安定で強い反芳香族性を示す含窒素多環式化合物の合成に成功!

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2019-10-16 愛媛大学

【概要】

 愛媛大学大学院理工学研究科の沖 光脩 博士後期課程学生、髙瀬雅祥 准教授、森 重樹 特任講師、宇野英満 教授らのグループは、反芳香族性を示す拡張アザコロネンの合成に初めて成功しました。

 化学における最も重要な基本概念の一つである芳香族性は、環状共役化合物の性質に大きな影響をもたらす事が知られています。一般に、環内に 4n+2 個の π 電子を持つ化合物は芳香族性を示す事から安定な物質となり、プラスチックから医薬品、色素や有機エレクトロニクス材料など、我々の身の回りで多く用いられています。一方、環内に 4n 個の π 電子を持つ反芳香族化合物は、芳香族化合物とは対照的に安定性に欠けるため、化合物の合成やその基本的な性質の解明など、これまであまり研究が進んでいませんでした。

 今回、構成ユニットとしてピロールを用いることで、安定で強い反芳香族性を示す含窒素多環式化合物の合成に成功しました(図 1)。さらにその合成は、市販試薬からわずか3ステップで達成されました。今回の研究により、大量合成が可能で効率的な安定反芳香族化合物を合成する手法が見出されたことから、報告例が少ない反芳香族化合物の基本的な性質が明らかにされるだけでなく、新しい有機エレクトロニクス材料などへの応用が期待されます。

 この研究成果は、2019 年 10 月 2 日にアメリカ化学会で発行された「Journal of the American Chemical Society」誌電子版に掲載されました。

(図 1:分子内環化反応を用いた反芳香族性拡張アザコロネンの合成と酸化還元刺激による芳香族性のスイッチング)

(図 2:これまでのピロール縮環アザコロネン (HPHAC)とその酸化種の芳香族性)

【詳細】

 ベンゼンやナフタレンに代表されるように、平面の環状共役化合物で環内に 4n+2 個の π 電子を持つ物質は芳香族化合物として知られています。一般に安定な物質であることから、プラスチックから医薬品、色素や有機エレクトロニクス材料まで、我々の身の回りで多く用いられています。一方、4n 個の π 電子を持つ反芳香族化合物は、安定性に欠けるため、容易に分解するかその構造を変化させて反芳香族性を失った化合物として存在することが知られていました。最近の研究により、反芳香族化合物が近赤外領域の光吸収や高い電荷輸送特性、酸化還元特性を示すことなどが予想されてきましたが、安定で強い反芳香族性を示す化合物の合成や効率的な合成手法の達成など、研究上の進展が望まれていました。

 これまでに本研究グループでは、ピロールを用いた含窒素多環式化合物の一つである、ピロール縮環アザコロネン類(HPHAC)の合成とその基本的な性質の解明に関する研究を行ってきました。その中で HPHAC は安定な酸化特性を示し、特に2電子酸化されたジカチオン種が、分子全体で強い芳香族性を示す事などが明らかにされています(図 2)。しかし、これまでに反芳香族性を示すピロール縮環アザコロネンの合成には至っていませんでした。今回の研究では、外周部に配置したピロールを部分的に縮環させた化合物を前駆体として、ヴィルスマイヤー型反応による分子内縮合反応を行うことで、市販試薬から 3 ステップで反芳香族を示す拡張アザコロネンの合成を達成しました。得られた化合物の性質を詳細に調べた結果、この化合物は空気下においても安定で、強い反芳香族性を示す事が分かりました。さらに、この化合物を2電子酸化した酸化種も単離され、芳香族化合物となる事が明らかにされました。

 近年、多環式化合物を構造の明確なグラフェンと見立てた合成化学的なアプローチが種々検討されています。一方、分子全体で芳香族性や反芳香族性を示す化合物は、最近になって研究の進展が見られるものの、環状共役化合物であるアヌレンやポルフィリン類に関する研究例がほとんどでした。本研究で得られた化合物は、ピロールを構成ユニットに用いた初めての反芳香族性を示す含窒素多環式化合物であり、その合成手法の簡便さから、基礎的な性質の新たな発見に貢献するだけでなく、有機エレクトロニクス材料などへの応用が期待されます。

【論文情報】

掲載誌:Journal of the American Chemical Society

題名:Synthesis and Isolation of Antiaromatic Expanded Azacoronene via Intramolecular Vilsmeier-Type Reaction[分子内ヴィルスマイヤー型反応による反芳香族を示す拡張アザコロネンの合成と単離]

著者:Kosuke Oki, Masayoshi Takase, Shigeki Mori, Hidemitsu Uno

DOI:10.1021/jacs9b09260

URL:https://pubs.acs.org/doi/10.1021/jacs.9b09260

【研究サポート】

 この研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業(基盤研究(C))(平成 28 年-30 年度)の支援のもとで行われたものです。

【本件に関する問い合わせ先】

愛媛大学大学院理工学研究科 准教授 髙瀬 雅祥、教授 宇野 英満

有機化学・薬学
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