妊婦の不安 長期化するコロナ禍で変化~気分障害、周囲からのサポートに関する支援が必要~

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2021-07-16 東京大学

1.発表者:
調 律子(東京大学大学院医学系研究科社会医学専攻 医学博士課程 4 年)
奥原 剛(東京大学大学院医学系研究科医療コミュニケーション学分野 准教授)
木内 貴弘(東京大学大学院医学系研究科医療コミュニケーション学分野 教授)

2.発表のポイント:
◆新型コロナウイルス感染症のパンデミック下のインターネット上の投稿の内容を分析し、日本の妊婦の不安の内容とその変化を初めて明らかにした。
◆妊婦は流行初期には感染についての不安を抱えていた一方、自粛期間が長期化するにつれて気分障害、周囲からのサポートについての不安が増えていった。
◆長期化するパンデミックでは妊婦への支援の内容も変化させる必要があること、また、妊婦の周囲にいる人々に向けてのコミュニケーションの重要性も示唆された。

2.発表概要:
妊娠中の女性のメンタルヘルスの悪化は、胎児の発育や産後の育児に負の影響を与えることが知られており、予防と支援の重要性が指摘されている。しかし、コロナ禍の妊婦が、どの時期にどのような内容の不安やストレスを抱えていたのかについては分かっていなかった。
東京大学大学院医学系研究科の奥原剛准教授、調律子大学院生らの研究グループは、2020 年1月 1 日~5 月 25 日(第 1 回緊急事態宣言の解除が宣言された日)に日本最大の Q&A サイトである Yahoo!知恵袋に投稿された妊婦の質問 1,000 件の内容を週単位で分析し、妊婦の不安・ストレスの内容の移り変わりを国内の動きと照合した。その結果、妊婦は流行初期には感染についての不安を抱えていた一方、自粛期間が長期化するにつれて気分障害、周囲からのサポートについての不安が増えていったことが明らかになった。パンデミックが長期化し感染のフェーズが変化する中で、妊婦への支援内容も変化させていくことの重要性が示唆された。

3.発表内容:
【背景】
パンデミックでは、公衆衛生の専門家は弱い立場に置かれた人々へ情報を伝える必要がある。中でも妊婦は、流行初期には妊婦や胎児への影響が不明なこと、治療が制限されること、繰り返し病院に行く必要があることなどから弱い立場におかれている。妊娠中の強い不安やストレスは母親や児の健康に影響を与えることから、妊婦の心理的なケアも必要である。新型コロナウイルスのパンデミックでは、うつや不安の症状が強い妊婦が 30%にも上っているという報告もある。感染症流行の各段階で人々がどのようなことを不安に思い、期待しているのかを知ることが有効なコミュニケーションと支援を行う上で求められる。新型コロナウイルス感染症の流行期間に妊婦は、感染への不安の他にも出産や育児への準備不足やサポートしてくれる人々との関係性など、妊婦特有の不安やストレスを抱えていることが報告されてきた。しかし、長期化するパンデミックの中でそれらの不安やストレスがどのように変化していたのかは分かっていなかった。

【研究の目的】
本研究は、インターネット上の Q&A サイトの書き込みの内容分析によって、新型コロナウイルスのパンデミックの中で日本人の妊婦がどんな不安やストレスを抱え、それがどう変化したのかを明らかにし、現在そして将来のパンデミックで妊婦をどのようにサポートできるかを考慮するための示唆を得ることを目的とした。

【方法】
2020年1月1日~5月25日(第1回緊急事態宣言の解除宣言日)に日本最大のQ&Aサイトである Yahoo!知恵袋に投稿されたすべての質問を対象に、「コロナ 妊婦」「コロナ 妊娠」「コロナ 出産」「コロナ 分娩」「コロナ お産」をキーワードとして検索した。妊婦自身が投稿している質問のみを解析対象とし、質問文のテキストからカテゴリーと下位コードを抽出した。各カテゴリーとコードの質問数を週単位で集計し、国内の動きと照合した。

【結果】
検索キーワードでヒットした4,200件の質問のうち2,040件の質問が妊婦による投稿であり、重複やパンデミックにおける不安とは無関係なものを除外した1,000件の質問を分析対象とした。感染流行の第1波と第2波では、「自分自身の感染への不安」や「家族や友人の感染への不安」、「自分自身の外出への不安」といった感染に対する不安が第1ピークと第2ピークを形成していた(図1参照)。その後、感染に対する不安についての質問は減少し、「周囲からのサポートについての不安」や「気分障害についての不安」が増加して第3のピークを形成していた。「人間関係のストレス」は全期間で頻出していた。また、「家族や友人の感染への不安」や「人間関係のストレス」の多くは、「夫が飲み会に行く」など感染リスクを伴う望ましくない行動によるものであった。

【結論】
妊婦は、新型コロナウイルス感染症の流行初期には感染についての不安やストレスを表出していたが、パンデミックが長期化するにつれて気分障害や周囲からのサポートの不足についての不安やストレスの表出が増えていった。人間関係のストレスは全期間で表出されており、妊婦の周囲の人々に対するコミュニケーションも求められる。

【社会的意義と示唆】
本研究は新型コロナウイルス感染症のパンデミック下の日本の妊婦の不安の内容を初めて明らかにした。本研究により、パンデミックが長期化するにつれて妊婦の不安の内容は変化するため、必要な支援の内容も変化させる必要があること、また、妊婦の周囲にいる人々に向けてのコミュニケーションの重要性も示唆された。

5.発表雑誌:

雑誌名:JMIR Pediatrics and Parenting (7 月 15 日オンライン版)

論文タイトル:Changes in Anxiety and Stress Among Pregnant Women During the COVID-19 Pandemic: Content Analysis of a Japanese Social Questionand-Answer Website

著者:Ritsuko Shirabe*, Tsuyoshi Okuhara, Rie Yokota, Hiroko Okada, Eiko Goto, Takahiro Kiuchi

DOI 番号:10.2196/27733

アブストラクト URL:http://dx.doi.org/10.2196/27733

6.問い合わせ先:

東京大学大学院医学系研究科 公共健康医学専攻 医療コミュニケーション学准教授 奥原 剛(おくはら つよし)

東京大学大学院医学系研究科 社会医学専攻医学博士課程 4 年 調 律子(しらべ りつこ)

7.添付資料:

図 1:週単位での質問カテゴリーの移り変わりと国内外の妊婦に関連するイベントや報道

感染流行の第1波と第2波で頻出した感染への不安は自粛期間延長に伴い減少し、代わりに周囲からのサポートや気分障害についての不安が増加した。

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