世界で初めて鰹節カビからウイルスを発見~ウイルスが食品発酵に与える影響を解明する糸口になる可能~

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2024-10-03 東京大学

発表のポイント
  • 鰹節カビから、新規なゲノム構造を持つものを含む、7つのウイルスを発見しました。
  • ウイルスが鰹節カビに与える影響を初めて明らかにしました。
  • ウイルスが真菌による食品発酵に与える影響を解明する端緒となると考えられます。

世界で初めて鰹節カビからウイルスを発見~ウイルスが食品発酵に与える影響を解明する糸口になる可能~
本研究の概要

発表概要

東京大学大学院農学生命科学研究科の二宮章洋助教、岡田茂教授、同研究科修士課程の武馬聖二、筑波大学生命環境系の浦山俊一助教、日本大学生物資源科学部の糸井史朗教授、および周防玲専任講師らによる研究グループは、鰹節の発酵に関わる真菌である「鰹節カビ」から7つの新規ウイルスを発見しました。今回発見したウイルスのうち、フザリウイルス(注1)と同定されたものは、既知のフザリウイルスが1本のRNAのみをゲノム(注2)として持つのに対して、2本に分節した特徴的なゲノム構造を有することが明らかになりました。
また本研究では、今回発見したウイルスのうち、ポリマイコウイルス(注3)と呼ばれるウイルスが、宿主(注4)の真菌Aspergillus chevalieriの初期の生育を抑制することを示唆する結果が得られました。本研究はウイルスが真菌による食品発酵に与える影響を明らかにする端緒となる可能性があります。

発表内容

味噌、醤油、日本酒、およびチーズ等に代表されるように、真菌は古くから食品発酵に利用されてきました。鰹節は真菌を用いた伝統的な水産発酵食品のひとつです。鰹節のうち、カツオの切り身を煮た後、燻乾したものを荒節、荒節に真菌をつけて発酵させたものを枯節と呼びます。鰹節の発酵に関わる真菌は「鰹節カビ」と総称され、Aspergillus属(注5)の真菌が多くを占めることが明らかになっています。
私たちヒトにウイルスが感染するように、真菌にもウイルスが感染し、宿主に様々な影響を与え得ることが明らかになりつつあります。このように真菌に感染するウイルスは「マイコウイルス」(注6)と呼ばれ、宿主と共生的な存在であると考えられています。先述のように真菌は、食品発酵に深く関係するにも関わらず、ウイルスが食品発酵に関わる真菌に与える影響は、酒やパン作りに用いられる酵母Saccharomyces cerevisiaeに感染するウイルスを除き、理解が進んでいませんでした。
本研究チームは、過去にAspergillus属の真菌から数多くのマイコウイルスが報告されていることから、鰹節カビにもマイコウイルスが感染するという仮説を立て、鰹節カビからマイコウイルスを探索しました。その結果、2種の真菌A. chevalieriとA. sulphureusから、合計7つの新規マイコウイルスを発見し、FLDS法(注7)と呼ばれる手法によってゲノム配列を決定しました。これは世界で初めての鰹節カビから発見されたマイコウイルスの報告例です。
また、本研究では、抗ウイルス薬によって宿主からウイルスを取り除き、ウイルスが感染した株とウイルスが除かれた株を比較することによって、ウイルスが宿主に与える影響を調べました。その結果、ポリマイコウイルスと呼ばれるウイルスが、宿主の初期の生育を抑制することを示唆する結果が得られました。ヒトにとって良い影響を真菌に与えるウイルスを真菌に感染させる、あるいは逆に悪い影響を与えるウイルスを排除することによって、食品発酵の作用を高める技術の開発に繋がる可能性があります。

発表者

東京大学大学院農学生命科学研究科
二宮 章洋 助教
岡田 茂  教授
武馬 聖二 修士課程

筑波大学生命環境系
浦山 俊一 助教

日本大学生物資源科学部
糸井 史朗 教授
周防 玲  専任講師

論文情報
雑誌
Virus Research
題名
Mycoviruses from Aspergillus fungi involved in fermentation of dried bonito
著者
Seiji Buma, Syun-ichi Urayama, Rei Suo, Shiro Itoi, Shigeru Okada, Akihiro Ninomiya*
DOI
10.1016/j.virusres.2024.199470
研究助成

本研究は、科研費(課題番号:24K17812、22H04879)、JST ACT-X(課題番号:JPMJAX20BF)、G-7奨学財団、および笹川科学研究助成の支援により実施されました。

用語解説

 注1 フザリウイルス
Fusariviridaeという科に属するウイルスを指します。

 注2 ゲノム
生物(この文脈ではウイルス)が持つ遺伝情報のこと。

 注3 ポリマイコウイルス
Polymycoviridaeという科に属するウイルスを指します。

 注4 宿主
ウイルスがある生物に感染しているとき、その生物をウイルスの宿主と呼びます。

 注5 Aspergillus属
酒や醤油の発酵に使われるAspergillus oryzae、有名なカビ毒アフラトキシンを産生するAspergillus flavus、およびヒト病原菌Aspergillus fumigatus等、ヒトと関連の深い種を多く含みます。

 注6 マイコウイルス
「マイコ(myco-)」は「真菌の」という意味の接頭辞で、マイコウイルスは真菌に感染するウイルスの総称です。マイコウイルスは真菌の細胞を利用して自己を複製します。

 注7 FLDS法
RNAウイルス特異的に生じる二本鎖RNAの配列を解読する手法。

問い合わせ先

(研究内容については発表者にお問合せください)
東京大学大学院農学生命科学研究科
助教 二宮 章洋(にのみや あきひろ)

東京大学大学院農学生命科学研究科・農学部事務部 総務課 広報情報担当
筑波大学広報局

有機化学・薬学
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