過敏性腸症候群有症状者を対象とした効果的なeHealthシステムの開発に成功

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2024-01-15 早稲田大学

発表のポイント

  • 過敏性腸症候群(IBS)有症状者を対象としたeHealthシステムを新規構築した。
  • eHealthシステムを利用したセルフマネジメントプログラムにより、IBS症状の重症度を減少させることに成功。
  • 今回開発したeHealthプログラムは、IBS以外の慢性疾患のセルフマネジメントのために応用できると期待できる。
概要

早稲田大学人間科学学術院の田山 淳(たやま じゅん)教授、埼玉県立大学の濱口 豊太(はまぐち とよひろ)教授らの研究グループは、過敏性腸症候群(IBS)有症状者を対象としたeHealthシステムを用いた8週間のセルフマネジメントプログラムにより、IBS関連マーカーが有意に軽減することを発見しました。主要な結果として、「IBS重症度スコア」の顕著な改善が見られるとともに、門レベルの腸内細菌であるシアノバクテリア(cyanobacteria)の減少が認められました。

過敏性腸症候群有症状者を対象とした効果的なeHealthシステムの開発に成功

図1:A eHealth実施群、B eHealth未実施群。IBS-SIはIBS症状の重症度を500満点で評価する質問紙。点数が低いほど症状が軽いため、eHealth実施群は介入後に改善を示している。

本研究成果は、『Scientific Reports』(論文名:Efficacy of an eHealth self-management program in reducing irritable bowel syndrome symptom severity: A randomized controlled trial)にて、2024年1月3日(水)に掲載されました。

(1)これまでの研究で分かっていたこと

IBSの重症度、Quality of life(QOL)を正常化するためのセルフマネジメント法として、自身でIBS症状をコントロールする方法が記載されているセルフヘルプガイドブックを用いた方法が有効であることが2件のランダム化比較試験によりこれまで明らかにされていました。しかしながら、ユーザーにアクセシビリティの良い運用が十分にはなされておらず、PC、タブレット、スマートフォン等を用いたセルフマネジメントが行えていない状況でした。

(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

最初に、既にランダム化比較試験でIBS症状の軽減に寄与することが明らかになっているIBSのセルフヘルプガイドブックを日本語に翻訳し、章立て、内容等をeHealthコンテンツ用に加除修正し、eHealthシステムを構築しました。研究では、このeHealthベースのセルフマネジメントプログラムが、IBSの重症度を軽減できるという仮説検証を目的としました。eHealth群(n=21)と、eHealth未実施群(n=19)を比較する無盲検単純無作為化比較試験を行い、eHealth群は、8週間、コンピュータとモバイルデバイスでセルフマネジメントコンテンツに無制限にアクセスすることができました。主要アウトカムはIBS重症度評価表(IBS-SI)とし、副次的アウトカムはQOL、腸内細菌、脳波とし、ベースライン時と8週目に各測定を実施しました。結果としてeHealthによって主要アウトカムであるIBSの重症度が軽減することが明らかになりました。さらに、副次的アウトカムに関しては、脳波は変化がなかったものの、QOLの上昇、門レベルの腸内細菌であるCyanobacteriaの減少が認められました。したがって、eHealthベースのセルフマネジメントプログラムにより、IBS症状の重症度を減少させることに成功しました。

(3)研究の波及効果や社会的影響

IBSは慢性疾患ですが、慢性疾患の症状改善には長い期間を要することが知られています。本研究では慢性疾患のうちIBSのみをターゲットとして、彼ら自身が症状と長期間上手に付き合っていくためのセルフマネジメント法としてのeHealthプログラムの効果を明らかにしました。IBS症状を自助努力によってコントロールできることが本研究によって示されたことから、IBS以外の慢性疾患のセルフマネジメントに対しても、eHealthプログラムが応用できる可能性があります。

(4)今後の課題

本研究で用いたeHealthプログラムはIBS症状の重症度、QOLに加えて腸内細菌についても正常化しました。これらの正常化は、食事、運動、ストレス等の改善によってもたらされた可能性がありますが、具体的に何を媒介にした正常化なのかは本研究では明らかにできません。今後は、eHealthプログラムが、主に何を媒介してIBS症状を改善しているのかの検討が必要です。

(5)研究者のコメント

IBSの症状の持続や増悪の主因として、食の関与が大きいことが各国の消化器学会等で発表されています。今回の研究では、IBSの重症度と共に脳腸の両マーカーも用いてeHealthプログラムの介入効果を検討しました。今後もどのような食物摂取が消化器症状を正常化するかについての脳腸相関研究が必要不可欠であり、そのエビデンスを取り入れた無作為化比較試験も重要になってくるであろうと考えています。

(6)論文情報

雑誌名:Scientific Reports
論文名:Efficacy of an eHealth self-management program in reducing irritable bowel syndrome symptom severity: A randomized controlled trial
執筆者名(所属機関名):田山 淳1*, 濱口 豊太2*, 小泉 浩平2, 山村 凌大3、大久保 亮4、河原 純一郎5、井ノ上 憲司6、武岡 敦之7、福土 審8
1. 早稲田大学 人間科学学術院、2. 埼玉県立大学 保健医療福祉学部、3. 北海道大学 遺伝子病制御研究所、4. 独立行政法人国立病院機構 帯広病院、5. 北海道大学 大学院文学研究院、6. 大阪大学 スチューデント・ライフサイクルサポートセンター、7. 長崎大学 保健センター、8. 東北大学大学院医学系研究科、*共同筆頭著者
掲載日時:2024年1月3日(水)午前10時(イギリス時間)、午後7時(日本時間)
掲載URL:https://doi.org/10.1038/s41598-023-50293-z
DOI:10.1038/s41598-023-50293-z

(7)研究助成

研究費名:国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
研究課題名:IBS症状のセルフケアためのeHealthシステム構築及びその効果についての研究
研究代表者名(所属機関名):田山 淳(早稲田大学)

医療・健康
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