2023-05-10 北海道大学,科学技術振興機構
ポイント
- コエンザイムQ10を搭載したミトコンドリア標的型ナノカプセルの開発に成功。
- 薬剤性肝障害モデルマウスを用いた治療効果の検証実験において、良好な肝臓保護効果を達成。
- 酸化ストレスの発生源であるミトコンドリアを狙った新しい治療法の開発に期待。
北海道大学 大学院薬学研究院の山田 勇磨 教授、原島 秀吉 教授と同大学 大学院工学研究院の日比野 光恵 助教らの研究グループは、コエンザイムQ10(CoQ10)を搭載したミトコンドリア標的型ナノカプセルの構築に成功し、薬剤性肝障害モデルマウスを用いた検証実験を行い、「ミトコンドリアを標的とする抗酸化療法」の有用性を示すことに成功しました。
解熱鎮痛剤であるアセトアミノフェン(APAP)の過剰摂取は重篤な肝障害を引き起こします。APAP肝障害の解毒薬は1種類しかなく、治療開始の遅れが解毒作用の妨げとなり、始動した酸化ストレスを緩和できないことが問題となっています。そこで研究グループは、酸化ストレスの主要な発生源であるミトコンドリアを標的とした新たな抗酸化療法の検証を試みました。治療薬物にCoQ10(難水溶性抗酸化物質、ミトコンドリアでのエネルギー産生の補酵素)を使用したCoQ10搭載ミトコンドリア標的型ナノカプセル(MITO-Porter、特許第5067733号)をAPAP肝障害モデルマウスに投与した結果、肝機能を改善し、肝臓組織の壊死領域を大幅に縮小させる治療効果を確認しました。
本研究で採用する「ミトコンドリアを標的とする抗酸化療法」は、APAP肝障害に対する既存薬と異なる作用機序であり、酸化ストレスが原因となる疾患の治療にも有用であると期待されます。ナノカプセル製剤は、mRNAワクチンの実用化に貢献した基盤技術であるマイクロ流体デバイス(同大学 大学院工学研究院の渡慶次 学 教授、真栄城 正寿 准教授)を使用して製造方法を構築しました。医薬品、化粧品および食品の有効成分は難水溶性のものが多く、可溶化技術への応用も期待されます。
なお、本研究成果は、日本時間2023年5月10日(水)「Scientific Reports」誌にオンライン掲載される予定です。
本研究は、北海道大学 機能強化促進事業(血管を標的とするナノ医療の実装)、JST 創発的研究支援事業(JPMJFR203X)、公益社団法人 コーセーコスメトロジー研究助成、日本薬学会 長井記念薬学研究奨励金の支援を受けて実施されました。また、北海道大学 大学院薬学研究院 小川 美香子 教授におかれましては、本研究に際しFluor Vivo 300 Small Animal Fluorescence Imagingを使用させていただき、その旨御礼申し上げます。最後に、私たちの研究の可能性を信じ、応援・ご支援下さっている多くの皆様に、この場をお借りして心より御礼申し上げます。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(860KB)
<論文タイトル>
- “A System that Delivers an Antioxidant to Mitochondria for the treatment of Drug-Induced Liver Injury”
- DOI:10.1038/s41598-023-33893-7
<お問い合わせ先>
<研究に関すること>
山田 勇磨(ヤマダ ユウマ)
北海道大学 大学院薬学研究院 教授
日比野 光恵(ヒビノ ミツエ)
北海道大学 大学院工学研究院 助教
<JST事業に関すること>
中神 雄一(ナカガミ ユウイチ)
科学技術振興機構 創発的研究推進部
<報道担当>
北海道大学 社会共創部 広報課
科学技術振興機構 広報課