インシリコスクリーニングを駆使した化学反応の新しい開発戦略 ~新規3成分反応によるフッ素化含窒素複素環骨格の合成に成功~

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2022-08-09 北海道大学,科学技術振興機構

ポイント
  • AFIR法を用いた量子化学計算により、コンピューター上で化学反応をスクリーニング。
  • 計算から示唆された反応形式を実際の化学実験で具現化に成功、脱芳香族化を伴う新しい3成分反応を実現。
  • フッ素化含窒素複素環を含む多様な分子骨格の供給が可能になり、創薬研究への貢献に期待。

JST事業の1つであるERATO 前田化学反応創成知能プロジェクトにおいて、北海道大学 創成研究機構 化学反応創成研究拠点(WPI-ICReDD)の林 裕樹 特任助教、美多 剛 特任准教授および同拠点 拠点長・同大学院理学研究院の前田 理 教授らの研究グループは、スーパーコンピューターを駆使した量子化学計算によるインシリコスクリーニングを用いて、新しい3成分反応の開発に成功しました。

量子化学計算は、これまでに既知の化学反応のメカニズム解析に主に用いられてきました。これを未知の化学反応に対して、あらかじめ反応が進行するかどうかの予測に用いることができれば、新規反応開発を大きく促進することが期待できます。しかし、これには競合する副反応を含む全ての反応経路を網羅的に算出する必要があり、通常の計算手法では困難でした。

本研究では、ICReDDの基幹技術である人工力誘起反応法(AFIR法)とスーパーコンピューターを用いた量子化学計算によって3成分反応をスクリーニングしました。その結果、計算によってジフルオロカルベンを用いる3成分反応の存在が示唆され、それを実験で具現化することに成功しました。さらに、開発した反応は、用いる原料によって反応が進行するかどうかを、AFIR法による計算で予測することが可能です。本反応によって、創薬研究で重宝されるフッ素化含窒素複素環を含む多様な分子骨格を供給することができます。

本研究で実施した計算科学主導型の反応開発スキームは、次世代型の化学反応創出技術として有機合成化学分野の発展に大きく貢献することが期待されます。

本研究成果は、日本時間2022年8月9日(火)公開の「Nature Synthesis」誌(オープンアクセス)にオンライン掲載される予定です。

本研究は、「JST ERATO 前田化学反応創成知能プロジェクト」(JPMJER1903)、「文部科学省 世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)」、「文部科学省 科学研究費補助金 挑戦的研究(萌芽)」(21K18945)、「文部科学省 科学研究費補助金 若手研究(B)」(22H02069)、「文部科学省 科学研究費補助金 若手研究」(20K15284)、「セントラル硝子研究企画賞助成金」、「ノーステック財団」、「秋山記念生命科学振興財団」、「宇部興産学術振興財団」、「公益信託医用薬物研究奨励富岳基金」、「上原記念生命科学財団」、「内藤記念科学振興財団」の支援のもとで行われました。

詳しい資料は≫

“In silico reaction screening with difluorocarbene for N-difluoroalkylative dearomatization of pyridines”
DOI:10.1038/s44160-022-00128-y

<研究に関すること>

林 裕樹(ハヤシ ヒロキ)

北海道大学 創成研究機構 化学反応創成研究拠点(WPI-ICReDD) 特任助教

美多 剛(ミタ ツヨシ)

北海道大学 創成研究機構 化学反応創成研究拠点(WPI-ICReDD) 特任准教授

前田 理(マエダ サトシ)

北海道大学 創成研究機構 化学反応創成研究拠点(WPI-ICReDD) 拠点長・大学院理学研究院 化学部門 教授

加藤 豪(カトウ ゴウ)

科学技術振興機構 研究プロジェクト推進部 グリーンイノベーショングループ

<報道担当>

北海道大学 社会共創部 広報課

科学技術振興機構 広報課

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