2022-06-20 京都大学
キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法は、本邦で2019年に承認されて以来、全国的に症例数が急激に増加しています。CAR-T療法は、数多くのステップを経て完遂する治療で、その成功には各ステップの最適化が重要です。なかでも患者さんからT細胞と呼ばれるリンパ球を採取する「リンパ球アフェレーシス」はCAR-T細胞療法成功の重要な鍵となります。
城友泰 医学部附属病院助教、新井康之 同助教と、足立壯一 医学研究科教授、髙折晃史 同教授、長尾美紀 同教授らの研究グループは、同病院血液内科・小児科を含む2施設で白血病と悪性リンパ腫を標的としたCAR-T細胞療法であるチサゲンレクルユーセル(tisagenlecleucel, tisa-cel)治療を目的にT細胞採取を実施された108症例を対象に、その採取効率に影響する因子を解析しました。その結果、貧血の存在、血液中のT細胞数と血小板数の値が高いと採取効率を有意に低下させることが分かりました。この解析を踏まえて、CAR-T細胞作製に十分な数のT細胞を得るのに必要なアフェレーシス量を事前に簡便に算出できる早見図(ダイアグラム)を作成しました。これにより、「貧血症例における採取前の赤血球輸血の判断」や、「患者毎の血液処理量の最適化」が可能となり、特にT細胞著減症例におけるCAR-T適格性の判断と採取効率化につながるものと考えられます。また、CAR-T細胞療法のリンパ球採取における研究結果は、本邦発のリアルワールドデータとして、CAR-T療法の最適化を目指した戦略作りに役立つことが期待されます。
本研究成果は、2022年4月20日に、移植・細胞療法学会の学会誌「Transplantation and Cellular Therapy」にオンライン掲載されました。
本研究の概念図
研究者のコメント
「CAR-T細胞療法は難治性造血器腫瘍に対して高い効果が期待できる治療法ですが、治療を成功させるためには、多くのステップを最適化していく必要があり、特に第一ステップであるリンパ球採取が最も重要と考えます。今回、リアルワールドでの患者さんのデータを解析することで、日常臨床に応用可能な形でリンパ球採取の効率化についての知見を得ることが出来ました。この研究により、多くの患者さんにCAR-T細胞療法をタイムリーに提供することができ、最終的には本疾患の治療成績向上につながることを期待しています。」(城友泰、新井康之)
研究者情報
研究者名:城 友泰
研究者名:新井 康之
研究者名:足立 壯一
研究者名:髙折 晃史
研究者名:長尾 美紀