2024-07-30 九州大学
薬学研究院 西田基宏 教授
ポイント
- 糖尿病は日本人の10人に1人がかかる国民病であり、重篤な合併症(腎障害、神経障害、網膜症など)を引き起こす危険がある。
- 高血糖・高脂肪食の摂取によって引き起こされる肝臓や骨格筋のミトコンドリア形態異常に着目し、ミトコンドリア過剰分裂を抑制する既承認薬シルニジピンやその新規誘導体が、高血糖や脂肪肝を改善できることをマウスで明らかにした。
- シルニジピンを服用している高血圧患者においても糖代謝の有意な改善が見られ、ミトコンドリアの品質維持が糖尿病や脂肪肝の新たな治療戦略になる可能性を示した。
概要
糖尿病は世界中の成人の10%近くが罹患する慢性代謝疾患です。身体に取り込まれたグルコースはミトコンドリアでエネルギー源として利用されますが、糖尿病患者の組織ではミトコンドリアの形態異常が報告されていました。ミトコンドリアの形態異常はエネルギー産生能に影響することから、ミトコンドリアの質の維持(品質管理)が糖尿病の良い治療戦略になるのではないかと考えました。
本研究では、以前同定したミトコンドリア過剰分裂を抑制する高血圧治療薬シルニジピンを糖尿病モデルマウスへ投与し、血糖値が改善されることを明らかにしました。
九州大学大学院薬学研究院の西田基宏教授(自然科学研究機構生理学研究所 / 生命創成探究センター兼務)、加藤百合助教、有吉航平大学院生らの研究グループは、京都大学、大阪公立大学などと共同で、シルニジピンがDrp1(※1)とFilamin(※2)とのタンパク質間相互作用を阻害し、ミトコンドリア形態異常を抑制することで、血糖値を改善させることを見出しました。シルニジピンは、肝臓における脂肪滴(※3)の蓄積も軽減しました。また、同部局の王子田彰夫教授、川西英治講師らとの連携により、シルニジピンの既知の作用(Ca2+チャネル阻害活性)を除去した誘導体(1-4DHP)を同定し、1,4-DHPがシルニジピンより効果的に高脂肪食負荷マウスの高血糖や脂肪肝を改善することを示しました。今回の発見は糖尿病、脂肪肝に限らず、ミトコンドリア形態異常を伴う様々な疾患に対する画期的な治療法を提案するものと期待されます。
本研究成果は英国の雑誌「British Journal of Pharmacology」に2024年7月11日(木)(日本時間)、スイスのオープンアクセス雑誌「International Journal of Molecular Science 」に2024年5月17日(金)(日本時間)に掲載されました。
用語解説
(※1) Drp1
Dynamin-related protein1. ミトコンドリアの分裂に必須の因子。
(※2) Filamin
細胞骨格を司るアクチンに結合するタンパク質。
(※3) 脂肪滴
細胞内で脂質を貯蔵している細胞小器官。脂肪滴の蓄積が様々な疾患に関与することが報告されている。
論文情報
掲載誌:British journal of pharmacology
タイトル:Inhibition of Drp1-filamin interaction improves systemic glucose metabolism
著者名:Yuri Kato, Kohei Ariyoshi, Yasunobu Nohara, Naoya Matsunaga, Tsukasa Shimauchi, Naoya Shindo, Akiyuki Nishimura, Xinya Mi, Sang Geon Kim, Tomomi Ide, Eiji Kawanishi, Akio Ojida, Naoki Nakashima, Yasuo Mori, Motohiro Nishida.
DOI:10.1111/bph.16487
掲載誌:International Journal of Molecular Science
タイトル:Inhibition of Drp1-filamin protein complex prevents hepatic lipid droplet accumulation by increasing mitochondria-lipid droplet contact
著者名:Kohei Ariyoshi, Kazuhiro Nishiyama, Yuri Kato, Xinya Mi, Tomoya Ito, Yasu-Taka Azuma, Akiyuki Nishimura, Motohiro Nishida.
DOI:10.3390/ijms25105446.
- 本研究の詳細についてはこちら
お問い合わせ先
薬学研究院 西田 基宏 教授