固有鳥類3種の保全にはマングースのさらなる防除が不可欠
2021-05-25 森林研究・整備機構 森林総合研究所
ポイント
- やんばるは世界遺産⼀覧表への記載が適当との勧告がなされた「奄美⼤島、徳之島、沖縄島北部及び⻄表島」の⼀部であり、固有種の保全が極めて重要です。
- 固有種であるヤンバルクイナ、ノグチゲラ、ホントウアカヒゲは、マングースが少なく、広葉樹林面積が広い地域に多いことがわかりました。
- 飛べないヤンバルクイナへのマングースによる悪影響は想定されていましたが、飛べる他の2種にも大きく悪影響を及ぼしていました。
- マングースの防除事業の成果で、これら3種の分布は回復傾向にありますが確実な保全には、防除区域の拡大が必要です。
概要
国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所らの研究グループは、沖縄島北部の森林地帯(やんばる)において、この島にしか⽣息しない固有⿃類3種の保全のためには、マングースの防除が極めて重要であることを明らかにしました。
ヤンバルクイナ、ノグチゲラ、ホントウアカヒゲは、やんばるのみに⽣息する沖縄に固有の⿃類です。やんばるは世界遺産⼀覧表への記載が適当との勧告がなされた「奄美⼤島、徳之島、沖縄島北部及び⻄表島」の⼀部であり、固有種の保全が極めて重要です。そこで、これら3種の固有⿃類の分布を決める要因を解析しました。その結果、3種ともに広葉樹林⾯積が広く、マングースが少ない地域に多いことがわかりました。また、マングースの影響の⽅が広葉樹林⾯積の影響よりも⼤きいこともわかりました。⾶べないヤンバルクイナへのマングースの悪影響は想定されていましたが、⾶べる他の2種にもマングースが⼤きく悪影響を及ぼしていたことは意外な発⾒でした。近年、やんばるでは成熟した森林の多くが国⽴公園の特別保護地区等に指定され、また⼤規模な伐採は⾏われなくなっています。しかし、これら3種の⿃の確実な保全のためにはそれだけでは不⼗分であり、現在⾏われているマングース防除事業の継続とともに防除区域の拡⼤が必要です。
本研究成果は、2021年4月12日にBiological Invasions誌でオンライン公開されました。
背景
ヤンバルクイナ、ノグチゲラ、ホントウアカヒゲは、やんばるに生息する沖縄に固有の鳥類です。やんばるは世界遺産⼀覧表への記載が適当との勧告がなされた「奄美大島・徳之島・沖縄島北部および西表島」の一部であり、固有種の保全が極めて重要です。そのため、肉食の外来種マングースがこれらの鳥類に与える影響と保全に有効な森林の状況を明らかにする必要があります。
内容
沖縄島北部のやんばるにおいて、この島にしか⽣息しない固有種であるヤンバルクイナ、ノグチゲラ、ホントウアカヒゲ(写真)の繁殖期における分布を2007年から2016年まで3年ごとに4回調査し、分布域の変化を明らかにしました。また、これら3種の⿃の数とマングースの数や周辺の広葉樹林⾯積との関係を統計解析しました。その結果、3種ともにマングースが少なく、広葉樹林⾯積が広い地域に多いことがわかりました。また、マングースの影響の⽅が広葉樹林⾯積の影響よりも⼤きいこともわかりました。地上に営巣し、ほとんど⾶ぶことができないヤンバルクイナへのマングースの影響は想定されていましたが、⾶べる他の2種に対しても地上性で⽊登りの下⼿なマングースが⼤きく悪影響を及ぼしていたことは意外な発⾒でした。ノグチゲラとホントウアカヒゲは⾶ぶことができますが、地上で餌を⾷べる時などに、⿃と同じく昼⾏性であるマングースに襲われていると考えられます。実際に現地ではノグチゲラの⽻⽑がマングースの消化管から⾒つかった例も報告されています。マングースの防除が⾏われてきたエリアではこれら3種の分布は⾯的に回復してきており(図)、調査期間内に⾏われていた環境省と沖縄県によるマングース防除事業は3種の保全に⼤きな効果をあげたと考えられます。
写真:左からヤンバルクイナ、ノグチゲラ、ホントウアカヒゲ
図:やんばるにおけるヤンバルクイナ、ノグチゲラ、ホントウアカヒゲの2007年と2016年の分布。色の濃淡で表した数値は、約1km2のメッシュに1点ずつ設定された調査地点における10分間で確認された個体数。マングースは2007年にはやんばるの北部まで侵入していたが、防除の結果、2016年には北部でほとんど確認されなくなり、中部でも減少した。一方、防除の手薄な南部は今もマングースが多数生息しているため、そこではこれら3種の固有鳥類はほとんど確認できない。
Biological Invasions (Online First) https://doi.org/10.1007/s10530-021-02503-wに掲載の図の一部から作成。
今後の展開
近年、やんばるでは成熟した森林の多くが国⽴公園の特別保護地区等に指定され、また⼤規模な伐採は⾏われなくなっています。しかし、これら3種の⿃の保全のためにはそれだけでは不⼗分で、同時にマングースの防除を⾏うことが必要です。これらの⿃は、かつてはもっと広い範囲に分布していました。今後、これら3種の⿃の分布をさらに拡⼤し、確実に保全していくためには、現在⾏われているマングースの防除事業を継続するとともに、防除区域の拡⼤が必要です。
論文
タイトル:Eradication of the mongoose is crucial for the conservation of three endemic bird species in Yambaru, Okinawa Island, Japan(沖縄島やんばるの固有鳥類3種の保全にはマングースの防除が不可欠である)
著者:八木橋勉(森林総合研究所)、関伸一(森林総合研究所関西支所)、中谷友樹(東北大学大学院環境科学研究科)、中田勝士(環境省やんばる自然保護官事務所)、小高信彦(森林総合研究所九州支所)
掲載誌:Biological Invasions、Online First(2021年4月12日)掲載
https://doi.org/10.1007/s10530-021-02503-w
研究費:環境研究総合推進費「JPMEERF20184004, JPMEERF20154003」、文部科学省科学研究費補助金「JP19780128」など
共同研究機関
東北大学大学院環境科学研究科、環境省やんばる自然保護官事務所
お問い合わせ先
研究担当者:
森林総合研究所 森林植生研究領域 チーム長(森林動態担当)八木橋 勉
広報担当者:
森林総合研究所 企画部広報普及科広報係