2022-09-22 国立循環器病研究センター
国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)の脳血管内科 岡田敬史医師(現鹿児島県立大島病院 脳神経内科)、脳神経内科 吉本武史医師,情報利用促進部 和田晋一医師、脳血管内科 古賀政利部長らの研究チームは、遺伝子組み換え組織型プラスミノゲン・アクティベータ(rt-PA)静注療法の施行前24時間以内に直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)を内服していた患者と抗凝固薬を内服していなかった患者と比較して、rt-PA静注療法後の出血性合併症の発生率が同等である事を明らかにしました。脳梗塞発症3か月後の日常生活自立度も同等でした。本研究結果は、現地時間2022年9月21日付でJournal of the American Heart Associationに掲載されました。
■背景
欧米ではDOAC内服下に脳梗塞を発症した患者に対するrt-PA静注療法は推奨されていません。本邦においては、DOACの最終内服から4時間以上経過している場合に限って、rt-PA静注療法の適応を有しています。この適応は、DOACの血中濃度が内服後4時間程度でピークに達すると報告されていることによりますが、実臨床におけるDOAC内服下のrt-PA静注療法の安全性については十分検討されていません。そこで、脳梗塞発症前にDOACを内服していた患者における、rt-PA静注療法の安全性を明らかにすることを目的に、本研究を実施しました。
■研究手法と成果
登録期間は2011年3月から2021年1月で、対象は当施設で脳梗塞に対して静注血栓溶解療法を施行した患者とし、脳梗塞発症前24時間以内にDOACを内服した群と抗凝固薬を内服していなかった群の2群間で比較検討しました。
各群における、脳梗塞発症36時間以内の症候性頭蓋内出血を主要評価項目とし、その他の安全性評価項目として全頭蓋内出血、大出血イベント、発症3か月以内の死亡について評価しました。また、有効性評価項目として転帰良好(発症3か月後修正ランキンスケールスコア 0-2)についても評価しました。 なお、DOAC内服中の患者に関しては, 本邦の適正治療指針に沿って, 既存の凝固マーカーであるプロトロンビン時間―国際標準化比や活性化部分トロンボプラスチン時間の基準を満たした症例に対して静注血栓溶解療法を施行しました。
研究期間中に静注血栓溶解療法を施行した915例(女性385人、年齢中央値76歳)のうち、40例が発症前24時間以内にDOACを服用しており、753例が抗凝固薬を服用していませんでした。症候性頭蓋内出血の発生率はDOAC群で2.5%、抗凝固薬非内服群で2.4%であり、2群間で発生率は同等でした(調整オッズ比0.95, 95%信頼区間 0.17-5.28)。また、全頭蓋内出血(0.61, 0.24-1.59)、大出血イベント(2.70, 0.45-16.20)、発症3か月以内の死亡(0.56, 0.10-3.14)も2群間で同等でした。また転帰良好についても2群間で有意な差はありませんでした(1.33, 0.62-2.82)(図)。
■今後の展望と課題
本研究の結果より、DOACの最終内服から24時間以内の患者に対して、静注血栓溶解療法を安全に施行できる可能性が示唆されました。なお、欧米では0.9mg/kgのアルテプラーゼを用いてrt-PA静注療法を施行するのに対し、本邦では0.6mg/kgと低用量で投与を行っています。今回、0.6mg/kgでの安全性を検討しましたが、0.9mg/kgでも安全に投与できるかどうかはさらなる検討を要します。また、プロトロンビン時間-国際標準化比や活性化部分トロンボプラスチン時間といった既存の凝固マーカーを用いて静注血栓溶解療法を行っていますが、DOACの血中濃度はこれら既存の凝固マーカーに相関しないとの報告もあり、今後はDOAC血中濃度を用いて安全性の評価も必要です。
■発表論文情報
著者:岡田敬史, 吉本武史, 和田晋一, 吉村壮平, 千葉哲矢, 江頭柊平, 木村俊介, 塩澤真之, 井上学, 猪原匡史, 豊田一則,
髙嶋博, 古賀政利
題名:Intravenous Thrombolysis With Alteplase at 0.6 mg/kg in Patients With Ischemic Stroke Taking Direct Oral Anticoagulants
掲載誌: Journal of the American Heart Association
図
お問い合わせ
国立循環器病研究センター企画経営部広報企画室