現生ワニに近縁なパラリゲーター科ワニ化石を岩手県久慈市にて発見~最新の 3D 分析で明らかになった食べ物~

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2024-07-11 早稲田大学

現生ワニに近縁なパラリゲーター科ワニ化石を岩手県久慈市にて発見~最新の 3D 分析で明らかになった食べ物~
久慈の化石ワニの復元画(小田隆による)

久慈琥珀博物館(岩手県久慈市、館長:新田 久男)と早稲田大学国際学術院の平山 廉(ひらやま れん)教授らが共同で発掘調査を実施している久慈市小久慈より現生ワニに近縁なパラリゲーター科のワニ化石が見つかり、さらに最新の三次元マイクロウェア分析手法により具体的な餌も示唆されたことについて、2024年7月11日(木)、早稲田大学(東京都新宿区 総長:田中 愛治)にて記者会見を行いました。

久慈琥珀博物館の琥珀採掘体験場および隣接する脊椎動物化石凝集層(ボーンベッド)からは今から約9000万年前の恐竜の歯化石や、カメ類やワニ類の骨格など30種類前後の脊椎動物化石が2024年6月現在で3000点以上も発見されており、日本の恐竜時代(中生代白亜紀)の生物相を解明するための重要な地域となっています。

これまで、久慈市の発掘現場からは、200点を超えるワニ類の化石が発見されています。恐竜が生息していた中生代には多様なワニ類が生息しており、特に久慈の化石の時代である白亜紀には現代型のワニ(正鰐類)が出現したことが知られています。久慈より古い前期白亜紀の福井県の地層からは、より基盤的なタイプのワニ(ゴニオフォリス科)が発見されていますが、背骨や装甲の化石の分析から久慈のワニは極めて現代型ワニに近縁であることがわかりました。これは日本のワニ相が白亜紀の間により現代的なものへと移行したことを示す古生物学的な証拠です。

また、背骨の大きさから久慈に生息していたワニの体長はおよそ3mだとわかりました。さらに餌を食べた時に歯に残された微小な傷(マイクロウェア)を、ワニ化石としては世界で初めて三次元的に分析しました。ザリガニ、ネズミ、ウズラ、イワシ等のエサを与えたアメリカアリゲーターや、野生の様々な種類のワニの歯と比較したことで、久慈のワニは魚だけでなく、より硬い骨格を持つ生物も食べていたことがわかりました。3mという体長を考慮すると、魚よりも硬い動物、例えばカメや恐竜などを食べていた可能性があります。

化石が発見された場所と地層

ワニ類化石が発見された場所は、岩手県久慈市小久慈町にある久慈琥珀博物館が運営する琥珀採掘体験場と当博物館が早稲田大学と共同で発掘調査を行っている隣接地の2か所です(次ページに地図と現場写真)。この地域に分布する久慈層群玉川層(白亜紀後期;約9000万年前.火山灰の放射性年代測定による)では、2012年3月から平山廉教授による発掘調査が実施されてきました。これまでに今回の研究対象であるワニ類の他にも、竜脚類(大型植物食恐竜)、獣脚類(肉食恐竜)、カメ類、コリストデラ類、サメ類など30種類、3000点を超える脊椎動物化石が発見されています。

また、久慈琥珀博物館が運営する琥珀採掘体験場からは、新種として報告されたカメ類(アドクス・コハク)のほぼ完全な甲羅(2008年)をはじめとして、小型植物食恐竜(鳥盤類)の腰骨(2008年)、翼竜の翼の一部(中手骨:2010年)、肉食恐竜ティラノサウルス類の歯化石(2018年)、古代ザメ・ヒボダスの背棘(2019年)などの貴重な化石が発見されています。このように,久慈琥珀博物館の周辺は、恐竜時代の琥珀と化石が数多く共産する世界でも稀な地域です。

久慈層群玉川層から発見された主な脊椎動物化石

  • 2010年7月 琥珀採掘体験場より翼竜類の化石を発見(2011年7月に記者発表)
  • 2012年3月 早稲田大学による発掘調査地より大型植物食恐竜(竜脚類)の歯化石を発見
  • 2015年3月 調査地より白亜紀後期ではアジア初となる「コリストデラ類」(絶滅した水生爬虫類)を学会で発表、同年7月久慈市で記者発表
  • 2016年3月 調査地より平山教授のゼミ生が岩手県初の肉食恐竜の歯化石を発見(同年3月に記者発表)
  • 2018年6月 琥珀採掘体験場より高校生がティラノサウルス類の歯化石を発見(2019年4月に記者発表)
  • 2019年5月 日本国内の後期白亜紀では初の古代ザメ ヒボダス類の棘化石を琥珀採掘体験場から一般の体験者が発見(2020年7月に記者発表)
  • 2021年4月 カメ類の新種(アドクス・コハク)を記者発表
  • 2022年7月 竜脚類の歯に残された微細な傷から植物食であることを記者発表
  • 2023年3月 カメ類リンドホルメミス科の下顎を小学生が発見(同年7月に記者発表)


2019年に発見された古代ザメ ヒボダス類の棘化石と復元画(小田隆による)


久慈層群玉川層より発見された新種のカメ類:アドクス・コハクの模式標本(KAM01)

久慈産ワニ類の分類と微小磨耗痕の研究成果について

久慈産ワニ類の分類について

久慈のワニが産出する白亜紀は、現存するワニ(クロコダイル科、アリゲーター科、ガビアル科)の祖先が出現した時代です。現在のワニを含む分類群は正鰐類と呼ばれ、いくつかの特徴が知られています。背骨の前(頭)側の関節が凹型になり、後ろ(尾)側の関節が凸型になること。また背中の関節した装甲(皮骨)が正鰐類では左右四列以上に増えます。

久慈のワニでは化石の形態から背中の装甲は四列以上あったと考えられます。これは久慈のワニが正鰐類に近縁だったことを示唆しています。しかし久慈のワニの背骨は前後の関節が共に凹、あるいは後の関節は平らという原始的な特徴も示しています(図1)。

さらに久慈のワニの背中の装甲を詳しく見てみると後ろ(尾)側でだけ中央の稜が発達します(図2)。これは主に白亜紀に生息していたパラリゲーター科のワニ類の特徴です。パラリゲーター科は原始的な正鰐類、あるいは正鰐類に最も近縁な分類群と考えられており、久慈のワニは現在のワニの共通祖先に近縁なワニだったと言えます。

日本の中生代からはワニ化石の報告は数例ありますが、科レベルまでの詳細な分類がわかっているものは福井県の前期白亜紀のゴニオフォリス科だけです。久慈のワニは科が特定できた日本で二番目の中生代ワニ類ということになります。またゴニオフォリス科は正鰐類より原始的なので、原始的なワニから現在のワニに近縁な仲間への移行が白亜紀の日本で起きていたことが示唆されます。

久慈産ワニ類の体サイズ

久慈では保存の良いワニの背骨(OSD739)が見つかっています。OSD739 は形態から胴体の後ろの方の背骨だとわかります。また背骨の前後の関節の間の長さが39mmです。現在の様々な種のワニの背骨の長さと全長や頭胴長の長さの関係式に基づくと、この背骨の主のワニの全長はおよそ3m、頭胴長は1.5~1.6mであったと推定されます。また大きな背中の装甲も見つかっており、こちらは全長4mはある個体の化石だと考えられます。

久慈産ワニ類の食性

動物が食べ物を食べると、歯と食物が擦れる事によって、微小な傷(マイクロウェア)が形成されます。本研究ではレーザー顕微鏡(レーザー光によって対象物の立体的な位置をデジタルデータに変換して可視化する顕微鏡)によってスキャンされた三次元情報を使用して、世界で初めてワニ化石から食性復元を行いました。

30本以上の久慈のワニの歯化石の表面をレーザー顕微鏡でスキャンし、マイクロウェアを現生のワニと比較しました(図3)。化石の歯の先端部の方が基部よりもマイクロウェアが多く、死後ではなくワニが摂食したときについた傷であることが示唆されました。ペレット、イワシ、ウズラ、ラット、ザリガニ等を餌として与えたワニ(アメリカアリゲーター)の歯と比べると、最もキズが深くなるザリガニを与えた個体よりも久慈のワニの傷の方が深いため、かなり硬いものを食べていたことが示唆されました。また、現生の様々な種のワニと比べると、魚食に特化したガビアルなどよりも久慈のワニの歯の傷の方が深く、魚だけを食べていた可能性は低いことがわかりました。3mという体サイズや先端が丸くなった歯が多いことを考えると、久慈のワニは、陸上に暮らす恐竜、あるいは久慈で多産するカメのような、魚よりも硬い、頑丈な骨のある四肢動物を食べていた可能性が高いと考えられます。

図3.久慈のワニと給餌実験をした現生ワニの歯のマイクロウェアの比較。左から、久慈のワニ化石、イワシ、ウズラ、ネズミ、ザリガニを与えたワニのマイクロウェア。久慈のワニの歯には多くの傷がついていることがわかる。

まとめ

岩手県久慈市の久慈層群玉川層(中生代白亜紀:約9000万年前)から発見されたワニ類の化石を詳細に分析しました。背骨や背中の装甲の特徴から、久慈産ワニ類の分類は、現生ワニの共通祖先に近縁なパラリゲーター科のワニの仲間であると考えられます。背骨の大きさから全長3m前後であったと推定されました。歯に残された微小な傷から魚以外にも硬い骨のある四足動物も食べていた事が示唆されました。久慈層群には、多様な脊椎動物の化石が保存されており、今後の更なる研究成果が期待されます。

生物工学一般
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