2024-10-17 国立成育医療研究センター,国立循環器病研究センター
成人や小児では頻脈性不整脈の治療に用いられている3つの薬剤(ジゴキシン・ソタロール・フレカイニド)が、2024年9月より胎児における頻脈性不整脈の治療薬としても保険診療で使用できることになりました。
胎児頻脈性不整脈は、胎児の心臓の拍動が正常よりも速くなり、その状態が続くと、心臓が弱り、全身がむくみ、亡くなってしまう場合もある希少疾患です。そのため、国立成育医療研究センターや国立循環器病研究センターをはじめとする国内15施設が多施設共同臨床試験において、母親に抗不整脈薬を投与し胎内で治療するプロトコール治療(研究計画に基づいた治療方法)を2010年より行ってきました。
その結果、国内臨床試験の成績、国内ガイドラインへの掲載、国内における使用実態などに基づき、胎児頻脈性不整脈に対する当該治療薬の適応外使用が、診療報酬の審査上は認められると厚生労働省より示されました。
外科的な治療ではなく、薬剤を用いた内科的な胎児治療が保険診療で実施可能になったのは日本で初めてで、胎児治療の分野において非常に大きな一歩となります。今後は母児ともに安全に胎児治療が受けられるよう、関連学会が連携して体制整備を進めていくことになります。
■プレスリリースのポイント
- 母親に抗不整脈薬(ジゴキシン・ソタロール・フレカイニド)を投与する多施設共同臨床試験[1]で、この胎児治療の有効性および安全性を評価した結果、約90%の症例で胎児頻脈性不整脈が消失し、高い有効性が確認できました(関連論文①)。
- さらに出生後のフォローアップ研究では、「抗不整脈薬を用いて胎児治療を実施した胎児」の出生後3 歳までの有効性と安全性が示されました(関連論文②)。
- 国内臨床試験の結果は、2021年に改訂された日本小児循環器学会胎児心エコー検査ガイドラインに収載されました。
- 胎児治療で用いられる抗不整脈薬(ジゴキシン・ソタロール・フレカイニド)は、胎児頻脈性不整脈に対して薬事承認を得られているわけではなく、適応外使用になりますが、「薬理作用に基づく医薬品の適応外使用事例」の審査を経て、保険診療での使用が認められることになりました(図)。
- 双胎間輸血症候群に対する胎児鏡下レーザー治療をはじめとした外科的な胎児治療が保険適用された事例はこれまでにもありますが、薬剤を用いた内科的な胎児治療は日本で初めてです。
- 本胎児治療の実施にあたっては、母児ともに安全性が担保できる施設において、関連学会[2]による管理のもとで行う必要があります。
- 胎児治療を実施した症例は、日本胎児心臓病学会が運営する胎児心疾患レジストリへ全例登録する予定です。
[1] 国立成育医療研究センター、国立循環器病研究センター、久留米大学、大阪母子医療センター、神奈川県立こども医療センター、筑波大学、三重大学、東邦大学医療センター大森病院、北海道大学、兵庫県立こども病院、長野県立こども病院、静岡県立こども病院、神戸市立医療センター中央市民病院、岡山医療センター、大阪大学の15施設
[2] 日本産科婦人科学会、日本周産期・新生児医学会、日本小児循環器学会、日本胎児心臓病学会
■関連論文・ガイドライン・レジストリ情報
関連論文①
題名:Antenatal Therapy for Fetal Supraventricular Tachyarrhythmias: Multicenter Trial
著者:三好剛一、前野泰樹、濵崎俊光、稲村 昇、安河内 聰、川滝元良、堀米仁志、与田仁志、竹田津未生、新居正基、
萩原聡子、賀藤 均、清水 渉、白石 公、坂口平馬、上田恵子、桂木真司、山本晴子、左合治彦、
池田智明(日本胎児不整脈班)
掲載誌:Journal of the American College of Cardiology
DOI:10.1016/j.jacc.2019.06.024.
プレスリリース:https://www.ncchd.go.jp/press/2019/pr_20190820.html
関連論文②
題名:Neurodevelopmental outcomes after antenatal therapy for fetal supraventricular tachyarrhythmias:
3-year follow-up of a multicenter trial
著者:三好剛一、前野泰樹、松田直、伊藤裕司、稲村昇、堀米仁志、与田仁志、金基成、塚原紗耶、寺町陽三、高橋邦彦、
豊島勝昭、中井陸運、桂木真司、白石公、黒嵜健一、池田智明、左合治彦(日本胎児不整脈班)
掲載誌:Ultrasound in Obstetrics & Gynecology
DOI:10.1002/uog.26113
プレスリリース:https://www.ncchd.go.jp/press/2022/1121.html
ガイドライン
題名:日本小児循環器学会胎児心エコー検査ガイドライン(第2版)
作成主体:日本胎児心臓病学会、日本小児循環器学会
掲載誌:日本小児循環器学会雑誌
胎児心疾患レジストリ
運営主体:日本胎児心臓病学会
代表施設:国立循環器病研究センター
データセンター:国立成育医療研究センター
URL:https://www.jsfc.jp/disease-registry
特記事項
国内臨床試験は、日本医療研究開発機構(事業名:臨床研究・治験推進研究事業、研究開発課題名:胎児不整脈に対する胎児治療の臨床研究、代表者:左合治彦)より資金的支援を受け、先進医療B として実施されました。出生後のフォローアップ研究は、川野小児医学奨励財団研究助成および成育医療研究開発費より資金的支援を受け実施されました。胎児心疾患レジストリは、日本学術振興会科研費(22K07833)および循環器病研究振興財団研究助成より資金的支援を受け構築されました。
【報道機関からの問い合わせ先】
国立研究開発法人国立循環器病研究センター 企画経営部広報企画室