2024-12-10 北里大学
北里大学海洋生命科学部の安元剛講師、窪田梓氏(現 日本電子)、大野良和研究員、琉球大学農学部の安元純助教(総合地球環境学研究所・共同研究員)、産業技術総合研究所地圏資源環境研究部門の飯島真理子研究員、東京大学大学院農学生命科学研究科の鈴木道生教授、トロピカルテクノプラスの廣瀬美奈博士の研究グループは、総合地球環境学研究所LINKAGEプロジェクトの一環で、ミドリイシサンゴの幼生の骨格形成時のpHを、共焦点レーザー顕微鏡によるpHイメージングという手法で調べました。その結果、サンゴ幼生が海水を骨格形成部位に取り込み、その部位にポリアミンという生体アミンを輸送してpHを上昇させ、炭酸カルシウム(CaCO3)の骨格を形成する新しい石灰化モデルを提案しました。従来の石灰化モデルでは、サンゴの石灰化が二酸化炭素(CO2)を放出する可能性が指摘されていましたが、本研究では、サンゴがむしろCO2をCaCO3として効率的に固定していることを明らかにしました。この発見は、サンゴ礁が地球規模のCO2固定において果たす役割を再評価する重要な一歩となります。本研究成果は、アメリカ化学会(ACS)が刊行する“Environmental Science & Technology”誌に、2024年12月10日(日本時間)に掲載されました。
ポイント
・サンゴの骨格形成における新たな石灰化メカニズムを提唱
サンゴが骨格形成を行う際、石灰化液(ECM)のpHを周囲の海水よりも0.5~1単位高く保つ仕組みを調べたところ、このpH上昇には造骨細胞に存在する生体塩基であるポリアミンが寄与することが明らかになりました。これにより、骨格になる炭酸カルシウム(CaCO3)形成時に、従来言われていたCO2放出は起こらないことが明らかになりました。
・サンゴの骨格形成の場となる細胞外石灰化液(ECM)の詳細な観察
サンゴはECMに海水を取り込む際に、細胞間の隙間からカルシウムイオン(Ca2+)を取り込み、ECM内のpHをポリアミン輸送体という生体塩基を使って上昇させることがわかりました。ポリアミンはCO2を保持する化学的な性質があるため、細胞内からCO2を輸送している可能性が示されました。
・サンゴの炭素循環への寄与を示唆
これまでサンゴや貝などの海洋生物の石灰化プロセスが大気中にCO2を放出するという考え方がありましたが、本研究では、石灰化プロセスがむしろCO2を吸収することを示し、地球規模の炭素循環におけるサンゴ礁の役割を再評価しました。
論文情報
【掲載誌】Environmental Science & Technology
【論文名】The Role of Polyamines in pH Regulation in the Extracellular Calcifying Medium of Scleractinian Coral Spats
【著 者】窪田 梓(日本電子)、大野良和(北里大学)、安元 純※(琉球大学、総合地球環境学研究所)、飯島真理子※(産業技術総合研究所)、鈴木道生(東京大学)、井口 亮※(産業技術総合研究所)、安元加奈未(東京理科大学)、廣瀬(安元)美奈(トロピカルテクノプラス)、坂田 剛(北里大学)、末弘宗滉(北里大学)、中前華帆(北里大学)、水澤菜々美(北里大学)、神保 充(北里大学)、渡部終五(北里大学)、安元 剛※(北里大学)
※LINKAGEプロジェクト共同研究員
【DOI】10.1021/acs.est.4c10097
【URL】https://doi.org/10.1021/acs.est.4c10097
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北里大学海洋生命科学部
講師 安元 剛
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