枯細菌病の抵抗性遺伝子の特定や抵抗性遺伝子を持つ抵抗性品種の作出、病原因子の同定など、効果的な防除技術の開発を進めています。また、微生物等を使用した病害虫防御技術の開発も行っており、今回はその一環として、もみ枯細菌病の発症を抑制する有用な微生物を発見しました(図1)。

研究の内容・意義

1.もみ枯細菌病に感染したイネの幼苗に存在する微生物について、本病害への効果(苗腐敗症への効果)を網羅的に調べたところ、発病を抑える4種の細菌(RSB)(シュードモナス属細菌3種及びステノトロフォモナス属細菌1種)を発見しました(図2)。

2.これらの微生物のうち、シュードモナス属細菌(RSB1,RSB10,RSB15)は単独で発症を抑える働きがありました(図3)。一方、ステノトロフォモナス属細菌(RSB2)はその働きがありませんでしたが、RSB15とRSB2を混合してもみ枯細菌病菌と同時に処理したところ、発症が相乗的に抑えられることがわかりました(図3右端)。RSB2は高いバイオフィルム5)形成能を持つことから、もみ枯細菌病菌の産生する毒素等の影響を受けにくくなり、相乗的な効果が得られると考えられました。

3.RSBをもみ枯細菌病菌と同時にイネに処理した場合、イネの内生微生物叢が変化していました(図4)。このことから、もみ枯細菌病の発症には内生微生物の菌叢が大きな影響を与えており、4種の細菌は「善玉菌」としてイネの微生物叢を変化させることにより、もみ枯細菌病の発症を抑えていると推定されました。

今後の予定・期待

本成果は、RSBを用いた微生物農薬の開発など、環境負荷の低いもみ枯細菌病の防除資材の開発に役立ちます。また、高いバイオフィルム形成能をもつステノトロフォモナス属細菌は、市販の微生物資材の効果を高める可能性があり、微生物資材の安定性を高める微生物資材としての活用が見込まれます。
また本成果から、もみ枯細菌病の日和見的な発症の原因として、植物の内生微生物叢の影響が示唆されました。他の日和見感染症についても、内生微生物を考慮した解析により発症の原因が解明でき、効果的な防除技術が開発されると期待されます。

用語の解説
1)イネもみ枯細菌病
もみ枯細菌病菌(バークホルデリア・グルメ)を原因細菌とするイネの病害。発症の条件(気温、生育環境等)が揃った時に発症する日和見感染症として知られます。
2)微生物叢
生体、環境等に存在する多様な微生物の集合
3)RSB: Rice seed born (RSB)
イネの種子を発芽させた幼苗から発見したことから命名しました。
4)内生微生物
エンドファイトともいわれ、植物の種子、根、茎、葉といったあらゆる器官の内部に生息します。内生微生物は地球上のほとんどの植物に潜在的に生息しますが、病原微生物のように目立った害を植物に与えないため存在に気づかれにくく、その生態については不明な点が多いままです。
5)バイオフィルム
微生物自身が生成する細胞外代謝産物を介して、生体の表面等に付着して存在している微生物の集合体。外的な因子(紫外線、毒素等)から微生物自身を守り、増殖を助けるといわれています。
発表論文

Chiharu Akimoto-Tomiyama, Multiple endogenous seed-born bacteria recovered rice growth disruption caused by Burkholderia glumae. Scientific Reports
https://doi.org/10.1038/s41598-021-83794-w

参考図

図1. もみ枯細菌に対する本研究で発見した有用微生物(RSB2及びRSB15)の効果

各菌をもみに与えた後に播種し、8日後の芽生えの様子。もみ枯細菌病菌のみを与えた場合は病害の発症がみられましたが、本研究で発見した有用微生物を一緒に与えると生育が回復し、もみ枯細菌病の発症が抑えられました。


図2. 発見した有用微生物

A, シュードモナス・プチダ RSB1
B, シュードモナス・プチダ RSB10
C, シュードモナス・プチダ RSB15
D, ステノトロフォモナス・マルトフィリア RSB2
スケールバー:1mm


図3. RSB1,RSB10,RSB15は単独でもみ枯細菌病の発症を抑える

各菌をもみに与えた後に播種し、8日後の芽生えの葉の長さを測定しました。


図4. RSBによるイネ内部の微生物叢変化

円グラフ:RSB2とRSB15をもみに与え、栽培後4日目の植物全体の内生微生物叢を次世代シークエンサーで解析したところ、内生微生物の存在割合が変化していることが示されました。

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