HER2陽性の根治切除不能な進行・再発唾液腺癌を適応症として
2022-01-07 北海道大学病院,日本医療研究開発機構
ポイント
- 北海道大学病院が主導したHER2※1陽性の根治切除不能な進行・再発唾液腺癌を対象とした、国内第Ⅱ相・医師主導治験の結果による承認
- 標準的な薬物療法が確立していない唾液腺癌に対して、個別化治療のアプローチによる初の医薬品として抗HER2薬「ハーセプチン※2」適応拡大の承認
- 治療薬と同時に、治療薬の適応判定を補助するコンパニオン診断薬の承認
概要
希少癌で標準的な薬物療法が確立していない唾液腺癌では、新規治療薬の開発が切望されています。
2021年11月25日にハーセプチン(一般名:トラスツズマブ(遺伝子組換え))がHER2陽性の根治切除不能な進行・再発の唾液腺癌を適応症として承認(適応拡大)されました。今回の承認は、HER2陽性の進行・再発唾液腺癌の患者16例を対象に実施された、北海道大学病院主導の国内第II相・医師主導治験(HUON-003-01試験※3)の成績に基づいています。
本治験は、実施に当たり、本院の臨床研究開発センターの支援を受け、ハーセプチンとドセタキセルの併用による有効性および安全性を検討したもので、主要評価項目は奏効率※4であり、有効性解析対象集団15例のうち、60%に奏効が認められました(95%信頼区間:32.3~83.7)。副次評価項目の安全性の評価では、主な有害事象は、好中球数減少、白血球数減少、脱毛症、貧血、口内炎及び低アルブミン血症等でした。治験計画で設定した治療が完了できなかったのは16例中1例のみであり、忍容性も確認されました。
また本医師主導治験の結果に基づき、ハーセプチンの唾液腺癌患者に対するコンパニオン診断薬※5としてHER2 IHCおよびISH検査キットが2021年11月11日に承認されました。医師主導治験において治療薬とともにコンパニオン診断薬が同時開発・同時薬事承認された例は国内初となります。
1.唾液腺癌に対する適応拡大に伴い、ハーセプチン(中外製薬株式会社)の添付文書に追加された情報は以下のとおりです。
- 効能又は効果
- HER2陽性の根治切除不能な進行・再発の唾液腺癌
- 用法・用量
- HER2陽性の根治切除不能な進行・再発の唾液腺癌にはドセタキセル製剤との併用でB法を使用する。
- B法:通常、成人に対して1日1回、トラスツズマブ(遺伝子組換え)として初回投与時には8mg/kg(体重)を、2回目以降は6mg/kgを90分以上かけて3週間間隔で点滴静注する。
なお、初回投与の忍容性が良好であれば、2回目以降の投与時間は30分間まで短縮できる。
2.上記上記適応拡大に伴い、HER2 IHCおよびISH検査キット(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)の添付文書に追加された情報は以下のとおりです。
キット | 製品名 | 使用目的 |
---|---|---|
HER2 IHC検査キット | ベンタナ ultraView パスウェーHER2(4B5) | がん組織又は細胞中のHER2タンパク(HER2)の検出(トラスツズマブ(遺伝子組換え)の唾液腺癌患者への適応を判定するための補助に用いる)。 |
HER2 ISH検査キット | ベンタナDISH HER2キット | がん組織又は細胞中のHER2遺伝子増幅度の測定(トラスツズマブ(遺伝子組換え)の唾液腺癌患者への適応を判定するための補助に用いる)。 |
用語の説明
- ※1 HER2(ハーツー)
- 細胞表面に存在する受容体型糖タンパク質で、「ヒト上皮細胞増殖因子受容体2型」の略。HER2タンパク質は正常細胞において細胞の増殖・分化などの調節に関与している。HER2をコードする遺伝子に異常が起こると、HER2タンパク質が過剰に産生され、細胞の増殖・分化の制御ができなくなり、細胞は悪性化する。
- ※2 ハーセプチン(一般名:トラスツズマブ(遺伝子組換え))
- 乳癌や胃癌で既に承認されているHER2を標的とする抗体薬の販売名。
- ※3 HUON-003-01試験実施施設
- 北海道大学病院、宮城県立がんセンター、国際医療福祉大学三田病院、名古屋市立大学病院、神戸大学医学部附属病院(全国5施設)。
- ※4 奏効率
- 治療効果があらわれた割合。治療効果があらわれた症例数を治療した症例数で割ったもので、治療効果を判定する際に用いられる。
- ※5 コンパニオン診断薬
- 特定の治療薬の有効性や安全性を一層高めるために、その使用対象患者に該当するかどうかなどをあらかじめ検査する目的で使用される診断薬。
本研究への支援
本医師主導治験は、日本医療研究開発機構(AMED)「早期探索的・国際水準臨床研究事業『HER2過剰発現・遺伝子増幅腫瘍あるいはHER2遺伝子変異陽性腫瘍に対する個別化治療の開発』」(2014~2016年度、分担研究開発課題代表者:秋田弘俊)、「臨床研究・治験推進研究事業『HER2陽性再発転移の唾液腺癌に対する個別化治療の開発』」(2017~2019年度、研究代表者:秋田弘俊)の研究費を用いて実施しました。
お問い合わせ先
北海道大学病院 腫瘍内科 木下一郎
配信元
北海道大学病院総務課総務係
AMED事業に関すること
日本医療研究開発機構 シーズ開発・研究基盤事業部 拠点研究事業課
革新的医療技術創出拠点担当
日本医療研究開発機構 創薬事業部 規制科学推進課
臨床研究・治験推進研究事業担当