「生徒が自分で考える」を重視し中米各国も導入
2018/03/22 JICA
自分用の数学の教科書を初めて手にするエルサルバドル南西部ラ・リベルタッド県の中学校の生徒たち
中学生たちは目を輝かせて、新しい教科書を受け取りました。「自分の教科書を使って問題を解いたり、宿題をしたりできてうれしい」という声が聞こえてきます。
中米エルサルバドルで新学期が始まった2月、数学の教科書が全国28万人の中学生に配布されました。中学校で数学の教科書が生徒一人ひとりに配布されるのは初めてです。
この教科書は、JICAがエルサルバドル教育省と協力し、生徒たちが一方的に教わるのではなく、「自分で考える」力を伸ばすことに重点を置いて開発。これまでエルサルバドルの中学校では教科書が配布されておらず、教師が黒板に問題や答えを書き、生徒が写してそれを覚えるという形で授業が行われていました。教科書が配布されたことで、生徒が自主的に学び、教師が学習支援者として適切にサポートできる環境が整いました。
※新しい数学の教科書を使った授業の様子をぜひご覧ください
- 関連映像:新しい授業‐能動的学習‐(外部リンク)
教科書開発を担ったのはボランティア経験のある専門家
新しい教科書を使い、生徒はお互いに学び合いながら、解答を導き出します
新たに配布された数学の教科書は、練習問題が多く盛り込まれ、生徒が自分で問題に向き合うことを念頭に作成されました。45分授業のうち、20分以上が問題を解く時間です。易しい問題から少しずつ難しい問題になるように配列されているため、生徒が無理なく学習できます。
エルサルバドルの教科書開発の背景には、青年海外協力隊の存在と実績があります。教科書作成プロジェクトに取り組む専門家の多くは協力隊OBで、JICAの専門家となって中米の教育振興に携わり続け、現場での活動経験を生かしています。
今回のプロジェクトの中心となっている西方憲広専門家もその一人です。1987年に協力隊員としてホンジュラスに派遣され、教諭の能力強化に取り組んで以来、アジア、アフリカに活躍の幅を広げながら、一貫してJICAの中米での教育分野支援に尽力しています。
西方専門家は、「エルサルバドルの中学校ではこれまで教科書がなかったため、知識や技能を教えることに傾注しがちでした。初めて教科書が一人に1冊ずつ配られたことで、生徒が主体的に学習に取り組めるようになりました」と語ります。
生徒と教師の双方をサポート
新しい教科書の作成にあたり、教科書執筆者である教育省算数数学技官と意見交換をする西方専門家(中央男性)
さらに、西方専門家は、「自分の教科書を使って、自ら学習に取り組む機会が増えれば増えるだけ、学習効果の向上が期待できます」と話します。
教師たちからは「これまで授業中、集中しない生徒がいましたが、教科書が手元にあることによって学習課題が明確になり、ほとんどの生徒が学習に集中できるようになりました」との声が挙がっています。
開発した教科書を生かした授業ができるよう、JICAは教師の能力向上につながる研修も実施しており、生徒と教師の双方のサポートはこれからも続きます。
また、JICAは、同じスペイン語を公用語とするホンジュラス、ニカラグア、グアテマラでも「自分で考える」教科書づくりの支援を進めていて、エルサルバドルでの中学校の数学教科書の配布は、そのさきがけです。広域での中学・高校数学教科書の開発はJICAにとって初めての試みとなります。2019年にかけて、各国のカリキュラムに沿った教科書の配布が実現する計画です。