デュシェンヌ型筋ジストロフィー治療薬(NS-065/NCNP-01、ビルトラルセン)国際共同第Ⅲ相試験(RACER53 試験)の解析結果の速報について

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2024-05-27 国立精神・神経医療研究センター

国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター(東京都小平市、理事長:中込和幸、以下、NCNP)は、日本新薬株式会社(本社:京都市南区、代表取締役社長:中井亨、以下、日本新薬)と共同で開発を進め、2020 年 3 月 25 日に本邦で製造販売承認を受けたアンチセンス核酸医薬品であるデュシェンヌ型筋ジストロフィー(以下、DMD)治療薬(NS-065/NCNP-01(一般名:ビルトラルセン))国際共同第Ⅲ相試験(RACER53 試験)の解析結果の速報をお知らせします。

ビルトラルセンは、NCNP と日本新薬の共同研究を通して創製されたエクソン・スキップ作用を有する核酸医薬品であり、ジストロフィン遺伝子のエクソン 53 スキップに応答する遺伝子変異を有する DMD 患者に対する治療薬として開発されました。

NCNP は、基礎研究から臨床応用に至るまでビルトラルセンの研究開発を継続的に行ってきました。ビルトラルセンを初めてヒトに投与する治験(First in human 試験)は、 NCNP による医師主導治験(UMIN: 000010964、ClinicalTrials.gov: NCT02081625 として登録)として実施されました。DMD のように患者数が少ない希少疾患においては、被験者の集積の困難さにより治験実施に長期間を要しますが、本医師主導治験においては、 NCNP が構築した神経・筋疾患のナショナルレジストリー(Remudy)を用いて、効率的に被験者を集積することができました。以上の結果等を踏まえて、共同開発先である日本新薬による企業治験が実施され、医師主導治験及び日本新薬が実施した治験の成績に基づき、2020 年 3 月 25 日に厚生労働省からビルトラルセンの条件付き早期承認を受けております。

ビルトラルセンは日本で初めて実用化されるエクソン・スキップ治療薬であり、エクソン 53 スキッピングの治療対象になる DMD 患者のジストロフィン産生を回復させることにより、疾患の進行を抑制するとともに疾患の状態を改善することが期待されます。
ビルトラルセンは、厚生労働省の先駆け審査指定制度(現:先駆的医薬品指定制度)及び「エクソン 53 スキッピングにより治療可能なジストロフィン遺伝子の欠失が確認されているデュシェンヌ型筋ジストロフィー」を対象にした希少疾病用医薬品の指定を受け、条件付き早期承認制度の適用を受けたものであり、製造販売後に、日本新薬が実施する DMD 患者を対象にした国際共同第Ⅲ相試験(RACER53 試験)及びレジストリーを用いた製造販売後調査により、更なる有効性及び安全性の検証を行っていくことになっておりました。

解析結果の速報をお知らせする RACER53 試験は、エクソン 53 スキッピングにより治療可能なジストロフィン遺伝子変異を持つ歩行可能なデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の男児 77 名を対象とした、ランダム化・二重盲検・プラセボ対照・多施設共同の比較試験です。本剤 80mg/kg またはプラセボを週 1 回、48 週間投与し、プラセボ投与群に対する本剤の有効性と安全性を評価しました。
RACER53 試験の主要評価項目である床からの立ち上がり時間を速度(rise/sec)で評価したところ、48 週投与後のベースラインからの変化について、ビルトラルセン投与群で速度の増加傾向が認められましたが、プラセボ投与群でも同様に増加傾向が認められ、ビルトラルセン投与群とプラセボ投与群との比較では統計的な有意差は認められませんでした。
なお、安全性に関して、有害事象の発現率はビルトラルセン投与群とプラセボ投与群との間に差はなく、ビルトラルセン投与群で発現した有害事象はいずれも軽度または中程度であり、治療中止に至った症例はありませんでした
。日本新薬は先行試験の結果※から、本剤は治療を必要としている DMD 患者さんに対して価値ある薬剤であると考えており、現在、さらに詳細なデータ解析、および結果に影響を及ぼす要因(ステロイドを含む併用薬の影響、年齢等の背景因子、投与期間など)の検討を続けています。この結果を踏まえ、規制当局と綿密に連携し、DMD 患者さんに最善の利益となるように、今後の進め方を決める予定です。追加の解析結果や規制当局との議論の内容については、後日ご報告します。
NCNP も、引き続き、Remudy 等のレジストリーを用いてビルトラルセンの製造販売後の安全性及び有効性の評価にも貢献していきます。

※先行試験の結果:
骨格筋におけるジストロフィン産生の増加に加え、既に報告されている第Ⅱ相非盲検継続投与試験では、エクソン 53 スキップに適応のある 4 歳から 10 歳までの DMD 患者 16 例を対象に本剤の評価を行いました。この試験では、本剤が投与された被験者は、主要評価項目である 205 週目の床からの立ち上がり時間のベースラインからの平均変化において、主要因子をマッチさせた過去の対照群と比較して統計学的に有意な改善を示しました。なお、本剤投与群で発現した有害事象は、軽度または中等度であり、治療中止に至った症例はありませんでした。

■助成金
ビルトラルセンの開発は、以下の助成を受けています。
・日本医療研究開発機構(AMED)研究費平成 27-28 年度臨床研究
・治験推進研究事業「デュシェンヌ型筋ジストロフィーに対するエクソン 53 スキップ治療薬による早期探索的臨床試験」平成 27 年度障害者対策総合研究開発事業「デュシェンヌ型筋ジストロフィーに対するエクソン・スキップ治療薬の臨床開発に資するバイオマーカーの探索」平成 28 年度難治性疾患実用化研究事業「デュシェンヌ型筋ジストロフィーに対するエクソン・スキップ治療薬の臨床開発に資するバイオマーカーの探索」
・厚生労働科学研究費平成 24-26 年度医療技術実用化総合研究事業(臨床研究・治験推進研究事業)平成 23-25 年度障害者対策総合研究事業(神経・筋疾患分野)平成 26 年度障害者対策総合研究開発事業(神経・筋疾患分野)
・国立精神・神経医療研究センター精神・神経疾患研究開発費

■用語説明
デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)
DMD は男児に発症するもっとも頻度の高い遺伝性筋疾患で、ジストロフィンと呼ばれる筋肉の骨組みを作るタンパク質の遺伝子変異により、正常なジストロフィンが作られなくなることで、重篤な筋力低下を示します。現在、その進行を遅らせるステロイド剤以外に有力な治療法は存在しません。

NS-065/NCNP-01(ビルトラルセン)
モルフォリノ化合物で合成されたアンチセンスと呼ばれる核酸医薬品であり、ジストロフィン遺伝子のエクソン 53 スキップに応答する遺伝子変異を有する、DMD 患者を対象に開発されました。核酸医薬品は遺伝子の構成成分である核酸と類似した構造を持ち、特定の遺伝子配列を標的として、その遺伝子から作られるタンパク質の産生を調節することで作用します。核酸医薬品により従来の低分子医薬品では難しかった疾患の治療が可能になると期待されています。

エクソン・スキップ作用
アンチセンス核酸と呼ばれる短い合成核酸を用いて、遺伝子の転写産物(メッセンジャーRNA)のうち、タンパク質に翻訳される領域(エクソン)の一部を人為的に取り除く(スキップする)ことで、アミノ酸の読み取り枠のずれを修正する治療法です。正常なジストロフィンタンパク質に比べると、その一部が短縮するものの、機能を保ったジストロフィンタンパク質が発現し、筋機能の改善が期待できます。この治療の対象になるエクソンは、患者の変異形式に応じて異なり、ビルトラルセンは、エクソン 53 を対象にしています。

ジストロフィン遺伝子
ジストロフィンと呼ばれる筋肉の細胞の骨組みを作るタンパク質(ジストロフィン・タンパク質)の遺伝子のことです。神経・筋疾患のナショナルレジストリー Remudy(Registry of Muscular Dystrophy)希少疾患の治療法開発や創薬には、正確な疫学情報と臨床試験の参加者を速やかに集める仕組みが必要です。その仕組みとして、NCNP は、2009 年に神経・筋疾患を対象とするナショナルレジストリー「Remudy」を開始しました。Remudy は患者と製薬関連企業・研究者との橋渡しをする登録システムであり、円滑な臨床試験の実施を可能にするとともに、患者へタイムリーに研究や臨床試験に関する情報を提供しています。

医師主導治験
治験は「新薬の申請資料作成のための臨床試験」と定義されますが、治験には製薬企業が医療機関に依頼する治験と、医師自らが企画・立案し、治験計画届を提出して実施する治験の二種類があり、後者を医師主導治験と呼びます。たとえば、採算性やリスク面から製薬企業が治験を行わない場合や、先端医療などの新規の治療法であるために効果が未知であることから企業が治験実施に消極的な場合等に、医師主導治験が実施されることがあります。

先駆け審査指定制度(現:先駆的医薬品指定制度)
有効な治療法がなく命に関わる疾患に対し、世界に先駆けて革新的医薬品等を日本発で早期に実用化すべく、国内での開発を促進する制度です。本制度の目的は、薬事承認に関する相談・審査で優先的な取扱いをすることで、日本における承認審査の期間を短縮することです。

条件付き早期承認制度
重篤な疾患であって有効な治療法が乏しく患者数が少ない疾患等を対象とする医薬品について、検証的臨床試験以外の臨床試験等で一定程度の有効性及び安全性を確認し、更に、製造販売後に有効性・安全性の再確認等のために必要な調査を実施する等の承認条件を付与した上で、当該医薬品を承認する制度です。当該医薬品について、我が国での治験実施が困難である(あるいは治験の実施にかなりの長時間を要すると認められる)、医療上の有用性が高いと認められる等の条件を満たした場合に適用されます。本制度が適用された医薬品の承認条件については、基本的には再審査時に確認されることになります。

第Ⅲ相試験
一般的に、医薬品開発においては、通常 3 つのステップ(相)を踏んで治験が進められます。初めに、少人数の健康成人や患者において、ごく少量から少しずつ医薬品の安全性を確認する第Ⅰ相試験が実施されます。次に、医薬品が効果を示すと予想される比較的少人数の患者において有効性及び安全性、投与方法等について検討する第Ⅱ相試験が実施されます。続いて、最終的に、多数の患者において医薬品の有効性及び安全性、投与方法を確認するのが第Ⅲ相試験です。

製造販売後調査
第Ⅲ相試験が実施され、医薬品が世の中に出た後も、様々な医療機関で多くの患者に使われることによって、開発段階では発見できなかった副作用や適正な使い方につながる情報が得られることがあります。通常、医薬品の販売後には、発売後の安全性や使用方法を確認するための製造販売後調査が実施され、そこで得られた情報を元に、より安全な医薬品の使い方等が検討されます。

【お問い合わせ先】
≪研究に関すること≫
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター
神経研究所 遺伝子疾患治療研究部 部長
青木 吉嗣(あおき よしつぐ)

≪医師主導治験に関すること≫
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター
トランスレーショナル・メディカルセンター長
小牧 宏文(こまき ひろふみ)

≪報道に関すること≫
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター
総務課広報室

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