2024-08-02 京都大学
図1 脳内LDAI化学による神経伝達物質受容体の化学標識 A.ラベル化剤の模式図と開発したラベル化剤の1例。 B.脳内LDAI化学の仕組み。生きた動物脳内で発現している天然の受容体に対して、機能性分子(図中Probe)を共有結合で載せることができる。
ポイント
- これまで、遺伝子操作を伴わずに、生きた動物内の受容体たんぱく質に機能解析のための目印を付ける手法がなかった。
- 脳内での使用に適したたんぱく質標識試薬の分子設計や標識試薬投与方法を工夫することで、生きた動物脳内の神経伝達物質受容体の化学標識(ラベル化)を初めて実現した。本手法により、標的受容体の動きや寿命などのたんぱく質の運命を解析することに成功した。
- 本手法は、ラベル化のみにとどまらず、さまざまな生体解析のための機能性分子を導入可能であり、生物個体内でのたんぱく質機能解析に貢献すると期待される。
JST 戦略的創造研究推進事業において、合成・生物化学専攻の浜地 格 教授、野中 洋 特定准教授、坂本 清志 特定准教授、白岩 和樹 博士課程学生らは、生きている動物脳内の天然に存在する神経伝達物質受容体たんぱく質を標識(ラベル化)する新手法を開発しました。
従来は目印となるような蛍光を発するたんぱく質を、遺伝子組み換えにより観察したいたんぱく質とつないだ状態で発現させて観測していましたが、①遺伝子組み換えが必要であること、②観測したいたんぱく質に対する機能阻害、③発現時の不具合の懸念から、より自然な状態でたんぱく質を標識(ラベル化)する技術の開発が望まれていました。
本研究グループは今回、リガンド指向性アシルイミダゾール化学(LDAI化学)を生きたマウスの脳で用いることで、遺伝子操作を伴わずにマウス脳内の天然に存在する神経伝達物質受容体を化学標識することに世界で初めて成功しました。本手法を用いて、生後発達期脳内のAMPA型グルタミン酸受容体(AMPA受容体(AMPAR))をパルスチェイス解析することで、一度機能を果たしたAMPA受容体が別の異なった役割を果たすシナプスに移動し再利用されていることを明らかにしました。
本技術は、たんぱく質の運命(動きや寿命)を解析する展開だけでなく、今後さまざまな機能性分子の導入により、動物個体内における天然のたんぱく質の機能解明に役立つことが期待されます。
本研究は、名古屋大学の清中 茂樹 教授、順天堂大学の洲崎 悦生 教授、東京大学の上田 泰己 教授、慶應義塾大学の柚崎 通介 教授、掛川 渉 准教授、荒井 格 助教と共同で行いました。
本研究成果は、2024年1月31日(米国東部時間)に米国の学術誌「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS)」(米国科学アカデミー紀要)のオンライン版で公開されました。
研究詳細
生きた動物脳内で発現する神経伝達物質受容体に目印を付ける新手法を開発ー遺伝子操作を伴わず、生体内でたんぱく質の機能解析が可能にー
研究者情報
濵地 格
野中 洋
坂本 清志
書誌情報
タイトル
“Bioorthogonal chemical labeling of endogenous neurotransmitter receptors in living mouse brains”
(生きたマウス脳における内在性神経伝達物質受容体の生体直交型化学標識)
著者
Hiroshi Nonaka , Seiji Sakamoto , Kazuki Shiraiwa , Mamoru Ishikawa , Tomonori Tamura , Kyohei Okuno , Takumi Kondo , Shigeki Kiyonaka , Etsuo A. Susaki , Chika Shimizu , Hiroki R. Ueda , Wataru Kakegawa , Itaru Arai , Michisuke Yuzaki , and Itaru Hamachi
掲載誌
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS)