臍帯血移植で認められる移植片対宿主病による生存率の改善効果

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2021-06-23 東京大学医科学研究所

発表のポイント

  • 日本造血細胞移植データセンターの移植登録一元管理プログラムによる登録データの解析において、急性白血病 (注1)に対する同種造血細胞移植(注2)では、移植片対宿主病(GVHD、注3)による生存率の改善効果がドナーの種類により異なることを明らかにしました。
  • 日本の登録データを用いた大規模な臨床研究として、急性白血病では移植片対宿主病による生存率の改善効果が、臍帯血移植でのみ顕著に認められることを明らかにしました。
  • 本研究は、急性白血病に対する臍帯血移植のさらなる治療成績向上や臍帯血を用いた細胞療法の発展に役立つことが期待されます。
発表概要

東京大学医科学研究所附属病院 血液腫瘍内科の小沼貴晶助教らを含む日本造血・免疫細胞療法学会のドナー別・移植細胞ソース別ワーキンググループは、急性白血病において、移植片対宿主病の発症が生存率に与える影響は、ドナーの種類により異なることを明らかにしました。
急性白血病は、造血細胞の悪性腫瘍であり、同種造血細胞移植が最も実施されている疾患です。同種造血細胞移植による白血病の根絶は、移植前処置とドナー免疫細胞による同種免疫反応の両者が重要であると考えられています。この同種免疫反応は移植片対白血病(GVL)効果(注4)といわれ、臨床的には移植片対宿主病の発症と相関して認められます。GVL効果は移植片に含まれる免疫細胞により誘導されることから、移植片対宿主病の発症頻度や重症度と同様に、ドナーの種類により異なる可能性が示唆されますが、これまで大規模な臨床研究では明らかにされていませんでした。
今回、研究グループは、本邦の移植登録一元管理プログラムによる登録データを用いて、ドナーとしてHLA一致血縁同胞、HLA一致非血縁および非血縁臍帯血から移植を受けた急性白血病6,548例を対象に、移植片対宿主病の発症が無病生存率に与える影響に関して後方視的解析 (注5)を実施しました。
その結果、非血縁臍帯血をドナーとして用いた場合においてのみ、軽症移植片対宿主病の発症が無病生存率の改善に寄与することが明らかとなりました。今回の研究は、臍帯血移植の優れた移植片対宿主病による生存率の改善効果を実証した大規模な臨床研究であり、さらなる治療成績の改善や臍帯血を用いた免疫療法の発展に役立つと考えています。
本研究成果は2021年6月22日(米国東部夏時間)、国際学術誌「Clinical Cancer Research」オンライン版に掲載されました。

 発表内容

これまで、GVL効果および移植片対宿主病が生存率に与える影響が、臍帯血も含めたドナーの種類により異なる可能性に関しては、大規模な臨床研究では明らかとされていませんでした。
研究グループは、日本造血細胞移植データセンターの移植登録一元管理プログラムによる登録データにおいて、2007年から2017年に初回の同種造血細胞移植が行われた16歳から65歳の急性骨髄性およびリンパ性白血病6,548症例を対象として、移植片対宿主病の発症が再発率や生存率に影響を与えるかどうか、ドナーそれぞれに関して、急性移植片対宿主病と慢性移植片対宿主病に分けて後方視的解析を実施しました。
患者データの年齢中央値は47歳、急性骨髄性白血病は4,521例、急性リンパ性白血病は2,027例でした。ドナーは、HLAアリル一致血縁同胞が1,322例、HLAアリル一致非血縁が2,429例、非血縁臍帯血が2,797例でした。
生存者の観察期間中央値41ヶ月において、移植後3年時点における無病生存率は、HLA一致血縁同胞移植では55%、HLA一致非血縁移植では58%、非血縁臍帯血移植では53%でした。移植後3年時点における再発率は、HLA一致血縁同胞移植では34%、HLA一致非血縁移植では28%、HLA一致非血縁臍帯血移植では30%でした。
移植後100日のランドマーク解析(注6)では、臍帯血移植でのみ、グレードI–IIの急性移植片対宿主病の発症において無病生存率が有意に良好でした(図A-C)。時間依存性共変量(注7)を用いた多変量解析においても、臍帯血移植でのみ、グレードI–IIの急性移植片対宿主病による無病生存率改善効果が認められました(図D)。HLA一致血縁同胞移植やHLA一致非血縁移植では、急性移植片対宿主病の生存率に対する有用な効果は認められませんでした。臍帯血移植によるこの効果は、再発率の抑制のみならず、非再発死亡率の抑制も同様に、無病生存率の改善に寄与していることがわかりました。
一方、慢性移植片対宿主病の発症中央値である移植後129日のランドマーク解析では、臍帯血移植でのみ、限局型慢性移植片対宿主病の発症において無病生存率が有意に良好でした(図E-G)。時間依存性共変を用いた多変量解析においても、臍帯血移植でのみ、限局型慢性移植片対宿主病による無病生存率改善効果が認められました(図H)。HLA一致血縁同胞移植やHLA一致非血縁移植では、慢性移植片対宿主病の生存率に対する有用な効果は認められませんでした。この効果により、むしろ非再発死亡率の抑制が無病生存率の改善に寄与していることがわかりました。これらの臍帯血移植の優れた効果は、急性骨髄性白血病、移植時非寛解、HLA2座不適合で比較的保たれていることがわかりました。
臍帯血移植の普及により、急性白血病を含む造血器疾患に対する同種造血細胞移植は拡大しています。本研究は、臍帯血移植における軽症移植片対宿主病による生存率改善効果を実証した大規模な臨床研究であり、造血器疾患に対する同種造血細胞移植のさらなる治療成績の改善や臍帯血を用いた免疫療法の発展に役立つことが期待されます。


概要図
急性GVHD重症度別の (A) HLA一致血縁ドナー (B) HLA一致非血縁ドナー (C) 非血縁臍帯血の移植後無病生存率。 (D) ドナー別の急性GVHD重症度の移植後無病生存率に対するハザード。慢性GVHD重症度別の (E) HLA一致血縁ドナー (F) HLA一致非血縁ドナー (G) 非血縁臍帯血の移植後無病生存率。 (H) ドナー別 の慢性GVHD重症度の移植後無病生存率に対するハザード。赤字のP値は有意差を示す。

 発表雑誌

雑誌名:「Clinical Cancer Research, a journal of the American Association for Cancer Research」
論文タイトル: Differential effect of graft-versus-host disease on survival in acute leukemia according to donor type
著者:Takaaki Konuma*, Junya Kanda, Yachiyo Kuwatsuka, Masamitsu Yanada, Tadakazu Kondo, Shigeki Hirabayashi, Shinichi Kako, Yu Akahoshi, Naoyuki Uchida, Noriko Doki, Yukiyasu Ozawa, Masatsugu Tanaka, Tetsuya Eto, Masashi Sawa, Satoshi Yoshioka, Takafumi Kimura, Yoshinobu Kanda, Takahiro Fukuda, Yoshiko Atsuta, Fumihiko Kimura
*責任著者

 問い合わせ先

<研究内容について>
東京大学医科学研究所附属病院 血液腫瘍内科
小沼 貴晶(こぬま たかあき)
https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/lab/transreclink/section01.html
<報道について>
東京大学医科学研究所 国際学術連携室(広報)
https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/

 用語解説

(注1)急性白血病 :造血細胞の悪性腫瘍の一つ。発症起源により急性骨髄性白血病と急性リンパ性白血病に分類される。同種造血細胞移植が最も実施されている疾患である。

(注2)同種造血細胞移植:造血器疾患の治療法の一つ。大量の抗がん剤や全身放射線照射の後に、ドナーの骨髄、末梢血幹細胞、臍帯血などの造血細胞を投与する。

(注3)移植片対宿主病(GVHD):移植されたドナーの免疫細胞が、移植を受けた宿主に対して同種免疫反応を引き起こすことで生じる同種造血細胞移植特有の合併症。

(注4)移植片対白血病(GVL)効果:移植されたドナーの免疫細胞が、残存している可能性のある腫瘍細胞を攻撃することで生じる免疫療法としての効果。

(注5)後方視的解析:既存の診療情報を用いて、データ解析する方法。

(注6)ランドマーク解析:生存時間解析において、解析開始以降のある時点を起点として症例を群分けすることで、解析開始以降に発生するイベントの生存に与える効果を検証できる。本研究においては、急性移植片対宿主病では移植後100日、慢性移植片対宿主病では移植後129日をランドマークとして、統計解析を実施した。

(注7)時間依存性共変量:時間と共に変化する説明変数。本研究においては、移植片対宿主病を時間依存性共変量として扱い、統計解析を実施した。

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