若手理工農分野博士課程修了者の就業等状況の分析の公表について

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DISCUSSION PAPER No.167

2019-03-13  科学技術・学術政策研究所

科学技術・学術政策研究所(NISTEP)では、理工系人材を取り巻く状況における博士人材の問題の重要性、理工系博士人材に対する産業界の期待及び博士課程への進学者の中で社会人経験者が増加している現状に鑑み、博士課程進学による就業等への影響について分析しました。分析対象は、2015年度の、理学・工学・農学の分野の博士課程修了者とし、調査時点で民間企業、公的研究機関、高等教育機関に就業していた博士人材の意識について、年齢と社会人経験の有無等を考慮しながら、分析しました。

詳細につきましては、以下のリンクより御覧ください。
報告書全文[760KB]

若手理工農分野博士課程修了者の就業等状況の分析

文部科学省 科学技術・学術政策研究所 第 1 調査研究グループ
研究員 椿光之助・総括上席研究官 三木清香

要旨

本研究では、理工系人材を取り巻く状況における博士人材の問題の重要性、理工系博士人材 に対する産業界の期待及び博士課程への進学者の中で社会人経験者が増加している現状に鑑み、 理工農分野の博士課程進学による就業等への影響について分析する。分析対象は、文部科学省 科学技術・学術政策研究所第 1 調査研究グループが実施した「博士人材追跡調査」(JD-Pro)に 回答した 2015 年度博士課程修了者のうち、理学・工学・農学の分野の博士課程を修了した若手 の博士人材とした。このうち、調査時点で民間企業、公的研究機関、高等教育機関に就業して いた博士人材の意識について、年齢と社会人経験の有無等を考慮しながら分析する。こうして、 博士課程を経験した後のキャリアに関わる意識についての当事者の回答結果をとりまとめ、人 材政策の EBPM の発展に貢献することを目的とする。
本分析から得た考察結果と知見をまとめると次のとおりである。

  • 博士課程進学以前に民間企業に就業していた理工農分野の若手博士人材の中には、修了 後に民間企業に戻ってから新しい仕事に就いたと回答していない人が多い。故に、彼ら の高い専門性をより活かせるように活躍の場を整えることや、民間企業の業務を意識し た大学院教育を開発すること等の重要性が従来よりも増していると考えられる。
  • 理工農分野の若手博士人材の博士課程での教育に関わる様々な要素について、民間企業 に就職した人の満足の水準が高等教育機関と公的研究機関に就業した人とは異なる傾向 があると考えられる。故に、民間企業に就業する人のニーズに即した大学院教育の改革 が求められるであろう。

An Analysis on the Situations such as Employments of Young Graduates from Doctoral Courses of Science, Engineering and Agriculture

Mitsunosuke TSUBAKI, Research Fellow and Kiyoka MIKI, Director
1st Policy-Oriented Research Group,
National Institute of Science and Technology Policy (NISTEP), MEXT

ABSTRACT
Considering the importance of the problems of workers who graduated from doctoral courses in the situations around the science and engineering professionals, the increasing desire of the people for the achievement of workers who graduated from doctoral courses, and the increasing number of people who have job experiences among the applicants for doctoral courses, this article investigates the effects from doctoral courses of science, engineering and agriculture to the career makings of workers who graduated from there. It investigate the minds of young workers who graduated from doctoral courses of science, engineering and agriculture who worked for private companies, public research organizations and higher educational institutes when this data was taken, with considering their age and whether they have job experiences or not, which data 1st Policy-Oriented Research Group of National Institute of Science and Technology Policy (NISTEP) in MEXT got through the research project called as Japan Doctoral Human Resource Profile (JD-Pro). The very aim of this study is to contribute the development of the Evidence Based Policy Making (EBPM) in the human resource policy through summarizing answer results on the minds of the parties who had experiences in the doctoral courses.
Some of knowledges we got through this research are summarized as follow.

There proved to be so many young workers, who had job experiences in private companies before their entrance to doctoral courses, who made NO answers that they engage in the new different jobs after they get back to their works from jobs which they did before their entrance to the doctoral courses. Therefor it may be more important to improve the environment where they can take advantage of their higher talents, and also to develop the educations in grand colleges which take the fact of jobs in private companies into considerations.

Since young workers, who work for private companies after their graduation from doctoral courses, proved to tend to feel differently about satisfactions with some effects of educations in their doctoral courses from those who work for public research organizations and higher educational institutes, it may be needed that reformations of educations in grand colleges through taking into account what the young graduates, who work for private companies, want.

概要  Executive Summary for Policy makers

概要 1. 分析の背景:博士課程における学生数の構成の変化

概要図 1:博士課程における理工農分野の社会人学生数の推移
文部科学省「学校基本調査報告書」(平成 13 年、平成 21 年、平成 29 年の各年度版)より科学技術・学術政策研究所 作成。なお、図中の「それ以外の計」は、「商船」、「家政」、「芸術」、「その他」の数値を含む。

近年、博士課程進学者の構成に変化が生じている。学校基本調査報告書による分野別、 社会人学生1 の当否別の博士課程における学生数を基にして描いた概要図 1 では、理工農分 野での社会人以外の学生の減少と社会人の割合の増加の傾向が見られる。 このことから、社会人であるかどうかという指標で見た時、博士課程の学生の多様化が 進む傾向にあると考えることができる。 本研究では、この変化に着目し、理工農分野の博士課程への進学が若手博士人材の就業に 及ぼす影響について、社会人経験の有無を考慮しながら分析する。


1 「学校基本調査」における「社会人」の定義は、「当該研究科の出願資格を有する者で、5 月 1 日現在、①職に就い ている者(給料、賃金、報酬、その他の経常的な収入を得る仕事に就いている者)、②給料、賃金、報酬その他の経常 的な収入を得る仕事から既に退職した者、③主婦・主夫」である。ここでは、理工農分野の博士課程学生の内、この 定義に基づく「社会人」について分析している。

概要 2 博士課程進学前の職業と現在の職業の状況の比較

概要図 2:進学前後の仕事の変化で「新しい仕事に就くことができた」と回答した博士人 材の進学前後における就業先経営組織別の分布


社会人経験がある 30 歳代の人材のみについて、縦軸に博士課程進学前の職業と現職とを比べて仕事が変わったかどう かを区別した上で前職の経営組織を表示し、横軸には前職の経営組織ごとの現在の就業先の経営組織の人数の構成比 (左図)とその実数(右図)を表示している。「博士人材追跡調査」2015 年度博士課程理工農分野修了者データに基づ き筆者作成。

概要図 2 は、分析対象の博士人材の内、社会人経験のある 30 歳代の理工農分野の博士 人材について、縦軸に博士課程進学前の職業と現職とを比べて仕事が変わったかどうかを 区別した上で前職の経営組織を表示し、横軸には前職の経営組織ごとの現在の就業先の経 営組織の人数の構成比(左図)とその実数(右図)を表示している。 これによると、「新しい仕事に就くことができた」と回答した人の多くは大学に就職し ているものの、前職が民間企業であった人が公的研究機関や民間企業に就職し、新しい仕 事に取り組んでいる場合も一定程度存在していることが分かる。また、博士課程に進学す る前に民間企業で働いていた人の多くは、理工農分野の博士課程修了後も民間企業で進学 以前と同じ仕事をしている可能性が高いことが読み取れる。

概要 3. 博士課程の現職への影響

概要図 3:現職の違いに基づく博士課程の現在の仕事への影響
社会人経験がある 30 歳代の理工農分野の博士人材に、博士課程の経験を経て仕事に対してどのような影響があったの かを問い、現職の経営組織ごとの集団の人数に占める各項目の「影響があった」との回答の数の割合を表示している。 「博士人材追跡調査」2015 年度博士課程理工農分野修了者データに基づき筆者作成。

概要図 3 は、社会人経験がある 30 歳代の理工農分野の博士人材に、博士課程の経験を 経て仕事に対してどのような影響があったのかを問い、「影響があった」との回答数の割合 を現職の経営組織ごとに表示している。 修了後、民間企業に在職している理工農分野の博士人材は、「仕事の幅が広がった」と の回答が多いが、「新しい仕事に就くことができた」、「昇進昇級につながった、またはつな がることが期待される」、「国際的な活動が増えた」の項目では「30 歳代社会人経験あり」 の集団全体の割合を下回っている。 このことから、「30 歳代社会人経験あり」の集団全体の割合を下回った「新しい仕事に 就くことができた」、「昇進昇級につながった、またはつながることが期待される」、「国際 的な活動が増えた」の各項目で表される博士課程の教育の効果があったと感じている博士 人材の割合については、民間企業の値が他の経営組織と比べて低いと考えることができる。

概要 4. 考察

本稿の理工農分野の若手博士人材のデータの分析から得た考察結果と知見をまとめる と次のとおりである。

  • 博士課程進学以前に民間企業に就業していた理工農分野の若手博士人材の中には、 修了後に民間企業に戻ってから新しい仕事に就いたと回答していない人が多い。故 に、彼らの高い専門性をより活かせるように活躍の場を整えることや、民間企業の 業務を意識した大学院教育を開発すること等の重要性が従来よりも増していると考 えられる。
  • 理工農分野の若手博士人材の博士課程での教育に関わる様々な要素について、民間 企業に就職した人の満足の水準が高等教育機関と公的研究機関に就業した人とは異 なる傾向があると考えられる。故に、民間企業に就業する人のニーズに即した大学 院教育の改革が求められるであろう。
教育
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