2024-10-29 東京大学,国立国際医療研究センター
研究ポイント
- 結核菌のゲノム配列を解析し、様々な種類の遺伝的多様性を検出しました。また、遺伝的多様性と結核菌の病原性(患者の予後)や薬剤耐性との関連を解析しました。
- 病原菌ゲノムにおいて遺伝的多様性の包括的な解析はほとんど行われていませんでした。本研究によって病原性や薬剤耐性に関連する新たな遺伝子が検出されました。
- 結核菌の病原性、薬剤耐性のメカニズムの理解が深まり新たな治療標的分子の発見につながると考えられます。また、病原性の高い株や薬剤耐性株を検出する検査のマーカーになる可能性が考えられます。
結核菌のゲノム解析
概要
東京大学大学院医学系研究科国際保健学専攻人類遺伝学分野のWittawin Worakitchanon 博士課程学生(当時)、藤本明洋教授らは、結核予防会複十字病院の野内英樹博士、国立感染症研究所の宮原麗子博士、国立国際医療研究センターの徳永勝士プロジェクト長、マヒドン大学のPrasit Palittapongarnpim 教授、タイ保健省のSurakameth Mahasirimongkol 博士らと共同で、結核菌1,960 株の全ゲノムシークエンスデータ*1)を解析し、挿入・欠失および一塩基多様体(SNV)の包括的解析を行い、病原性や薬剤耐性に関連する新たな遺伝子を検出しました。
結核は、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)によって引き起こされる世界的に重要な感染症です。しかし、結核菌の遺伝的多様性*2)の包括的解析は行われていませんでした。この研究では、結核菌1,960株の全ゲノムシークエンスデータを解析し、挿入・欠失および一塩基多様体(SNV)の包括的解析を行いました。その結果、機能喪失変異は細菌の生存に必須な遺伝子に有意に少ないことが分かりました。また、集団遺伝学的な解析により、結核菌のゲノムには弱有害変異が多いことが示唆されました。さらに、病原性に関連する多型を探索したところ、eccB2 遺伝子の欠失が患者の予後と有意に関連していました。薬剤耐性に関連する23個の新規遺伝子も検出されました。これらの結果、機能変化が結核菌の病原性に関係する遺伝子についての知見が得られました。結核菌の病原性、薬剤耐性のメカニズムの理解が深まり新たな治療標的分子の発見につながると考えられます。