2018-08-27 京都大学,国際コムギゲノム解読コンソーシアム(IWGSC)
那須田周平 農学研究科准教授と農研機構などが参加した国際コムギゲノム解読コンソーシアム(IWGSC)は、コムギゲノムの塩基配列解読を達成しました。この情報を利用し、有用な遺伝子の単離やDNAマーカーの開発を通じて、新品種育成が加速すると期待されます。
本研究成果は、2018年8月17日に、国際科学専門誌「Science」のオンライン版に掲載されました。
研究者からのコメント
パンコムギはその進化の過程で二回の種間交雑と染色体倍加を経て成立した異質六倍体で、核内に3コピーの祖先を同じくする相同な配列を持ちます。しかも、ゲノムサイズが大きく(17 Gb)、その80パーセント以上が反復配列で構成されるため、ゲノム解読の魔境とされていました。
国際コムギゲノム解読コンソーシアム(IWGSC)は、最新のゲノムアセンブリ技術を駆使して、パンコムギのゲノムの94%をカバーする参照ゲノム配列の解読を達成しました。ゲノム解読により見出された107,891個の遺伝子は、今後のコムギ科学を支える学術的基盤となります。とりわけ、コムギの品種改良によって、世界の人類の食料問題の解決に大きな貢献をすると期待されます。
コムギの近代科学は坂村博士が1918年に基本染色体数と倍数性を発見したことから始まりました。それからちょうど100年後に参照ゲノム配列の解読を完了したことで、新たな時代を迎えました。今後、本学で保存してきたコムギとその近縁種の生物遺伝資源の持つ遺伝的多様性を活用した研究が飛躍的に進展すると期待しています。
概要
2005年に結成された国際コムギゲノム解読コンソーシアム(IWGSC)は、イネやトウモロコシとならぶ世界の三大穀物の一つであるコムギのゲノム解読を目指して活動を進め、2014年には染色体毎に区分された概要配列を解読し、公表しました。しかし、概要配列は細かく分断されており、染色体内での遺伝子位置が不明であったことから、染色体が一本につながった精度の高い参照ゲノム配列が求められていました。
本研究では、コムギの21本の染色体に相当する配列を構築し、さまざまな特徴を決定する10万個以上の遺伝子を見出し、病害抵抗性や小麦粉の品質に関わる遺伝子群の詳細を明らかにしました。
コムギは世界中の人たちが日常消費している食物カロリーの約2割を占めており、本研究成果は、人口増加や気候変動による世界的な食糧問題を解決するための作物改良研究の基盤となるとともに、我が国においても、縞萎縮病(しまいしゅくびょう)等の各種病害に対する抵抗性品種や製パン性を向上させた高品質品種等の新品種開発の加速化につながると考えられます。
図:解読レベルによるコムギゲノム配列情報の違い。共通の祖先から分化してきた三つのゲノムを区別して、さらに、それを一つながりにしていくことで、より正確で使いやすいゲノム情報を得ることができる。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】
https://doi.org/10.1126/science.aar7191
Rudi Appels et al. (2018). Shifting the limits in wheat research and breeding using a fully annotated reference genome. Science, 361(6403):eaar7191.