2024-01-26 国立成育医療研究センター
国立成育医療研究センター(所在地:東京都世田谷区大蔵、理事長:五十嵐隆)の周産期・母性診療センター産科の小川浩平診療部長、上原有貴医師らの研究グループは、妊婦の母親318人を対象とした調査を実施しました。母子健康手帳情報を用いたコホート研究により、妊娠中に過剰な体重増加(妊娠前のBMIが18.5kg/m2未満の場合15kg以上、18.5kg/m2以上25kg/m2未満の場合13kg以上)があった女性は、適切な体重増加[1]だった女性と比べて将来慢性疾患を発症する調整オッズ比[2]が糖尿病で約1.4、高血圧で約1.5、肥満で約1.8となることを明らかにしました(図1)。本研究成果は、2024年1月5日、国際的な学術誌「Scientific Reports」誌に掲載されました。
※本研究は妊娠中の過度な体重制限を推奨するものではありません。妊娠中は適切な体重増加を心がけてください。
[1]「適切な体重増加」の基準は妊娠前のBMIが18.5 kg/m2未満の場合12kg以上15kg未満。BMIが18.5 kg/m2以上25 kg/m2未満の場合10kg以上13kg未満。それに満たない場合は「不十分な体重増加」と定義。
[2]オッズ比とは、ある事象の起こりやすさを2つの群で比較して示す統計的な尺度のこと。
【図1 妊娠中の体重増加とその後の慢性疾患との関連】
プレスリリースのポイント
- 妊娠中に過剰な体重増加があった女性は、将来の糖尿病、高血圧、肥満のリスクが高くなっていることがわかりました。
- また、肥満と高血圧には強い関連があることが知られています。妊娠中に過剰な体重増加があった女性で将来の高血圧リスクが高くなっていることについては、こうした女性は肥満になる割合が高く、肥満になることで高血圧になりやすいことに依存する可能性が示唆されました。
- 一方で、肥満と糖尿病にも強い関連があることが知られています。しかし、肥満にならない場合でも妊娠中に過剰な体重増加があった女性は将来の糖尿病リスクが高くなっていることが示唆されました。
- 妊娠中の体重増加が多かった場合には、将来高血圧や糖尿病になるリスクが高い可能性があり、定期的な健康診断を受けるなど健康管理に気を配る必要があると考えられました。
- 妊娠中の適切な体重増加は妊娠合併症のリスク回避になるだけでなく、将来の慢性疾患の予防になる可能性があります。
研究概要
2017年4月から2020年11月の期間に当センターへ通院していた妊婦の母親のうち、妊娠前のBMIが25 kg/m2未満であった318人を研究対象としました。妊婦自身が産まれたときの母子健康手帳を持参してもらい、母親の体重増加データを収集しました。そして母親には現在の慢性疾患(糖尿病、高血圧、脂質異常症、肥満)を質問紙により回答してもらいました(図2)。その結果、妊娠中の過剰な体重増加があった女性(妊娠前のBMIが18.5 kg/m2未満の場合15kg以上、18.5 kg/m2以上25 kg/m2未満の場合13kg以上)は将来の糖尿病、高血圧、肥満のリスクが高くなっていることがわかりました。また、高血圧のリスクが上昇することは、肥満になりやすいことが主な要因であったと考えられましたが、糖尿病については肥満にならなかった女性でもリスクが上昇することもあわせて明らかになりました。これらの結果から、体重が過剰に増えてしまった女性では、将来の高血圧や糖尿病について、定期的な健康診断の受診などの健康チェックが重要であると考えられます。また、妊娠中に適切な体重増加を心がけて過剰な体重増加を避けることによって、妊娠糖尿病や妊娠高血圧などの妊娠合併症だけでなく、将来の糖尿病や高血圧などの慢性疾患のリスクを低減できる可能性が示唆されました。
【図2 データの取得方法】
発表論文情報
タイトル:Association between gestational weight gain and chronic disease risks in later life
執筆者:上原有貴1、小川浩平1,2*、森崎菜穂2、荒田尚子1、和田誠司1
所属:
1)国立成育医療研究センター 周産期・母性診療センター
2)国立成育医療研究センター 社会医学研究部
掲載誌:Scientific Reports
DOI:10.1038/s41598-023-50844-4.
(別紙)妊娠中の体重増加曲線
- 本件に関する取材連絡先
- 国立成育医療研究センター 企画戦略局 広報企画室