ネフロン前駆細胞の品質・製造工程のモニタリング法開発に関する共同研究
2021-11-15 京都大学iPS細胞研究所
このたび、リジェネフロ株式会社(本社:京都市左京区、代表取締役:石切山俊博、以下「リジェネフロ」)、国立大学法人京都大学iPS細胞研究所(本部:京都市左京区、所長:山中伸弥、以下「CiRA」(サイラ))、公益財団法人京都大学iPS細胞研究財団(本部:京都市左京区、理事長:山中伸弥、以下「CiRA_F」(サイラ・エフ)」)、日機装株式会社(本社:東京都渋谷区、代表取締役社長:甲斐敏彦、以下「日機装」)、株式会社島津製作所(本社:京都市中京区、代表取締役社長:上田輝久、以下「島津製作所」)は、ネフロン前駆細胞注1)の品質及び製造工程のモニタリング方法の開発に関する共同研究契約を締結いたしました。
本共同研究契約は、ヒトiPS細胞から作製されるネフロン前駆細胞を用いた腎疾患に対する細胞療法の開発に向けて、質量分析によるタンパク質、代謝産物などの解析を実施し、HLAホモ注2)iPS細胞株由来ネフロン前駆細胞が分泌する治療効果因子の同定を行います。また、ネフロン前駆細胞の分化誘導および拡大培養において混入する目的外細胞や不純物を解析し、分化誘導法と拡大培養法の改良、及び品質と製造工程のモニタリング法の開発を進めてまいります。
リジェネフロは、CiRA増殖分化機構研究部門の長船健二教授の研究成果を基に、2019年9月に設立されたベンチャー企業です。長船教授は胎生期の腎前駆細胞の一種であるネフロン前駆細胞の存在を世界で初めて発見したのを皮切りに、iPS細胞からネフロン前駆細胞を高効率に作製する技術の確立などに成功してきました。
社会の高齢化とともに慢性腎臓病(CKD)に苦しむ患者さんは右肩上がりで増加しており、CKDの患者数は日本の成人人口の13%、約1,300万人に達しています。CKDの治療に有効な医薬品や治療技術は、深刻なドナー不足の問題を抱える腎移植を除いて、現時点ではほとんど存在せず、対症療法を施すしかありません。CKDが悪化すると人工透析が必要になりますが、人工透析の患者数も年々増加しており、その医療費は年間1兆5,000億円を超えています。CKDの症状を改善し人工透析患者を減らすための技術の開発は、社会的急務となっています。
長船教授が発明したiPS細胞由来ネフロン前駆細胞は、動物実験において腎障害を改善する効果を示しています。リジェネフロは今後、iPS細胞由来ネフロン前駆細胞を有効成分とする細胞医薬の実用化に取り組み、CKDを適応症とする承認取得を目指します。
CiRAは、本共同研究において長船教授率いる長船研究室が治療効果因子の同定に関する研究の主導的役割を果たします。
CiRA_Fは、本共同研究においてネフロン前駆細胞を分化誘導するために用いるHLAホモiPS細胞株のマスターセルバンクを提供いたします。
日機装は、本共同研究において流体制御技術や成分計測技術など日機装が既存事業で培った技術を用いて開発中のネフロン前駆細胞の拡大培養システムを提供いたします。
島津製作所は、液体クロマトグラフ質量分析装置(LC-MS)などの分析計測機器・技術を提供することで、タンパク質や代謝物の解析で中心的役割を担います。今後も細胞研究・細胞関連産業に携わる研究機関、企業を支援するため、細胞培養ソリューションの研究開発においてオープンイノベーションを推進してまいります。
リジェネフロは、このたびのCiRA、CiRA_F、日機装、島津製作所との共同研究契約の締結により、現在開発を急いでいる細胞療法の製造プロセスを品質及び製造工程モニタリングにおいてより確実なものとすることを目指します。腎疾患に苦しむ患者さんの生活の質(QOL)を改善し社会に貢献するという使命のもと、リジェネフロは事業を推進してまいります。
注1)ネフロン前駆細胞
腎臓において尿を産生するネフロン(糸球体と尿細管)という組織を作り出す細胞。 尿の排出路である尿管の元になる細胞や、腎臓組織の隙間を埋める間質の前駆細胞は別に存在する。
注2)HLAホモ接合体
HLAは、ヒトの主要組織適合遺伝子複合体であるヒト白血球型抗原(Human Leukocyte Antigen)の略で、細胞の自他を区別する型。HLAは、白血球だけでなく、ほぼ全ての細胞に分布していて、ヒトの免疫に関わる重要な分子として働いています。自身の持っている型と異なるHLA型の人から細胞や臓器の移植を受けると、体が「異物」と認識し、免疫拒絶反応が起こります。そのため、細胞や臓器を移植する際にはHLA型をできるだけ合わせることで、免疫拒絶反応を弱めることが重要です。
父親と母親から同じHLA型を受け継いだ場合、「HLAホモ接合体」と言います。