20年の登録期間を超える心房細動関連脳梗塞患者33,870例の重症度と転帰:日本脳卒中データバンク

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2024-08-29 国立循環器病研究センター

国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)の豊田一則副院長が代表者を務める国内多施設共同の脳卒中急性期患者登録事業、日本脳卒中データバンク(Japan Stroke Data Bank: JSDB)の研究者らが、20年を超える臨床情報を用いて、わが国の心房細動関連脳梗塞患者の入院時重症度と退院時機能転帰の推移を解明しました。この研究成果は、英文医学誌「Journal of Atherosclerosis and Thrombosis」オンライン版に、令和6年8月29日に掲載されました。

■背景: 日本脳卒中データバンクとは

日本脳卒中データバンク事業(Japan Stroke Data Bank)は、島根大学名誉教授の小林祥泰先生が1999年から始められた厚生科学研究費での脳卒中急性期患者データベース構築研究に端を発し 、その後日本脳卒中協会の脳卒中データバンク部門として厚生労働科学研究費を受けながら改良を続け、症例登録数を増やしてきたものです。登録症例の解析結果は数年ごとに書籍化され、また多くの英語論文も発表されてきました。

本事業は2015年に国循に運営が移管され、脳血管内科と情報利用促進部とで事務局を担って、現在の研究倫理に適う研究計画書の整備、入力システムの更新を行い、事業を継続してきました。2021年には、国循への移管後初の書籍「脳卒中データバンク2021」を発刊いたしました。

■緒言: 心房細動関連脳梗塞

心房細動は、脳梗塞の原因として有名な不整脈です。心腔内に血流の淀みを作り、左心耳と呼ばれる袋小路のような構造物などに、血栓を作ります。この血栓が剥がれて飛び、脳の血管を突然詰めて脳梗塞を起こします。近年では直接作用型経口抗凝固薬が普及し、以前より多くの心房細動患者がきちんと抗凝固薬を服用して、脳梗塞予防に努めています。このような治療の変化に伴って、心房細動関連脳梗塞の患者は減ったでしょうか?また脳梗塞の重症度や転帰も変わったでしょうか?このような疑問を、日本脳卒中データバンクの臨床情報を用いて解明しました。

■研究手法と成果

日本脳卒中データバンクの歴史は20年を超えます。今回は2000年から2020年までの21年間に登録された急性期脳梗塞142351例を対象としました。このうち33870例(24%)が心房細動を有していました。心房細動を有する割合は、2016年まで24%前後で推移していましたが、それ以降は21~23%に減っています(図1)。欧州からのいくつかの研究でも同じように脳梗塞患者に占める心房細動有りの割合が近年減少傾向にあり、直接作用型経口抗凝固薬が脳梗塞の発症予防に良い役割を果たしているのかもしれません。

また入院時神経学的重症度[NIH Stroke Scale(42点満点の評価法で、高点数ほど重症)]や退院時転帰良好の割合は、(図2)に示すように心房細動を持つ患者が明らかに重症で転帰良好が少ないのですが、統計解析でNIH Stroke Scaleなどを用いて調整すると、逆に心房細動患者の転帰良好者が有意に多くなりました。

心房細動関連脳梗塞患者の転帰良好の割合は、21年間で経年的に有意に多くなりました(調整オッズ比1.018, 95%信頼区間 1.010 – 1.026)。心房細動を有さない患者にも同じ傾向がみられますが、心房細動患者はより急勾配で割合が多くなりました。

■今後の展望と課題

心房細動は、脳梗塞発症の最強の危険因子といえるでしょう。今回の結果を見ると、脳梗塞診療の悩みの種であった心房細動に対して、少しでも脳梗塞を発症しないように、また少しでも起こった脳梗塞が重症化しないように、次第に医学が発達してきたように思えます。近年では抗凝固薬を用いた発症予防に加えて、経皮的あるいは外科的な左心耳閉鎖術で血栓性形の場を塞いだり、カテーテルアブレーションなどで心房細動をリズムコントロールすることが、脳梗塞発症の予防に繋がることが分ってきました。今後の日本脳卒中データバンクの長期的な登録データで、心房細動関連脳梗塞の重症度や転帰のさらなる変化を明瞭に示せるかもしれません。

■発表論文情報

著者:Kazunori Toyoda, MD; Sohei Yoshimura, MD; Michikazu Nakai, PhD; Shinichi Wada, MD; Kaori Miwa, MD; Junpei Koge, MD(以上、国立循環器病研究センター); Takashi Yoshida, MD(シミズ病院); Kenji Kamiyama, MD(中村記念病院); Tatsuya Mizoue, MD(梶川病院); Taketo Hatano, MD(小倉記念病院); Yasuhisa Yoshida(吉田病院附属脳血管研究所), MD; Yusuke Sasahara, PhD; Akiko Ishigami, MD; Yoshitaka Iwanaga, MD; Yoshihiro Miyamoto, MD(以上、国立循環器病研究センター); Kazuo Minematsu, MD(医誠会国際病院); Shotai Kobayashi, MD(島根大学); Masatoshi Koga, MD(国立循環器病研究センター); Japan Stroke Data Bank Investigators
題名:Severity, outcomes, and their secular changes in 33,870 ischemic stroke patients with atrial fibrillation in a hospital-based registry: Japan Stroke Data Bank
掲載誌:Journal of Atherosclerosis and Thrombosis
DOI:https://doi.org/10.5551/jat.65117

■謝辞

日本脳卒中データバンクの事業活動は、科学研究費助成事業(JP21K07472, JP23K27522)により支援されました。

図1:脳梗塞全体に占める心房細動関連脳梗塞患者の割合の経年的変化
20年の登録期間を超える心房細動関連脳梗塞患者33,870例の重症度と転帰:日本脳卒中データバンク

図2:日本脳卒中データバンクにおける心房細動の有無と脳梗塞患者の重症度・転帰良好割合
日本脳卒中データバンクにおける心房細動の有無と脳梗塞患者の重症度・転帰良好割合

医療・健康
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