耐光性に優れたライブセルイメージング用 近赤外蛍光標識剤を開発 ~立体化学によって細胞膜透過性が異なることを発見~

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2024-02-29 名古屋大学

耐光性に優れたライブセルイメージング用 近赤外蛍光標識剤を開発 ~立体化学によって細胞膜透過性が異なることを発見~

名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)の多喜 正泰 特任准教授、山口 茂弘 教授、フロハンス タマ(Florence Tama)教授(理化学研究所計算科学研究センター チームリーダー)、東京大学大学院医学系研究科・同大学院理学系研究科(兼務)の岡田 康志 教授(理化学研究所生命機能科学研究センター チームリーダー)らの研究グループは、高い耐光性と細胞膜透過性を兼ね備えたライブセルイメージング注4)用近赤外蛍光標識剤の開発に成功しました。

近赤外領域の光は生体に対する毒性が低く、かつ自家蛍光の影響も受けにくいため、生細胞の長時間イメージングに適しています。また、広く利用されている可視光領域の蛍光タンパク質や蛍光標識剤と波長域が重ならないことから、多色で標的を染色するのにも有用です。しかし、近赤外蛍光色素の多くは水溶性や化学的な安定性が低く、光によって劣化してしまうため、長時間の観察が必要となるオルガネラのライブセルイメージングへ利用可能なものは非常に限られていました。

本研究では、光に対する安定性に優れた近赤外蛍光標識剤を開発し、細胞膜透過性を評価しました。その結果、化合物の三次元的な構造である立体化学が細胞膜透過性に大きな影響を与えることを発見しました。膜透過性を有する近赤外蛍光標識剤を用いることで、蛍光イメージングによる任意のオルガネラの特異的標識を達成しました。また、超解像5次元イメージング(3D+時間+波長)により、オルガネラ同士の相互作用を追跡することにも成功しました。

本研究成果は、2024年2月27日付ドイツ化学会誌「Angewandte Chemie International Edition」オンライン版に掲載されました。

【ポイント】

・細胞膜透過性を有し、かつ耐光性に優れた近赤外蛍光標識剤注1)を開発した。

・色素の三次元的な構造が細胞膜透過性に影響を与えることを発見し、分子動力学(MD)シミュレーション注2)を用いてその理由を明らかにした。

・オルガネラ(細胞小器官)同士の相互作用を、3D+時間+波長の超解像5次元イメージング注3)で追跡することに成功した。

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

【用語説明】

注1) 近赤外蛍光標識剤:

任意のタンパク質やオルガネラを特異的に染色できる650~900 nmの近赤外領域に吸収および蛍光極大波長を有する蛍光色素。

注2) 分子動力学(MD)シミュレーション:

原子や分子の物理的な動きをシミュレーションし、その振る舞いを明らかにする手法。物質分子間で働く相互作用の時間変化を追跡することができる。

注3) 5次元イメージング:

細胞の構造を三次元 (x, y, z)で複数の波長 (λ)を用いながら経時的な変化(t)をイメージングする技術。本研究では3D+時間+波長の5次元で観察した。

注4) ライブセルイメージング:

細胞が生きたままの状態でリアルタイムに可視化する技術。

【論文情報】

雑誌名:Angewandte Chemie International Edition

論文タイトル:Stereochemistry-Dependent Labeling of Organelles with a Near-Infrared-Emissive Phosphorus-Bridged Rhodamine Dye in Live-Cell Imaging

著者:Qian Wu, 多喜 正泰*, 田中 良來, Manish Kesherwani, Quan Manh Phung, 榎 佐和子, 岡田 康志*, Florence Tama* , 山口 茂弘*(*は責任著者)

DOI: 10.1002/anie.202400711

URL: https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/anie.202400711

【WPI-ITbMについて】(http://www.itbm.nagoya-u.ac.jp)

名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)は、2012年に文部科学省の世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)の1つとして採択されました。

WPI-ITbMでは、精緻にデザインされた機能をもつ分子(化合物)を用いて、これまで明らかにされていなかった生命機能の解明を目指すと共に、化学者と生物学者が隣り合わせになって融合研究をおこなうミックス・ラボ、ミックス・オフィスで化学と生物学の融合領域研究を展開しています。「ミックス」をキーワードに、人々の思考、生活、行動を劇的に変えるトランスフォーマティブ分子の発見と開発をおこない、社会が直面する環境問題、食料問題、医療技術の発展といったさまざまな課題に取り組んでいます。これまで10年間の取り組みが高く評価され、世界トップレベルの極めて高い研究水準と優れた研究環境にある研究拠点「WPIアカデミー」のメンバーに認定されました。

【研究代表者】

トランスフォーマティブ生命分子研究所 多喜 正泰 特任准教授

トランスフォーマティブ生命分子研究所 山口 茂弘 教授

生物工学一般
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