2024-05-31 京都大学
辻川明孝 医学研究科教授、三宅正裕 同特定講師、田村寛 国際高等教育院教授らの研究グループは、本学医学研究科眼科学教室と株式会社ファインデックスとの共同研究により開発された、新しい測定原理によるヘッドマウント型の自動視野計(Gaze Analyzing Perimeter、GAP)と、現在最も一般的に使用されているハンフリー自動視野計(HFA)の結果を比較し、GAPの性能を評価しました。
日本緑内障学会の調査によれば、40歳以上の約5%が緑内障を発症しており、その90%が未診断であると報告されています。視野検査は、緑内障の診断とモニタリングにおいて特に重要な検査です。これまでの自動視野計は、「検査中に中心の1点を見続けながら、周りに提示される光が見えたらボタンを押下する」という作業を繰り返すものでした。これに対しGAPは、「見える視標に対しては視線が直線的に移動するのに対して、見えない視標に対してはそのような移動がみられない」ことを利用することで、ボタンの押下ではなく、アイトラッキングによって得られた視線の動きをもとに、見えているかどうかの判定を人工知能によって行います。ヘッドマウント型のため持ち運びができ、暗室でなくても実施可能です。400gと軽量で、検査時のボタン操作が不要な点が特徴です。
本研究では47名の患者さんのデータが解析され、HFAとGAPの結果には良好な一致が見られることが確認されました。平均的な検査時間はGAPとHFAとで有意な差はみられませんでしたが、200秒以内に検査を完了できたのはGAPを用いた場合のみで、そのような患者さんは視野障害の程度が軽度の方に限られていました。このことから、視野障害の程度が軽い患者さんにおいて、GAPは検査時間の短縮に優れていることが分かります。
本機器が普及することで、緑内障をはじめとした視野障害をきたす疾患のスクリーニングが容易となり、早期発見・早期治療に繋がることが期待されます。
本研究成果は、2024年5月30日に、国際学術誌「Ophthalmology Glaucoma」にオンライン掲載されました。
視線分析による、「見えたかどうか」の判定
研究者のコメント
「京都大学大学院医学研究科眼科学教室と株式会社ファインデックスの共同研究の成果です。アイトラッキングを用いることで、より高い客観性をもって視野を評価できます。また、オリジナルの視線データを確認することで事後の検証も可能で、検査の透明性も高いのがポイントです。現在のゴールドスタンダードはHFAですが、GAPはその客観性・透明性から、HFAに取って代わる可能性を秘めていると考えています。
また、ご高齢の方などを中心に、病院への受診・ボタン操作・検査機器へのお顔の固定などに難があり、既存の視野計での視野計測が困難になっている方々での視野検査が可能になるなど、検査機会の確保にもつながります。
さらに、ソフトウェアを追加することで同じデバイスを用いて様々な検査が可能となる点も期待が高く、現在デジタルな評価が困難な分野について、本機器によって革新に繋げていきたいと思います。」(三宅正裕)
詳しい研究内容について
アイトラッキングを利用した新しい自動視野計の性能が明らかに―簡便な検査で緑内障などの早期発見に期待―
研究者情報
研究者名:辻川 明孝
研究者名:三宅 正裕
研究者名:田村 寛
メディア掲載情報
日刊工業新聞(5月31日 27面)に掲載されました。