2024-12-09 九州大学
農学研究院 安尾しのぶ 教授
ポイント
- 不規則な明暗環境での体内時計の乱れやすさが性別によりどのように異なるか不明だった
- メスの体内時計はオスよりも乱れやすく、体内時計が調節する体重および糖耐性への影響にも顕著な性差があることを、雌雄のマウスを用いた実験により発見
- 生活が不規則になりがちなシフトワーカーや現代人の健康管理に向けて、性差を考慮した適切な対処法の開発に期待
概要
ヒトの体には、約24時間周期で刻まれる体内時計が備わっており、睡眠・覚醒状態や生理活動などの日内変動が制御されています。不規則な明暗環境により体内時計が乱れると、肥満や糖尿病などの疾病リスクが高まることが知られています。しかし、ヒトでは食生活や運動習慣、遺伝的要因などが多様であるため、明暗環境が体内時計に及ぼす影響を明らかにするためには、飼育環境や遺伝的背景を統一した動物実験が必要です。従来、体内時計の乱れやすさや、肥満・糖尿病の原因となる代謝異常との関連を探る動物実験では、主にオスの動物のみが用いられており、メスの動物を用いた研究はほとんどありませんでした。このため、性別による体内時計の乱れやすさの違いとその原因は不明でした。
九州大学大学院農学研究院の安尾しのぶ教授、池上啓介准教授らの研究グループは、頻繁に明暗周期をずらして長期的にマウスの時差ぼけ状態を誘導する「慢性的時差ぼけ条件」において、メスの体内時計がオスよりも乱れやすいことを発見しました。また、オスでは当該条件で過剰な体重増加や耐糖能異常が生じる一方で、メスでは体重減少が見られるなど、性別により代謝異常の現れ方が大きく異なりました。さらに、精巣を摘出したオスでは、メスのように体内時計が時差ぼけに対して乱れやすくなり、テストステロンを投与すると強靭性が回復したことから、テストステロンがオス特有の慢性的時差ぼけ反応の鍵であることが解明されました。
本研究成果は、不規則な生活になりがちであるシフトワーカーや夜ふかし習慣のある人などの健康管理において、性差を考慮する重要性を示しています。今後は、体内時計の乱れの性差に基づいた適切な対処法の開発が期待されます。
本研究成果は英国の雑誌「Biology of Sex Differences」に2024年12月5日(木)(日本時間)に掲載されました。
研究者からひとこと
一般的に「時差ぼけで太る」ことが知られていますが、シフトワーカーの肥満・糖尿病リスクの性差に関する統一的な見解はありません。今回、雌雄のマウスを用いて慢性的時差ぼけ条件の影響を調査すると、メスの体重は一般的な認識とは逆に、対照群に比べて減少することが分かりました。人間社会では、これらの生物学的な影響に加えて、食生活やストレスとの関連が重なって複雑な影響が生じていると予想されます。体内時計の乱れの性差に基づいて、食事・栄養・運動・薬剤などを通した適切な対処方法を開発する必要があります。
慢性的時差ぼけ条件における体内時計や代謝異常の性差
論文情報
掲載誌:Biology of Sex Differences
タイトル:Sex-dependent effects of chronic jet lag on circadian rhythm and metabolism in mice
著者名:Tiantian Ma, Ryohei Matsuo, Kaito Kurogi, Shunsuke Miyamoto, Tatsumi Morita, Marina Shinozuka, Fuka Taniguchi, Keisuke Ikegami, Shinobu Yasuo
DOI:10.1186/s13293-024-00679-z
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農学研究院 安尾 しのぶ 教授