新型コロナウイルス感染症流行下では 10歳未満の小児のライノウイルス感染リスクが上昇した

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2021-03-15 東京大学医科学研究所

発表のポイント

  • 新型コロナウイルス感染症の流行前後における呼吸器感染症ウイルス検出状況を比較しました。
  • 新型コロナウイルス感染症流行下では、インフルエンザをはじめとする代表的な呼吸器感染症ウイルスの検出率は低下していました。
  • 一方、10歳未満の小児では、新型コロナウイルス感染症の流行拡大後も新型コロナウイルスはほとんど検出されませんでしたが、ライノウイルス(注)の検出率が著しく上昇していました。
 発表概要

東京大学医科学研究所感染・免疫部門ウイルス感染分野の河岡義裕教授らのグループは、共同研究グループ(※)とともに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行下における呼吸器感染症ウイルスの検出状況を調査しました。
横浜市でCOVID-19流行前後に呼吸器疾患患者(COVID-19患者を除く)から検出されたウイルスを比較した結果、COVID-19流行下では、全年齢層で、インフルエンザをはじめとする代表的な呼吸器感染症ウイルスの検出率が低下していました。一方、10歳未満の小児では、COVID-19の流行拡大後も新型コロナウイルスはほとんど検出されませんでしたが、ライノウイルスの検出率が著しく上昇し、例年の2倍以上となりました。COVID-19流行下で小児のライノウイルス感染リスクが上昇したことを明らかにした初めての報告です。
本研究結果は3月15日、International Society for Influenza and other Respiratory Virus Diseases(インフルエンザ及びその他の呼吸器ウイルス疾患学会)が発行するオープンアクセス誌「Influenza and Other Respiratory Viruses」に掲載されました。
(※)共同研究グループ
国立感染症研究所(高下恵美、森田博子、永田志保、渡邉真治、長谷川秀樹)、横浜市衛生研究所(川上千春、百木智子、七種美和子、清水耕平、小澤広規、熊崎真琴、宇宿秀三、田中伸子、大久保一郎)

 発表内容

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、2020年1月に日本国内の第一例目が報告され、その後、全国に拡がりました。流行は今も続いており、インフルエンザをはじめとするその他の呼吸器感染症との同時流行も心配されています。そこで本研究では、COVID-19流行前後における呼吸器感染症ウイルスの検出状況を比較しました。
本研究では、2018年1月から2020年9月に横浜市で2,244名の呼吸器疾患患者(COVID-19患者を除く)から採取された呼吸器検体(鼻腔ぬぐい液、咽頭ぬぐい液、鼻汁、唾液、気管吸引液、喀痰)を解析し、代表的な呼吸器感染症ウイルス(インフルエンザウイルス、ライノウイルス、コクサッキーウイルスA, B、エコーウイルス、エンテロウイルス、ヒトコロナウイルス229E, HKU1, NL63, OC43、ヒトメタニューモウイルス、パラインフルエンザウイルス1, 2, 3, 4、パレコウイルス、RSウイルス、アデノウイルス、ボカウイルス、パルボウイルスB19、単純ヘルペスウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス)の検出を行いました。2,244名の患者の内訳は、男性が1,197名(53.3%)、女性が1,044名(46.5%)、性別不明が3名(0.1%)、また、10歳未満が1,119名(49.9%)、10歳以上が1,105名(49.2%)、年齢不明が20名(0.9%)でした。
2,244名の検体のうち、最も多く検出されたのはインフルエンザウイルス(592名)で、次いでライノウイルス(155名)でした。475名からはその他の呼吸器感染症ウイルスが検出されました。インフルエンザウイルスによって引き起こされるインフルエンザは主に冬に流行し、ライノウイルスによって引き起こされる風邪は主に春と秋に流行します(図)。横浜市では2020年2月に初めてCOVID-19患者が報告され、10歳以上ではその後、報告数が増加していきましたが、10歳未満ではほとんど報告はありませんでした(図)。一方、ライノウイルスの検出率は、COVID-19の流行下では10歳未満の小児で著しく上昇し、例年の2倍以上となりました(図・上段)。インフルエンザウイルスやその他の呼吸器感染症ウイルスの検出率は全年齢層でCOVID-19流行後に低下しました。


図 横浜市におけるインフルエンザ及びライノウイルス検出率と
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者報告数

インフルエンザ及びライノウイルスはウイルス分離並びに遺伝子解析により検出されました。棒グラフは横浜市から公表されたCOVID-19陽性患者数を示しています。


新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)やインフルエンザウイルスは、ウイルスの表面が脂質の膜(エンベロープ)で覆われています。エンベロープを持つウイルスはアルコール消毒液や石鹸にさらされると破壊されて、感染できなくなります。一方、ライノウイルスはエンベロープを持たないため、アルコール消毒液が効きにくいことが知られています。COVID-19の流行拡大後に横浜市で検出されたウイルスはライノウイルス、コクサッキーウイルスとアデノウイルスで、いずれもエンベロープを持たないウイルスでした。COVID-19流行下でのライノウイルスの流行には、このようなウイルスの安定性も関係している可能性が考えられます。なお、石鹸と水を使う手洗いはライノウイルスにも有効です。
本研究により、COVID-19流行下で10歳未満の小児のライノウイルス感染リスクが上昇したことが明らかになりました。ライノウイルスは風邪を引き起こす主要な原因ウイルスですが、肺炎などの合併症を引き起こし重症化することもあります。今後も引き続き呼吸器感染症ウイルスの検出状況を調査し、COVID-19流行下での感染リスクについて広く情報提供を行うことが重要であると考えます。
本研究は、東京大学、国立感染症研究所、横浜市衛生研究所が共同で行ったものです。本研究成果は日本医療研究開発機構(AMED)新興再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業並びに厚生労働科学研究費補助金新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業の一環として得られました。

 発表雑誌

雑誌名:「Influenza and Other Respiratory Viruses
論文タイトル:Increased risk of rhinovirus infection in children during the coronavirus disease-19 pandemic
著者:Emi Takashita, Chiharu Kawakami, Tomoko Momoki, Miwako Saikusa, Kouhei Shimizu, Hiroki Ozawa, Makoto Kumazaki, Shuzo Usuku, Nobuko Tanaka, Ichiro Okubo, Hiroko Morita, Shiho Nagata, Shinji Watanabe, Hideki Hasegawa, Yoshihiro Kawaoka
DOI: 10.1111/irv.12854
URL:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/epdf/10.1111/irv.12854

 問い合わせ先

<研究に関するお問い合わせ>
東京大学医科学研究所 感染・免疫部門 ウイルス感染分野
教授 河岡 義裕(かわおか よしひろ)

<報道に関するお問い合わせ>
東京大学医科学研究所 国際学術連携室(広報)

<AMEDの事業に関すること>
日本医療研究開発機構 創薬事業部 創薬企画・評価課
新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業

 用語解説

(注)ライノウイルス
風邪を引き起こすウイルスの一種で、風邪の20~30%はライノウイルスが原因と考えられています。抗原性の違いから100種類以上が存在することが知られており、ワクチンや専用の治療薬はなく、対症療法が中心となります。

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