てんかんを起こす脳腫瘍の遺伝子タイプに関連するMRI画像の特徴を発見

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2024-07-19 国立精神・神経医療研究センター

国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター(NCNP)病院 脳神経外科診療部の飯島圭哉医師および岩崎真樹部長、並びに放射線診療部の木村有喜男医長および佐藤典子部長らの研究グループは、小児てんかんの原因となる脳腫瘍の一群(低悪性度てんかん原性腫瘍、LEAT)のMRIを解析することで、腫瘍の遺伝子変異 (BRAF V600E mutation および FGFR1 mutation) に特徴的なMRIの画像パターンが存在することを明らかにしました。特にBRAF V600E 変異の腫瘍は、皮質形成異常と紛らわしい淡い信号変化を呈する一群であることが分かりました。また、遺伝子変異によって、手術後の発作消失率が異なることも明らかにしました。
今回の発見から、てんかん原性腫瘍で手術を受ける患者さんのMRI検査から腫瘍の遺伝子変異の型を予測することができるようになりました。この成果は、分子標的薬など遺伝子変異に従った個別化医療を、画像診断から計画できる可能性を示しています。また、BRAF V600E 変異の腫瘍の一部はこれまで皮質形成異常と診断されていた可能性があり、今回の研究成果は診断精度の向上に寄与すると考えられます。
本研究成果は日本時間2024年7月16日13時(報道解禁日時:米国東部時間7月16日午前0時)に、スイスのオンライン総合学術雑誌「Frontiers in Neurology」に掲載されました。

研究の背景

低悪性度てんかん原性腫瘍 (LEAT) は、小児でてんかんの手術を受ける患者において、皮質形成異常に次いで2番目に多い疾患です。手術標本の27.2%にLEATが見つかります 。
「LEAT」という用語は国際抗てんかん連盟 (ILAE) が提唱する臨床病理学的概念であり、これまでに多くの研究の対象となってきましたが、その定義はまだ確立されていません。最近の分子遺伝学的研究により、低悪性度神経上皮腫瘍において、BRAFFGFR1を含むmitogen活性化プロテインキナーゼ (MAPK) 経路のさまざまな病的変異が原因となることが明らかになってきました。
これまでの研究では、脳腫瘍の手術から手術標本が収集され、一部のサンプルは明らかなてんかんのない患者からも得られていました。そのため、薬剤抵抗性てんかんを真に引き起こす腫瘍の遺伝的特徴は十分には明らかにされていませんでした。また、脳腫瘍の診断の基本は手術標本の病理診断ですが、病理診断用に切除される手術標本は腫瘍の一部のみが採取されることが多く、病理検査では全体像が把握できないことが問題となっていました。MRIを代表とするイメージング手法は腫瘍全体の特徴を捉えることができ、標本摘出部位による診断誤差の発生を回避できます。最近の研究では、LEATにおけるMRIと病理所見との関連が報告されていますが、神経画像所見と遺伝型との関連は報告されていませんでした。
上記の背景から、遺伝子変異の型は病理所見よりもMRI所見と関連する可能性が高いと仮定し、LEATの患者における遺伝子変異の型ごとのMRI画像の特徴とその臨床的意義を調べました。

研究の概要

MRI画像解析 (T1, T2, ADCの信号値、mass effectの有無、腫瘍境界の性状、嚢胞成分の有無、外方性発育所見) の階層的クラスタリング解析により、46人の患者の腫瘍病変の神経画像特徴に基づいて、3つの主要なグループが明らかになりました。グループ1は、不明瞭な腫瘍境界と、わずかに高いT2強調信号強度を持ち、びまん性のmass effectを伴わない特徴を持っていました。グループ2は、明瞭な腫瘍境界と、非常に低いT1強調信号強度および非常に高いT2強調信号強度を持ち、びまん性のmass effectを伴う特徴を持っていました。グループ3には、びまん性の質量効果を示し、わずかに高いT2強調信号強度を持つ腫瘍が含まれていました。次に腫瘍の手術サンプルの遺伝子解析を行いました。遺伝子解析の結果、BRAF V600E遺伝子変異が69.6%に見られ、FGFR1遺伝子変異が16.3%に見られました。画像のグループと遺伝型との対応を見てみると、グループ1の腫瘍はBRAF V600E変異と対応し、グループ2はFGFR1の遺伝子変異と対応していることが明らかになりました。グループ3はその他の遺伝子変異と対応していました。これらの画像の特徴と遺伝型との対応は図1に示されています。

てんかんを起こす脳腫瘍の遺伝子タイプに関連するMRI画像の特徴を発見
【図1】BRAF V600E mutationおよびFGFR1 mutation およびその他に対応する3つの画像グループ (グループ1 (青) グループ2 (ピンク)、グループ3 (緑) )が明らかになった。BRAF V600E mutationの一部はGroup 3に分類されたが、この違いはDNAのメチル化の違いによって説明された。
また、FGFR1 変異と対応するグループ2の腫瘍では、他のグループよりもてんかん発作の再発率が高いことが示されました(図2)。
遺伝型および画像グループごとの発作消失率の違いのグラフ
【図2】: 遺伝型および画像グループごとの発作消失率の違い。術後5年においてBRAF V600E変異群とFGFR1変異群の間およびGroup1とGroup2の間に有意差を持って発作消失率の違いが見られた。

まとめ

LEATには2つの主要な遺伝型に対応する画像グループがあることがわかりました。1つ目は、BRAF V600E変異を持つ、境界が不明瞭でくさび形/帯状のやや高いT2強調信号を示す病変です。2つ目は、FGFR1変異を持つ、境界が明瞭で非常に高いT2強調信号を示す外向性増殖する腫瘍です。後者の腫瘍は、腫瘍および発作の再発リスクが高いことと関連していました。我々は、BRAF V600EおよびFGFR1変異を持つ腫瘍を診断する新しいLEATの神経画像分類を提案しました。これは手術後の発作転帰とも関連しています。我々の結果は、正確な術前診断、適切なLEATの分類、および将来的な分子標的薬の適用を含む、最適な患者ケアに寄与することが期待されます。

用語の説明

1)LEAT: low-grade epilepsy associated tumors. 国際抗てんかん連盟が提唱する一群の脳腫瘍。胎生期に発生すると考えられており、多くは小児期に難治てんかんを発症する。
2)mass effect:脳腫瘍が画像上、他の正常組織を押して変形させている様子

原著論文情報

論文名:

研究経費

本研究結果は、以下の日本学術振興会・科学研究費補助金、日本医療研究開発機構「難治性疾患実用化研究事業」および国立精神・神経医療研究センター精神・神経疾患研究開発費の支援を受けて行われました。
JP20ek0109374, JP22ck0106534, JP23wm0425005
JP22K09273

お問い合わせ

【研究に関するお問い合わせ】
国立精神・神経医療研究センター
脳神経外科 岩崎真樹

【報道に関するお問い合わせ】
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター
総務課広報室

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