慢性腎臓病を有する発症時刻不明脳梗塞の静注血栓溶解療法:国際共同統合解析EOSの副次解析

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2022-09-09 国立循環器病研究センター

国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)の豊田一則副院長、古賀政利脳血管内科部長らが参加した国際研究チームによる、国内外の4つの無作為割付試験(治療内容を無作為に割り当てて治療効果を調べる試験)をまとめた統合解析を用いて、国循脳血管内科の三輪佳織医長、古賀政利部長らのグループが、慢性腎臓病の患者に対する静注血栓溶解療法の有効性と安全性を解明しました。この研究成果は、米国心臓協会(AHA)機関誌「Stroke」に公表し、オンライン版に2022年8月23日に掲載されました。

■背景

急性期脳梗塞に対し、高い治療効果を示す治療法として、遺伝子組み換えによる組織型プラスミノゲン・アクティベータ(tPA)を用いた静注血栓溶解療法(以下、tPA静注療法)があります。発症後4.5時間以内の患者に使用できますが、4.5時間を超えた患者に対しては用いることが出来ません。脳梗塞患者の約2割は、睡眠中に発症して朝起床時に症状に気づいたり、会話やコミュニケーションが困難となった状態を他者に発見されるなどのケースであるため、正確な発症時刻が分からず、tPA静注療法を受けることが出来ませんでした。このような発症時刻不明の脳梗塞患者に対して、専門的な頭部画像診断を用いて発症時刻を推測した後に、治療適応のある患者にtPA静注療法の治療効果を確かめる臨床試験が国内外で行われました。EOS(Evaluation of unknown Onset Stroke thrombolysis trials)研究では、これらの無作為割付試験の個別臨床情報を統合したメタ解析とシステマティックレビューを行い、発症時刻不明脳梗塞患者に対し、tPA静注療法は転帰改善に有効であることを解明し、2020年のLancet誌に報告しました(Götz Thomalla, et al. Lancet 2020; 396: 1574–84)。本研究は、EOS 研究の個別臨床情報を用いて、慢性腎臓病を対象疾患とするサブ解析研究を行いました。慢性腎臓病患者は、健常人に比べ、脳卒中発症リスクが2倍高く、さらに脳卒中後の予後不良と関連します。このように慢性腎臓病を合併する患者は、ハイリスク患者であるため、とくに腎機能低下の進行例や透析患者は臨床試験から除外されることが多く、慢性腎臓病を対象としたtPA静注療法の効果を検証した報告はありませんでした。

■研究手法と成果

「発症時刻不明の脳梗塞患者に対するtPA静注療法と対照治療の無作為化比較を、専門的な頭部画像診断(脚注*)を用いた患者選定に基づいて行う」という条件を満たす4つの臨床試験を統合したEOS研究のデータセットを用いました。欧州で行われたWAKE-UP試験と、わが国のTHAWS試験(THrombolysis for Acute Wake-up and unclear-onset Strokes with alteplase at 0.6 mg/kg)、豪州を中心に行われたEXTEND試験と欧州で行われたECASS-4試験が含まれています。このうちTHAWS試験は、日本医療研究開発機構(AMED)の研究助成を受けて、国循を中心に国内多施設共同で行われ、主解析論文はStroke誌に報告しています(Koga M, et al: Stroke 2020;51:1530-8)。
EOS研究の全登録症例843例のうち、入院時血液検査が入力された688例を本研究の対象としました。血清クレアチニン値から、腎機能の指標である推定糸球体濾過量(eGFR)を算出し、eGFR 60 ml/min/1.72m2未満を「慢性腎臓病の既往あり」、eGFR 60mL/min/1.73 m2以上を「慢性腎臓病の既往がない」と分類しました。慢性腎臓病の既往がある146例(21%)とその既往のない542例(79%)に対し、tPA静注療法の有効性と安全性をそれぞれ検証しました。
発症90日後の患者自立度を、図1に修正ランキン尺度(0 [後遺障害なし] ~ 6 [死亡]の7段階の評価法)を用いて示します。慢性腎臓病の患者において、完全自立の状態とみなされる同尺度の0または1の割合は、実薬群46%、対照群(偽薬または従来治療)36%で、年齢や初期脳卒中重症度の補正した後のオッズ比は1.19となり、tPAを用いることで約20%増の転帰改善の傾向が得られました(図2)。安全性評価については、症候性頭蓋内出血は実薬群2例(3%)、対照群0例、死亡は実薬群3例(4%)、対照群2例(3%)でした。
一方で、慢性腎臓病の既往のない患者において、修正ランキン尺度の0または1の割合は、実薬群51%、対照群43%で、年齢や初期脳卒中重症度の補正した後のオッズ比は1.42と同じくtPAを用いることで約40%増の転帰改善の傾向が得られました(図2)。安全性評価については、症候性頭蓋内出血は実薬群5例(1.8%)、対照群1例(0.4%)、死亡は実薬群15例(5%)、対照群6例(2%)でありました。
慢性腎臓病の登録症例数が少数であるため、統計学的な有意確率は得られなかったものの、対照と比べてtPA静脈療法の転帰改善効果が示唆され、また安全性の群間差も許容範囲内でした。

■今後の展望と課題

本研究は世界で初めて、慢性腎臓病を合併する急性期脳梗塞患者におけるtPA静注療法の治療効果を検証した報告です。慢性腎臓病の既往にかかわらず、急性期脳梗塞に対するtPA静注療法の有効性と安全性が示唆されました。
eGFR<30ml/min/1.73m2以下の慢性腎臓病は9名と登録が少なく、さらに維持透析患者は研究に含まれなかったため、重度の慢性腎臓病や透析患者を対象とした今後の検証が必要です。

■発表論文情報

著者:Kaori Miwa; Masatoshi Koga; Märit Jensen; Manabu Inoue; Sohei Yoshimura; Mayumi Fukuda-Doi; Florent Boutitie; Henry Ma; Peter A. Ringleb; Ona Wu; Lee H. Schwamm; Steven Warach; Werner Hacke; Stephen M. Davis; Geoffrey A. Donnan; Christian Gerloff; Götz Thomalla; Kazunori Toyoda; on behalf of Evaluation of Unknown Onset Stroke Thrombolysis Trials (EOS) Investigators
題名: Alteplase for Stroke With Unknown Onset Time in Chronic Kidney Disease: A Pooled Analysis of Individual Participant Data
掲載誌: Stroke

■謝辞

本研究の解析対象論文となったTHAWS試験は、下記機関より資金的支援を受け実施されました。
・AMED循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策実用化研究事業「発症時刻不明の急性期脳梗塞に対する適正な血栓溶解療法の推進を目指す研究」

(脚注*)頭部画像診断方法には「DWI-FLAIRミスマッチ」や「虚血コア灌流異常ミスマッチ」を用いました。
「DWI-FLAIRミスマッチ」:頭部MRIの拡散強調画像(DWI)は脳梗塞発症後30分以内に早期虚血変化を示します。MRIのFLAIR画像で異常所見として現れるには4~5時間が必要です。したがって両者に差がある場合、発症後おおよそ4.5時間内の脳梗塞と考えます。頭部MRIの拡散強調画像(DWI)での早期虚血所見がFLAIR画像で明らかではない「DWI-FLAIRミスマッチ」と呼びます。
「虚血コア灌流異常ミスマッチ」:DWIまたはCTでの早期虚血所見とそれを含めた灌流画像での低灌流部位の差(ペナンブラ所見)が一定のサイズを超えて存在する所見を指します。tPA治療によって救済される可能性のある領域(ペナンブラ)が相当に存在すること示します。

(図1)慢性腎臓病の既往別の90日後患者自立度(修正ランキン尺度)
慢性腎臓病を有する発症時刻不明脳梗塞の静注血栓溶解療法:国際共同統合解析EOSの副次解析

(図2)慢性腎臓病の既往別におけるtPA静注療法の有効性

(調整OR比:年齢と初期脳卒中重症度で調整)


報道関係の方からのお問い合わせ

国立循環器病研究センター企画経営部広報企画室

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